第2章ー⑮ 選ぶという責任
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
帝国第二臨時検問所。
第一波とは違う。
簡易バリケードではない。
恒久施設。
装甲車二両。
検問兵の数は十を超え、
その奥には――輸送用の大型トレーラー。
側面には、
帝国軍特殊指令紋。
〈機械剣闘士回収・再配置〉
ロゼッタは、
その文字を見た瞬間、
喉の奥が焼けるように熱くなった。
「……あれは」
ドグが小さく吐き捨てる。
「同類だな」
モヒカンの指が、無意識に義手の工具に触れる。
ベルベットは、珍しく口を閉ざしている。
バルカだけが、静かに言った。
「来るぞ」
検問兵が、車両を囲む。
「全員、降りろ」
「積荷と同乗者、
特に“機械化個体”を確認する」
その言葉で、
ロゼッタの中の何かが、強く揺れた。
闘技場。
拘束具。
運ばれる仲間。
――選ばなければ。
バルカは、
ロゼッタの視線の動きで、すべてを察した。
彼は、
ロゼッタの肩に手を置く。
強くもなく、
優しくもなく。
「ロゼッタ」
低い声。
「今から起きる事は、
演技だ」
「だが――」
視線を、真っ直ぐ合わせる。
「選択でもある」
ロゼッタは、
唇を噛み、頷いた。
「……はい」
兵士が、
ロゼッタの義手に気づく。
「拘束しろ」
金属製の拘束具が、
ロゼッタの腕にかけられた。
その瞬間。
――ガチン。
ロゼッタの中で、
何かが切り替わる。
目が見開かれ、
呼吸が荒くなる。
「……っ、離せ……!」
突然の叫び。
兵士が一瞬、怯む。
「暴れるな!」
ロゼッタは、
拘束具を引きちぎろうとする。
力が――
明らかに異常。
「……この子、反応が」
バルカは、
一歩前に出た。
「危険だ!」
ロゼッタが、
その言葉を合図にする。
「――うあああああっ!!」
拘束を破り、
一直線に――
バルカへ襲いかかる。
全力。
迷いのない突進。
兵士たちが、
一斉に銃を向ける。
「撃つな!」
バルカの怒号。
次の瞬間――
バルカの身体が動いた。
ロゼッタの腕を掴み、
回し、
地面へ。
――ドンッ!!
衝撃。
呼吸が、一瞬止まる。
膝で体重を制し、
関節を極める。
完璧な制圧。
「……っ!」
ロゼッタは、
歯を食いしばり、
声を漏らさない。
バルカは、
彼女の耳元で、
誰にも聞こえない声で囁く。
「……よくやった」
「今は、
“怪物”でいろ」
兵士が、慌てて近づく。
「この個体は?」
バルカは、冷たく答える。
「不安定な暴走体だ」
「輸送対象に混ぜると、
事故が起きる」
「俺が処理する」
沈黙。
上官らしき男が、
ロゼッタを見下ろす。
暴れる少女。
異常な力。
制圧された今も、
獣のような目。
「……厄介だな」
「いい」
「連れて行け」
「他の回収対象を優先する」
輸送トレーラーの扉が閉まる。
中には――
ロゼッタと同じ、
拘束された機械剣闘士たち。
エンジン音。
トレーラーは、
ゆっくりと検問所を離れていった。
兵士たちが去り、
ようやく静寂が戻る。
バルカは、
ロゼッタを解放する。
ロゼッタは、
地面に座り込んだまま、
震える息を吐いた。
「……私」
「……襲いました」
バルカは、
何も言わず、
隣に座る。
しばらくして、
低く告げた。
「選んだな」
ロゼッタは、
小さく頷く。
「……助ける為に、
見捨てました」
「それが、
選ぶという事だ」
ロゼッタの目から、
静かに涙が落ちる。
バルカは、
それを止めない。
「忘れるな」
「今日の顔も、
今日の痛みも」
「それが、
次に誰かを救う時の――
重さになる」
遠くで、
帝国輸送部隊の音が消える。
ロゼッタは、
拳を握り締め、
震える声で言った。
「……私、
もっと強くなります」
バルカは、
短く頷いた。
「そうしろ」
「その覚悟がある限り、
お前はまだ、人間だ」
夜の検問所跡。
ロゼッタは、
“選ぶ者”として、
一歩、前に進んでいた。
第2章ー⑯へ続く
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