第3章ー① 初仕事
前章までのあらすじ
皇帝との戦いの末敗れたロゼッタは捕らえられたが、ホーゲルの依頼したαチームにより救出される。
彼らと行動する間、ロゼッタは彼らから ”生きる術”を学ぶ。
様々なことを彼から教わり、経験し、ロゼッタは少しずつ剣闘士しかできなかった生き方から脱却していき、そして ”ハンター” という生き方を知る
αチームはロゼッタとともに、かつて仕事をしたこともある ”グレイヴ” のもとに向かい、彼女を託す
ロゼッタはハンターとして生きていくためにギルドへ登録した。
ロゼッタ・スカーレット ハンターランクF
彼女の新たな人生は、始まったばかりである。
その、胸にはαチームから貰った ”徽章” が輝いていた
ハンターギルドの朝は、思っていた以上に騒がしかった。
夜明けと同時に酒場の名残を引きずった者たちが引き上げ、入れ替わるように新しい依頼書が掲示板へ貼られ、金属と革の擦れる音が絶えず建物の中に反響している。
ロゼッタは、入口近くでしばらく立ち止まり、その熱気に飲み込まれないよう深く息を吸った。
胸の内側で、鼓動が少し速くなる。
だがそれは、闘技場で戦いの合図を待っていた時の高揚とは違う、不安と責任が混じった鼓動だった。
「……初仕事」
小さくつぶやき、掲示板へ近づく。
依頼書には文字がぎっしり並び、報酬額と危険度が赤い印で示されている。
ロゼッタは、教えられた通り、まず一番下の列を見る。
最低ランク向け、討伐対象は一体、場所は街道近くの森。
「……これなら」
指で依頼書を押さえ、受付へ向かう。
受付の女性はロゼッタを見ると、一瞬だけ動きを止めた。
子どもに見える外見、最低ランクの登録証、そして右腕を隠す装備。
「一人?」
「……はい」
「討伐依頼だけど……大丈夫?」
その心配は、職務的なものでもあり、個人的なものでもあった。
ロゼッタは、はっきりと頷く。
「はい。……逃げ道も、考えています」
受付の女性は、少し困ったように笑い、依頼書を通した。
「無理はしないで。戻ることも、仕事だから」
その言葉を、ロゼッタは胸に刻む。
森へ向かう道は、朝の光が木々の間から差し込み、静かすぎるほどだった。
足音を殺し、周囲を観察しながら進く。
闘技場とは違い、敵は正面から出てくるとは限らない。
(……音)
枝の折れるかすかな音。
風ではない。
ロゼッタは、その瞬間に身を低くし、木陰へ滑り込む。
心臓の音が大きくなるが、呼吸は乱さない。
姿を現したのは、野生化した獣型の魔物だった。
鋭い牙、筋肉質の脚、油断すれば一撃で致命傷になる。
ロゼッタは、距離を測る。
正面からぶつかれば勝てる。
だが、怪我をすれば次がない。
(……焦らない)
一歩、横へ。
魔物が唸り声を上げ、突進してくる。
ロゼッタは真正面ではなく、わずかに斜めに踏み込み、攻撃の軌道をずらす。
右腕の補助機構が駆動音を立て、身体を強く支えた。
刃が、獣の肩口を裂く。
返す刃で距離を取る。
魔物は怒り狂い、爪を振り下ろす。
ロゼッタは転がるように回避し、地面を蹴って立ち上がる。
(……闘技場とは、違う)
観客も、合図も、休憩もない。
失敗すれば、ただ死ぬだけ。
それでも、身体は自然に動いていた。
αチームに教えられた「生き残る戦い方」が、ここで活きている。
最後の一撃は、迷いなく。
魔物が倒れ、土煙が静かに落ちる。
ロゼッタは、すぐには近づかず、しばらく距離を保った。
完全に動かないことを確認してから、ようやく息を吐く。
「……終わりました」
素材の剝ぎ取りは、思った以上に大変だった。
血と獣臭に顔をしかめながらも、ナイフを入れる位置を慎重に選ぶ。
使える部分、報酬になる部分、それ以外。
(……無駄にしない)
時間はかかったが、丁寧に終える。
ギルドへ戻る頃には、日が高くなっていた。
血の匂いを洗い流しても、装備の傷は隠せない。
受付に素材を差し出すと、女性は目を見開いた。
「……一人で?」
「はい」
素材を確認し、頷く。
「ちゃんと仕事、してきたのね」
その声は、少しだけ誇らしげだった。
報酬を受け取る頃には、周囲の視線が集まり始めていた。
最低ランクの札を下げた少女が、きちんと討伐を終えて戻ってきた。
囁き声が、あちこちで生まれる。
「……新人だよな?」
「一人で、あれを?」
ロゼッタは、その視線を正面から受け止めることはできず、少しだけ俯いた。
だが、逃げなかった。
登録証と報酬袋を握りしめ、胸の奥が、じんわりと温かくなる。
初仕事は、派手ではない。
英雄的でもない。
けれどそれは確かに、
ロゼッタ・スカーレットが、ハンターとして世界に認められた最初の一日だった。
第3章 ハンター編です。
友人より「登場人物が少なすぎ、しかも萌えが足らん」と叱られた為、バシバシ登場させていこうと思います。これまであまりなかったロゼッタの ”変化” もしっかり描いていきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
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