第2章ー⑬ 弱者の生存術
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
帝国第七検問所。
コンクリートの壁。
鉄製のゲート。
赤い警告灯が、一定のリズムで明滅している。
検問所の前には、
帝国兵が六名。
全員が実弾装填。
目は鋭く、疲労と猜疑が混じっている。
αチームの車両は、
ゆっくりと停止した。
「……来たな」
ドグが低く呟く。
「正面突破は無理だな」
モヒカンが肩を鳴らす。
バルカは、ミラー越しに後部を見る。
ロゼッタ。
小さな体。
外套を頭からかぶり義手を隠し、
膝の上で手を組んでいる。
「ロゼッタ」
ベルベットが、振り返らずに声をかける。
「俺が言った事、覚えてるか?」
ロゼッタは、短く答えた。
「……はい」
「今からだ」
ベルベットは、少しだけ口角を上げる。
「戦うな」
「勝とうとするな」
「“通してもいい存在”になれ」
車の窓が、叩かれた。
「止まれ!
身分証を提示しろ!」
ベルベットが、ゆっくりとドアを開ける。
「はいはい、検問ご苦労さまです」
軽い。
妙に軽い。
帝国兵が、眉をひそめる。
「積荷は?」
「廃材ですよ、廃材」
ベルベットは肩をすくめる。
「瓦礫拾いが生業でしてね」
「後部を確認する」
「どうぞどうぞ」
兵士が、車の後部に回る。
その瞬間――
ベルベットは、ロゼッタにだけ、
ほんの一瞬、視線を送った。
合図。
ロゼッタは、
ベルベットに教えられた通りの“顔”を作る。
肩をすぼめる。
視線を落とす。
息を浅く。
義手の存在を、
一切感じさせないように。
兵士が、ロゼッタを見る。
「……子供?」
ロゼッタは、
小さく、震える声を出した。
「……ご、ごめんなさい」
「わたし……
どこに行けばいいか、分からなくて……」
言葉は、ぎこちない。
だが――
完璧だった。
帝国兵の表情が、
一瞬だけ緩む。
「……こんな所に子供を連れ回すな」
ベルベットが、すかさず割り込む。
「ですよねぇ」
「俺も反対したんですけど」
「身寄りが無くて」
ため息をつく。
“困っている大人”の顔。
嘘だ。
全部、嘘。
だが――
誰も傷つかない嘘。
兵士は、もう一度ロゼッタを見る。
ロゼッタは、
ぎゅっと服の裾を握り、
怯えた子供のまま、目を伏せる。
義手は見えない。
闘士の気配も、完全に殺している。
沈黙。
やがて、兵士が言った。
「……通れ」
「次の街で、
保護施設に預けろ」
ベルベットは、深く頭を下げる。
「ありがとうございます、本当に」
ゲートが、開く。
車が、再び動き出す。
検問所を抜けてから、
数百メートル。
ようやく、
全員が息を吐いた。
「……やったな」
ドグが、感心したように言う。
モヒカンは、ミラー越しにロゼッタを見る。
「顔、完璧だったぜ」
ロゼッタは、
少しだけ表情を緩め、
はっきり言った。
「……嘘、使いました」
ベルベットが、後ろを向く。
「それでいい」
「生きてるだろ?」
ロゼッタは、
小さく、でも確かに頷いた。
「……はい」
ベルベットは、
親指を立てる。
「合格だ、ロゼッタ」
「今のは――
剣を抜かずに勝った戦いだ」
車は、帝国検問所を背に、
闇へと消えていった。
ロゼッタの胸の奥で、
闘技場とは違う“火”が、
静かに燃えていた。
第2章ー⑭へ続く
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