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第2章ー⑳ 帝国領脱出――闘技場の記憶と、廃材の刃

行の文章の長さを変えてみました。見にくい場合はご意見ください

帝国領の外縁へと続く旧街道は、夜になると世界そのものが息を潜めたように静まり返る。舗装の剥がれた路面を、αチームの車両はエンジン音を抑えながら進んでいた。遠くで帝国軍の索敵ドローンが飛び交う気配はあるが、今は追跡よりも“別の何か”が、この一帯を支配している。ベルベットが助手席で視線を上げ、低く告げた。


「……嫌な匂いだ」


その直後、地面が揺れた。


振動は一度では終わらず、まるで巨大な何かが地中から這い出してくるように、断続的に、しかし確実に近づいてくる。モヒカンが舌打ちをし、ドグはすでに座席下から即席武器の部品を引きずり出していた。バルカは無言で車を停め、逃走ルートと退路を同時に頭の中で組み立てていく。


闇の奥から姿を現したそれは、生物と機械の境界が完全に破壊された存在だった。


腐食した肉体に無理矢理埋め込まれた装甲板、関節から露出する歯車、刃のように突き出した鋼の棘。四肢で地面を掻きながら進むたびに、瓦礫と骨が砕ける音が響き、口からは蒸気とも呻きともつかない音が漏れる。


その姿を見た瞬間、ロゼッタの呼吸が止まった。


視界が揺れ、別の光景が重なる。


――闘技場。


高い壁、熱狂する観客、砂の匂い、そして檻が開く音。


かつて、彼女が“生き残るためだけに戦っていた場所”の記憶が、血の奥から引きずり出される。あの時と同じだ。理解するより先に、身体が反応する。恐怖も嫌悪もあるが、それ以上に、戦い方を知っている自分が、確かにそこにいた。


「来るぞ!」


モヒカンの声で現実に引き戻される。


ロゼッタはシートベルトを外し、車の後部へ回り込むと、トランクを開けて廃材を掴み出した。錆びたパイプ、歪んだ鉄板、ワイヤー、破損したサスペンションの一部。どれも武器ではない。だが、工夫すれば刃になる。


彼女は義手でパイプを固定し、ワイヤーで鉄板を縛り上げ、即席の槍を組み上げる。その動きに迷いはなく、モヒカンに教わった記憶が、彼女の中で生きていた。


怪物が跳躍する。


重い影が落ち、地面が砕ける。


ロゼッタは一歩踏み込み、槍を突き出した。金属と金属が衝突する甲高い音が夜に響き、衝撃が義手を通して全身に伝わる。痛みはある。だが、それは彼女を止めない。


ベルベットが側面から閃光弾を投げ込み、視界を奪う。ドグが間合いを測りながら即席爆薬を転がし、モヒカンは車のドアパネルを盾に突進して、怪物の注意を強引に引きつける。バルカは後方を確認しつつ、冷静に指示を飛ばす。


「ロゼッタ、左脚の継ぎ目だ。そこが弱い」


ロゼッタは頷き、踏み込む。


怪物の咆哮が耳を裂く。鋼の棘が振り下ろされ、肩を掠める。だが彼女は怯まない。闘技場では、躊躇した瞬間に死んだ。だから、今も前に出る。


義手の駆動を微調整し、ほんの一瞬の隙を作る。そこへ槍を差し込む。継ぎ目が裂け、内部の機構が露出し、火花と血が同時に噴き出した。


怪物が崩れ落ちる。


ドグの爆薬が追い打ちをかけ、胴体が大きく裂けた。最後にモヒカンが鉄板を叩きつけ、完全に動きを止める。


静寂が戻る。


ロゼッタは膝をつき、荒い息を吐いた。義手と手のひらに残る、血と油の混ざった感触が生々しい。ベルベットが近づき、軽く声をかける。


「……大丈夫か?」


ロゼッタは頷いた。


「……闘技場の時と、同じだった」


その言葉に、誰もすぐには返さなかった。


だが、モヒカンが彼女の肩を軽く叩き、ドグが治療具を差し出し、バルカが静かに周囲を確認する。その一連の動作が、答えだった。


車のエンジンが再び唸り、彼らは闇の中へと走り出す。


帝国領からの脱出は、まだ終わらない。だがロゼッタの中で、かつて檻の中に閉じ込められていた“闘士の火”は、仲間と共に戦うための炎へと、確かに変わり始めていた。


第2章ー㉑に続く

読んでいただいてありがとうございます。ご意見ご感想お待ちしております。

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