第2章ー㉒ ハンターギルド
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
街は、帝国領の境界を越えたところにあった。
高い城壁も、煌びやかな塔もない。
だが、石と鉄で組まれた無骨な建物が密集し、路地には油と血と酒の匂いが混じって漂っている。
ここは「守られた街」ではなく、自分で生き延びることを選んだ者たちの集落だった。
ロゼッタは車を降りた瞬間、足を止めた。
「……空気が、違う」
人の数は多い。
だが帝国の都市のような統制も、闘技場のような狂騒もない。
代わりにあるのは、周囲を常に測る視線、武器の重みを身体の一部のように扱う仕草、そして――生き残った者特有の沈黙。
「ここが、ハンターギルドの街だ」
バルカが短く告げる。
通りを歩き始めた瞬間、
周囲の視線が、はっきりとこちらを向いた。
理由は一目で分かる。
αチームが纏う空気が、
あまりにも“場慣れ”しすぎていた。
武器を誇示しない。
威圧もしない。
だが一歩一歩が、即座に殺し合いへ移行できる距離感で刻まれている。
「……何者だ?」
誰かが小さく呟く。
別のハンターが、仲間に耳打ちする。
「帝国兵じゃない……でも、
普通の流れ者でもない」
ベルベットは気づいていたが、気にしないふりをした。
モヒカンは金のネックレスを指で弾き、ドグは街の構造を無意識に記憶している。
バルカだけが、ロゼッタの歩幅をわずかに気にかけていた。
■ ギルド本部
ギルド本部は、石造りの大きな建物だった。
入口には討伐依頼の札が無数に貼られ、血の乾いた武器を持つ者、義手や義足の者、若すぎる者、老いすぎた者、年齢がわからないほど機械化された者が入り混じっている。
受付の男が、αチームを一目見て眉を上げた。
「……登録か?」
「素材の換金と、装備」
バルカが答える。
男は頷き、ロゼッタに視線を向けた。
「……嬢ちゃん、ハンターか?」
ロゼッタは、一瞬だけ言葉に詰まる。
ベルベットがすぐに口を挟んだ。
「見習いだ」
「腕はある」
男は笑った。
「この街じゃ、
腕がすべてだ」
「年も、過去も、関係ない」
「腕一本でいい。
武器を振るえる腕があればな」
その言葉は、
ロゼッタの胸に、静かに落ちた。
■ ロゼッタの装備
鍛冶屋で、
ロゼッタの装備が整えられていく。
軽量化された胸当て。
義手と連動するグリップ。
即席武器ではなく、彼女の身体に合わせて作られた刃。
鍛冶師が、火花を散らしながら言う。
「お前、“元剣闘士”だな」
ロゼッタは、否定しなかった。
「……はい」
「だが」
鍛冶師は刃を渡す。
「ハンターは、過去がどうとか関係ねぇ」
剣を握った瞬間、
ロゼッタは息を呑んだ。
軽い。
振り抜きやすい。
そして――自分の意志で持っている感触が、はっきりとあった。
モヒカンが満足そうに頷く。
「似合ってるぜ」
ドグは義手との接続を確認しながら言う。
「調整は完璧だ。
ハンター基準で作ってある」
ロゼッタは、小さく笑った。
■ 別れの気配
街を歩きながら、
ロゼッタはふと気づく。
αチームの会話が、
少しずつ“先”の話になっていることに。
「この街なら、
信頼できる連中がいる」
「依頼も回る」
「一人でやっていける場所だ」
その言葉が、
胸の奥で重なる。
「……ここは、ずっと一緒ではない場所」
そう、直感した。
夜。
街の灯りを見下ろす場所で、
ロゼッタはバルカの隣に立った。
「……ハンターは」
少し迷ってから、言う。
「……一人でも、生きられますか」
バルカは、すぐには答えなかった。
そして、静かに言った。
「ハンターはな」
「腕一本で、成り上がれる」
「だが――」
「それは、一人で生きろという意味じゃない」
ロゼッタは、黙って聞いていた。
「選べ」
「どこで、誰と、どう戦うか」
「それを選べるようになった時、
お前は本当の意味で自由だ」
ロゼッタは、
新しい装備を見下ろした。
そして、
ゆっくりと頷いた。
街の喧騒の中、
αチームの影は、まだ彼女のそばにある。
だが――
それが永遠ではないことを、
彼女はもう、分かっていた。
第2章ー㉓に続く
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