第2章ー㉕ 剣闘士ゆえの ”弱点”
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
戦闘の余熱がまだ地面に残っているにもかかわらず、その場の空気は不思議なほど静まり返っていた。
街外縁に散らばった薬莢は、朝日に照らされて鈍く光り、砕けた装甲片はまるで古い墓標のように無言で転がっている。
ロゼッタは立っていた。
剣を下げ、息を整え、次の指示を待つように背筋を伸ばしている。
闘技場で身についた「戦いの後の姿勢」そのままだ。
誰もすぐには声をかけなかった。
αチームも、グレイヴも、彼女が無事であることに安堵しながら、同時に同じ違和感を胸に抱えていた。
――生き残れたのは、運が良かっただけではないか。
その疑念が、誰の目にも浮かんでいる。
「……まず、確認する」
グレイヴが、ようやく口を開いた。
その声は低く、命令でも叱責でもなく、戦場の総括を始める者の声だった。
「ロゼッタ。
お前は、あの瞬間、何を最優先に考えた?」
ロゼッタは、即答する。
「敵を止めることです」
迷いはない。
だがその答えに、誰も頷かなかった。
「それがな……」
ドグが頭を掻き、少し困ったように笑う。
「剣闘士なら、満点だ」
その言葉に、ロゼッタは一瞬だけ救われたような表情を浮かべる。
だが、続く言葉が、その表情をすぐに曇らせた。
「でも、ハンターなら赤点だ」
グレイヴは、ロゼッタが踏み出した地点まで歩き、足元の瓦礫を蹴って音を立てる。
「お前は、ここから飛び出した。
敵の動作を見て、間合いを詰めて、剣を入れた」
一つ一つ、丁寧に再現する。
「だが、その瞬間――
お前は三方向から撃たれる可能性を、計算していなかった」
ロゼッタの喉が鳴る。
「……重火器、ですか」
「そうだ」
ベルベットが、瓦礫の影を指で示す。
「銃は、剣より早い。
大砲は、反応そのものを無意味にする」
彼は視線だけで、ロゼッタの立ち位置をなぞる。
「お前は、見られてから動いた。
それは“闘技場の美しい動き”だ」
一拍。
「だが、外の世界じゃ、
“死ぬ動き”でもある」
ロゼッタは、拳を強く握る。
闘技場では、隠れる場所はなかった。
正面から向き合い、倒す以外に生きる術はなかった。
モヒカンが、壊れた銃身を拾い上げ、ロゼッタの前に置く。
「これが相手だったらどうする?」
ロゼッタは、答えに詰まる。
「……近づきます」
「だよな」
モヒカンは苦笑する。
「それが癖だ。
剣闘士は“前に出る癖”が命取りになる」
その沈黙を、バルカが静かに引き取った。
「ロゼッタ」
彼は一歩近づき、視線の高さを合わせる。
「お前は、戦いを“終わらせる”ことしか教わっていない」
ロゼッタは、はっとする。
「だが、ハンターは違う。
戦いを“始めない”選択肢を持つ」
その言葉が、ゆっくりと染み込む。
「撃たれる前に下がる。
撃つ前に隠れる。
倒さずに通り過ぎる」
バルカは、短く息を吐いた。
「それは、弱さじゃない。
“生き残るための判断”だ」
ロゼッタは、俯いたまま呟く。
「……闘技場では、
逃げた時点で負けでした」
その言葉に、誰もすぐには答えなかった。
やがて、グレイヴが言う。
「ここでは違う」
「ハンターは、腕一本で成り上がれる」
彼の声は、経験の重みを帯びている。
「だがその腕は、
剣だけじゃない」
バルカが、最後に告げる。
「選ぶ腕だ」
「生きるために、
何を捨て、何を守るかを選ぶ腕だ」
ロゼッタは、ゆっくりと顔を上げた。
「……教えてください」
その声は、以前よりも静かで、しかし確かだった。
「剣闘士じゃなく、 ”生き残る者” としての戦い方を」
バルカは、短く頷いた。
「いいだろう」
「ただし――」
一拍。
「楽な道じゃない」
ロゼッタは、はっきりと答えた。
「……それでも、生きたいです」
その言葉を聞いた瞬間、
αチームとグレイヴは確信した。
この少女は、まだ未完成だ。
だが――
教えを請い 学び 実践しようとする意志
それは何物にも代えがたい ”才能” だった
第2章ー㉖へ続く
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