第2章ー㉔ 鉄の亡霊 ――旧文明機械種・街外縁襲撃事件
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
警鐘は、夜明け前の街に似合わないほど低く、重く鳴り響いた。
それは鐘というより、金属が引き裂かれるような音で、街の外縁に積もっていた静寂そのものを無理やり剥ぎ取っていく。
「……来たか」
ギルド本部の屋上で空気を読んでいたグレイヴが、遠くの地平を睨みながら、短くそう呟いた。
ロゼッタにはまだ見えない。だが、空気が違う。夜明けの冷気に、油と焦げた鉄の匂いが混じり始めている。
次の瞬間、地面が揺れた。
否、揺れたのは大地ではなく、“何かが歩いている”衝撃が街に届いたのだ。
「旧文明の残骸が、動き出したか……」
ベルベットが帽子の影から目を細め、口元だけで笑う。
「嫌な予感しかしねぇな」
ドグは肩を鳴らしながら、即席で組み上げた重火器を抱え直す。
モヒカンはすでに倉庫から引っ張り出した鉄材を地面に広げ、目を輝かせていた。
「動く鉄屑か。
壊し甲斐がありそうだぜ……!」
グレイヴは剣を手に取らない。
だが腰の古い義足を一度踏み鳴らし、街の方へ向けて低く声を放った。
「総員、退避路を確保しろ。
ハンターは街を守る。
逃げ遅れた者を、絶対に置き去りにするな」
その声は怒鳴り声ではない。
だが逆らう余地を一切許さない、かつて部隊を率いていた者の声だった。
そして――
霧の向こうから、それは現れた。
旧文明機械種。
鋼鉄の骨格に、異形の関節。
本来なら何百年も前に停止しているはずの戦争機械が、歪んだ命令のまま再起動している。
胴体には古い帝国以前の紋章。
だが、その目に灯る赤い光は、何も識別していない。
「……闘技場の、獣と同じ」
ロゼッタの喉が、わずかに鳴った。
観客も、歓声もない、ただ壊すためだけの存在。
「ロゼッタ」
バルカが、静かに名を呼ぶ。
「今日は“生き残る戦い”だ」
ロゼッタは、はっきりと頷いた。
「……了解」
■ 共闘
機械モンスターの腕が振り下ろされ、街外縁の石壁が紙のように砕け散る。
逃げ遅れたハンターが転び、悲鳴が上がる。
「ドグ!」
「任せろ!」
ドグの即席砲が火を噴き、爆風が機械の脚部を包む。
だが装甲は厚く、火花を散らすだけで完全には止まらない。
「ちっ、硬ぇ!」
「なら、関節だ!」
グレイヴの声が飛ぶ。
彼は剣を抜かないまま、敵の動きを“読んで”いる。
「左脚、第二関節!
駆動音が遅れている!」
その瞬間、モヒカンが吠えた。
「了解だ、隊長ッ!」
即席で組んだワイヤー付き爆薬が投げ込まれ、関節部で炸裂する。
金属が悲鳴を上げ、機械の動きが一瞬止まる。
「今だ!」
ロゼッタは、考えるより先に走っていた。
闘技場で染みついた距離感覚が、自然と最短の軌道を選ばせる。
跳ぶ。
踏み込む。
剣を突き立てる。
装甲の隙間から火花が噴き、赤い光が揺らぐ。
「……効いてる!」
ベルベットが笑う。
「この子、やっぱ普通じゃねぇな」
だが次の瞬間、機械の胴体が回転し、ロゼッタを弾き飛ばそうとする。
「ロゼッタ!」
グレイヴが前に出た。
剣を抜かず、体ごとぶつかる。
衝撃で二人とも地面を滑るが、ロゼッタは転ばなかった。
グレイヴの腕が、確かに彼女を守っていた。
「……立てるか」
「……はい!」
そのやり取りに、バルカがわずかに目を細める。
(ああ……)
(やはり、この男なら)
■ 街を守る者
最終的に、機械モンスターは街外縁で崩れ落ちた。
火花を散らし、命令の残滓を吐きながら、ただの鉄屑へと戻っていく。
朝日が昇り、街が静けさを取り戻す。
グレイヴは、瓦礫の前に立ち、深く息を吐いた。
「……被害は最小だ」
「死人も出てねぇ」
ドグが肩を回す。
「上出来だな」
ロゼッタは、剣を下ろし、グレイヴを見上げた。
「……ありがとうございました」
グレイヴは、短く笑った。
「礼を言うのは、
街が守られた後でいい」
そして、バルカを見る。
「……確かに」
「この子は、
ここで生きられる」
バルカは、ゆっくりと頷いた。
「だからこそ――」
「託すには、
覚悟がいる」
二人の視線が、静かに交わる。
ロゼッタはまだ知らない。
だがこの夜、
αチームとグレイヴは、同じ戦場に立った。
それは別れの前兆ではなく、
“信頼が成立した証”だった。
第2章ー㉕へ続く
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