第2章ー㉓ 託せる者 ――街を束ねる手、剣を置いた背中
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ハンターギルドの街は、昼と夜でまるで別の顔を見せる。
昼は依頼の紙が剥がれ落ち、金属と汗の匂いが漂う生存の場。
夜は酒と傷と過去が滲み出る、語られなかった歴史の集積地だ。
バルカは、夜の街路を歩きながら、何度か視線を左右に走らせていた。
尾行を警戒しているのではない。
この街の“流れ”を確認しているのだと、ロゼッタには分かった。
「……ここだ」
彼が足を止めたのは、ギルド本部から少し離れた、石造りの古い建物だった。
看板は擦り切れ、文字も半分ほど欠けている。
酒場なのか、集会所なのか、外からは判然としない。
だが、入口の前に立った瞬間、ロゼッタは感じた。
ここには――
ただ者ではない人間が集まる空気がある。
中に入ると、騒がしさは意外なほど抑えられていた。
酒の匂いはあるが、無秩序な酔いはない。
壁際には武器が立てかけられ、座っている者たちの多くが、片腕や義足、古傷を抱えている。
そして――
部屋の奥、長いテーブルの向こうに、その男はいた。
大柄だが、筋肉を誇示するような体つきではない。
髪は白く混じり、片目には古い傷跡。
だが背筋は真っ直ぐで、椅子に座っているだけなのに、場の重心がそこにある。
男は、バルカを見るなり、わずかに口角を上げた。
「久しぶりだな」
「……生きてたか」
短い言葉。
それだけで、二人が過去を共有していることが分かる。
「紹介しよう」
バルカはロゼッタに視線を向けた。
「この街のまとめ役だ」
「元・傭兵」
男は立ち上がり、ロゼッタを見下ろす。
その視線は、値踏みではない。
だが甘さもない。
「名は、グレイヴ」
「今は剣を置いた身だが――」
彼は、胸に手を当てる。
「この街の“揉め事”は、
俺が最後に受け持つ」
ロゼッタは、一歩前に出て、はっきりと頭を下げた。
「……ロゼッタです」
その所作を見て、
グレイヴの片眉が、わずかに動いた。
「……軍でも、ギルドでもない」
「妙な礼だな」
ベルベットが軽く笑う。
「育ちが、ちょっと特殊でね」
グレイヴは鼻で笑った。
「そういうのは、
大抵“地獄”だ」
ロゼッタは、否定しなかった。
■ 元傭兵の流儀
酒が運ばれ、
αチームとグレイヴはテーブルを囲む。
周囲のハンターたちは、
遠巻きに様子を見ている。
「この街はな」
グレイヴが口を開く。
「帝国にも、
ギルド本部にも、
完全には属していない」
「だから、
力の均衡が崩れると――」
「すぐ血が流れる」
ドグが頷く。
「だから、
まとめ役が必要だ」
「ああ」
グレイヴはロゼッタを見る。
「そして、
若い力もな」
その言葉に、ロゼッタは背筋を伸ばす。
「……私、まだ」
「知っている」
グレイヴは遮る。
「だがな」
「戦場じゃ、
年齢は言い訳にならん」
「俺は十六で、
部隊を率いた」
「十五で、
仲間を埋めた」
場の空気が、重く沈む。
「だから――」
グレイヴは、
ロゼッタの新しい装備を見る。
「その剣を握る覚悟があるなら、
話は聞く」
ロゼッタは、少し考え、言った。
「……戦うしか、
知らなかった」
「でも」
「……選んで戦うことを、
教わりました」
その瞬間、
グレイヴの目が、僅かに細くなる。
「……あんたか」
彼はバルカを見る。
「面倒なことを、
教えやがったな」
バルカは、肩をすくめた。
「だが必要だ」
「……違いない」
■ 託せる理由
グレイヴは、
しばらく黙ってから言った。
「この街では、
ハンターは腕一本で成り上がれる」
「だが――」
「一人で立ち続けられる者は、
ほとんどいない」
「だから、
俺はここにいる」
「剣を置いたのも、
そのためだ」
ロゼッタは、
彼の背中を見た。
戦わない背中。
だが逃げてもいない。
「……私を」
恐る恐る、言う。
「……預かる、
つもりですか」
グレイヴは、
即答しなかった。
その代わり、
ロゼッタに歩み寄り、
低い声で言う。
「預かるんじゃない」
「見届ける」
「ここで、
お前が何を選ぶかをだ」
バルカは、
静かに頷いた。
「それでいい」
「……託せる」
その一言は、
長い戦場を生き抜いた者の、
最大限の信頼だった。
ロゼッタは、
胸の奥が熱くなるのを感じた。
αチームは、まだここにいる。
だが、確かに――
次の場所への足場が、
今、作られた。
夜の街は、
静かに息づいている。
ロゼッタは思った。
(……ここでなら、
私は“戦う理由”を、
自分で選べるかもしれない)
ロゼッタは
”別れ” が迫っていることを感じていた。
だが、進む道は、
もう見え始めていた。
第2章ー㉔へ続く
イメージとしてはトワイライトウォーリアーズのロン兄貴です。かっこいいですよね。映画見て熱さに目頭が熱くなりました。
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