第2章ー㉑ 殺戮と狩りとの ”違い”
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
――狩りとは、殺して終わりじゃない
怪物が完全に沈黙した後も、しばらく誰も動かなかった。
夜の廃街には、風が瓦礫を転がす音と、冷めきらない金属が軋む音だけが残っている。
ロゼッタは立ち上がり、倒れたモンスターを見下ろしていた。
さっきまでこちらを殺そうとしていた存在が、今はただの“物体”になっている。その変化に、どこか戸惑いがあった。
「……終わった?」
小さくそう呟くと、モヒカンが首を横に振る。
「いいや。
ここからが仕事だ」
ロゼッタが振り返る。
「……仕事?」
ドグはすでにナイフと工具を取り出し、モンスターの死骸の前にしゃがみ込んでいた。
「覚えとけ。
狩りってのはな、倒したら終わりじゃない」
ベルベットが周囲を警戒しながら補足する。
「むしろ、
倒してからが本番だ」
ドグは慣れた手つきで、モンスターの外殻を叩き、音を確かめる。
「……この装甲、
生きてる時より今のほうが扱いやすい」
モヒカンが低く笑う。
「生きてる時にやったら、
食われるからな」
ドグは刃を入れ、装甲板を外し、内部の部品を慎重に取り出していく。
・熱を蓄える器官
・異常に硬化した骨格部
・人工的に組み込まれた制御核
・刃として使えそうな棘
ロゼッタは、
じっとそれを見ていた。
闘技場では、
倒した相手はすぐ片付けられ、
次の戦いへ放り込まれた。
「……全部、使う?」
そう尋ねると、ドグは頷く。
「使えるものは全部だ」
「武器にもなるし、
売れるものもある」
ロゼッタは、少し驚いた。
「……売る?」
その言葉に、ベルベットが顔を上げた。
「知らないか」
ロゼッタは首を振る。
「……聞いたこと、ない」
バルカが、モンスターの残骸を一瞥してから、静かに説明を始めた。
「帝国の外側にはな、
ハンターギルドっていう組織がある」
「国に属さず、
街と契約し、
モンスターを狩る連中だ」
ロゼッタは、目を瞬かせる。
「……兵士では、ない?」
「違う」
バルカは続ける。
「命令じゃなく、
依頼で動く」
「危険な獣、
暴走機械、
帝国が放置した実験体」
「そういうものを処理して、
報酬を受け取る」
モヒカンが、剥ぎ取った棘を振り回しながら言う。
「倒した証拠が必要だろ?」
「だからこうやって、
素材を持ってく」
「それが、
“仕事した”って証明になる」
ロゼッタは、
モンスターの残骸と、
仲間の手元を交互に見た。
「……戦うのは、
生きるため?」
ベルベットが笑った。
「そうだ」
「でも、
誰かに無理やりやらされる戦いじゃない」
「自分で選ぶ戦いだ」
■ ロゼッタの戸惑い
ロゼッタは、
剥ぎ取られた装甲片をそっと触った。
冷たい。
でも、
さっきまでの“敵”ではない。
「……闘技場では」
言葉を探すように、
一拍置いて続ける。
「……倒しても、
何も残らなかった」
「残るのは、
次の戦いだけだった」
一瞬、空気が重くなる。
ドグが、
工具を置いて言った。
「ここは違う」
「倒したら、
ちゃんと“意味”が残る」
「金にもなるし、
装備にもなる」
「何より――」
モヒカンが、低く付け加える。
「生き延びる理由になる」
ロゼッタは、
ゆっくりと頷いた。
「……狩ることで、生きる」
「……選んで、戦う」
その言葉を、
噛みしめるように繰り返す。
ベルベットが、
彼女の頭を軽く叩いた。
「向いてると思うぜ」
「観察力も、勘も、覚悟もある」
バルカは、最後にこう言った。
「覚えておけ、ロゼッタ」
「世界には――」
「檻の中で戦う場所だけじゃなく、
自分の足で立って戦う場所もある」
車に積み込まれた素材が、
金属音を立てる。
エンジンがかかり、
再び闇へ向かって走り出す。
ロゼッタは窓の外を見ながら、
初めて思った。
(……戦うことが、
生きることに繋がる世界も、
あるのかもしれない)
その考えはまだ小さい。
だが確かに、
彼女の中で新しい“道”として芽生え始めていた。
”闘技場” の世界しか知らないロゼッタは、新たな道を少しずつ見つけていきます。
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