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第2章ー最終話 それぞれの旅立ち

第2章最終話です。少し長めですがよろしくお願いします。

ハンターギルドの建物を出ると、昼の光は思ったよりも強く、石畳の上にくっきりと影を落としていた。

人の往来は増え、街は相変わらず騒がしいのに、その一角だけ、妙に静かだった。


ロゼッタは、ギルドの前に立ったまま動けずにいた。

胸元には登録証。

腰には、αチームが整えてくれた装備。

そして背後には、ここまで一緒に歩いてきた四人の男たち。


誰も、すぐには口を開かなかった。


別れというのは、いつもそうだ。

来ると分かっていても、最初の言葉だけが、どうしても重い。


バルカが、最初に一歩前へ出た。

その背中は、いつもと同じようにまっすぐで、頼もしくて、――だからこそ、ロゼッタの胸が締めつけられる。


「ここまでだ」


短い言葉だった。

余計な説明も、感傷もない。


ロゼッタは、ゆっくりと頷いた。

分かっていた。

ここが、そういう場所だということを。


「……ありがとうございました」


声を出した瞬間、喉が少し詰まる。

それでも、目は逸らさなかった。


「助けてくれて、教えてくれて……私を、ここまで連れてきてくれて」


ベルベットが、わざと軽い口調で割り込む。


「ま、ギルドの飯が不味かったら文句言いに来い。紹介料くらいは取ってやる」


ロゼッタは、くすっと小さく笑った。

それを見て、ベルベットは内心ほっとする。


モヒカンは腕を組んだまま、しばらく黙っていたが、やがて低く言った。


「装備は……まだ直せる余地はある。無理はするな」


「はい」


「壊れたら直せ。直せなきゃ、捨てろ。命より重い部品なんてねぇ」


モヒカンは何も言わず、ロゼッタの頭にそっと手を置いた。

その大きな手は、不器用だが、確かに温かい。

その言葉は荒いが、どこまでも実用的で、そして優しかった。


ドグは、少し照れたように視線を逸らしながら言う。


「武器はな、持ちすぎるな。いざって時に選べなくなる。

それと……壊れる前提で使えっての、忘れんなよ」


「……はい」

ロゼッタは、言葉が詰まって、すぐには返事ができなかった。

胸がいっぱいで、喉が熱い。


それでも、はっきりと顔を上げる。

ロゼッタは、一人一人の顔をしっかりと見る。

忘れないために。

声も、表情も、全部。


そして、最後にバルカを見る。


「……私、まだ怖いです」


その言葉に、誰も笑わなかった。


バルカは、少しだけ目を細める。


「怖さを捨てたら、判断を誤る。

それを分かってるなら、もう大丈夫だ」


正直な言葉だった。

強がらず、飾らず、今の自分をそのまま差し出す。



バルカが、静かに前へ出る。


「ロゼッタ」


名を呼ばれ、彼女は背筋を伸ばす。


「俺たちは、お前を送り出す。

それは見捨てるって意味じゃない」


バルカは懐に手を入れ、小さな金属片を取り出した。


それは、擦り傷だらけの徽章だった。

αチームの紋章が刻まれている。


「これは……」


ロゼッタの目が見開かれる。


「持っていけ」


ドグが、少し照れくさそうに言う。


「元は俺たちの“帰る場所”の印だ」


モヒカンは短く頷く。


「困ったら、思い出せ。

お前には、背中を預けた奴らがいる」


ベルベットは、にやりと笑う。


「貸すんじゃねえ。やるんだ。

返しに来る義理もない」


ロゼッタは、両手で徽章を受け取った。

冷たいはずの金属が、なぜか温かく感じられる。


「……宝物、です」


声が震える。


「私……家族なんて、もう無いと思っていました」


そう言った瞬間、涙がこぼれそうになり、慌てて目を伏せる。


バルカは、そっと言った。


「思い出せるなら、あったってことだ」


ロゼッタは、深く息を吸い、顔を上げる。


「……行ってきます」


ベルベットが軽く手を振る。


「行ってこい。

生き残るのが、いちばんの親孝行だ」


ドグは笑う。


「無茶はすんなよ。

無茶するときは、勝てる算段つけてからだ」


モヒカンは、最後にロゼッタの頭に手を置いた。


「強くなれ。

でも、優しさだけは、捨てるな」


「皆さんは……私の、初めての……」


言葉に詰まる。


ドグが、先に言った。


「家族だろ」


その一言で、ロゼッタの目が潤む。


バルカは、最後にロゼッタの前に立ち、静かに言った。


「ロゼッタ・スカーレット」


名を呼ばれることが、こんなにも温かいとは思わなかった。


「生きろ。迷ったら、戻ってこい。場所は変わっても、俺たちは消えない」


ロゼッタは頷き、徽章を胸にしまう。


「ロゼッタ・スカーレットは……生きます そして、また……」


「……行ってきます」


「行ってこい」


誰も引き止めなかった。

それが、家族としての選択だった。


ロゼッタは一歩、前へ出る。

その背中に、αチームの視線が重なる。


振り返らずに歩きながら、胸元の徽章にそっと触れる。

そこには、確かにあった。


失われた家族の代わりではない。

だが、生きる理由としての温もりが。


背を向けて歩き出す、その小さな背中を、αチームは黙って見送った。

足音が遠ざかり、人混みに溶けていく。


一歩。

また一歩。


石畳を踏みしめるその歩幅は、まだ小さい。

だが、確かに自分の意志で進いている。


αチームは、その背中を見送った。

追いかけることも、声をかけることもなく。

背を向けて歩き出す、その小さな背中を、αチームは黙って見送った。

足音が遠ざかり、人混みに溶けていく。


モヒカンが、気まずさをごまかすように軽く咳払いをする。


「……こういうの、慣れてねえな」


ドグが鼻で笑う。


「お前は特にだろ。別れ話すると、顔に出る」


「うるせえ」


ドグがぽつりと呟く。


「……結婚した娘を見送る、父親の気分ってたぶんこんな感じなんだろうな」


ベルベットが鼻で笑う。


「俺はそんな立派じゃねぇよ。

でも……昔、妹を駅まで送った時を思い出した」


バルカは、少しだけ視線を落とし、低く言った。


「守れなかった家族を、今さら取り戻せるわけじゃない」


沈黙が落ちる。


「だが……守る“やり方”を、次に渡すことはできる」


ベルベットが、ゆっくり頷く。


「そういうの、嫌いじゃない」


ドグは苦笑する。


「ガキが生き延びてくれりゃ、それで帳消しだ」


モヒカンは、拳を一度だけ握り、開いた。


「……生きろよ」


その言葉は、ロゼッタに向けたものでもあり、

かつて守れなかった誰かへの、遅すぎた祈りでもあった。


バルカは、歩き出しながら言う。


「死ねない ”理由” が増えたな」


誰も振り返らない。

だが、全員が同じ方向を向いていた。


αチームは、また動き出す。

胸の奥に、少しだけ温かい痛みを残したまま。


それは、別れの痛みであり、

同時に――確かに“家族だった”証だった。


ロゼッタ・スカーレット。

最低ランクのハンター。


そして――

αチームが、初めて「手放した」存在。


バルカが言った

「行くぞ、次の仕事だ」


別れは静かだった。

だが、それは終わりではなく、

それぞれが生き続けるために必要な、確かな始まりだった。

第2章これにて完結です。次の章は ”新人ハンター” ロゼッタ・スカーレットの奮闘を描いていきます。

引き続きよろしくお願いいたします。



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