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第2章ー⑫ 生きる術 ――バルカ編

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。

生きる術エピソード最後の話です。


夜。


壊れた照明柱を横倒しにし、

内部の残光だけを利用して、

倉庫の隅がぼんやりと照らされていた。


ロゼッタは、その光の中に座っていた。


右腕は、ドグとモヒカンが作った義手。

まだ調整途中で、少し重い。


その向かい側――

バルカが立っていた。


腕を組み、

壁にもたれず、

ただ、真っ直ぐに。


「ロゼッタ」


低く、静かな声。


「今日は、

 逃げ道の無い話をする」


ロゼッタは、姿勢を正す。


「……はい」


バルカは、一歩近づいた。


「お前は、

 もう知っているはずだ」


「自分が、

 “普通の子供ではない”という事を」


ロゼッタの指が、僅かに動く。


「……分かっている」


「闘技場で、

 生き残った時から」


バルカは頷いた。


「なら、次だ」


「力を持つ者は、選ばなければならない」


ロゼッタは、首を傾げる。


「……何を?」


「誰を、

 生かすか」


空気が、重くなる。


遠くで、

金属が風に鳴った。


バルカは続ける。


「世界はな、

 全員を助けられるように出来ていない」


「これは、

 希望でも理想でもない」


「事実だ」


ロゼッタの喉が鳴る。


「……私は、

 助けたい」


「全員」


バルカは、否定しない。


「そう思うのは、

 正しい」


「だが――」


彼は、ゆっくり言葉を選ぶ。


「選ばなかった結果、

 誰かが死ぬ事もある」


ロゼッタは、視線を落とす。


「……闘技場でも、

 そうだった」


「躊躇したら、

 隣の剣闘士が死んだ」


バルカは、目を閉じる。


「俺もだ」


ロゼッタが顔を上げる。


「……バルカも?」


「ああ」


「戦場で、

 “正しい判断”を探した」


「結果――

 仲間を一人、置いてきた」


短い沈黙。


「今も、生きているかは知らない」


ロゼッタの胸が、締め付けられる。


「……後悔、しますか?」


バルカは即答しなかった。


代わりに、

一つ、問いを返す。


「後悔しない選択が、

 あると思うか?」


ロゼッタは、答えられない。


バルカは、静かに言った。


「無い」


「だから――」


「選んだ後、

 責任を取る」


「それだけだ」


ロゼッタは、震える声で言う。


「……責任って」


バルカは、真っ直ぐ見据える。


「選んだ結果を、

 他人のせいにしない事だ」


「命を救ったなら、

 最後まで守る」


「救えなかったなら、

 忘れない」


「それが、

 選ぶ者の義務だ」


ロゼッタの目に、

微かに涙が滲む。


「……怖い」


「当然だ」


バルカは、一歩下がる。


「怖くなくなったら、

 お前は人じゃなくなる」


「皇帝のようにな」


ロゼッタの背筋が凍る。


「……私は、

 ああはなりたくない」


バルカは、少しだけ表情を緩めた。


「なら、大丈夫だ」


彼は、ロゼッタの前に膝をつく。


視線の高さを合わせる。


「ロゼッタ」


「お前は、

 剣闘士として生きろとは言わない」


「英雄にも、

 救世主にもなるな」


「ただ――」


彼女の義手に、

そっと手を置く。


「自分で選んだ道を、

 最後まで歩け」


「逃げるな」


「言い訳するな」


「それが出来るなら――」


「お前は、

 もう立派な“生きる者”だ」


ロゼッタは、深く息を吸い、

はっきり言った。


「……私は、選ぶ」


「怖くても」


「間違っても」


「私が、決める」


バルカは、ゆっくり立ち上がる。


「それでいい」


「それ以上は、

 教えられない」


彼は背を向け、

歩き出しながら、

一言だけ残した。


「覚えておけ」


「選ばされるな」


「選べ」


照明柱の光の中で、

ロゼッタは、

自分の手を

見つめ続けていた。


それは、

刃よりも重い教えだった。


第2章ー⑬へ続く

読んでいただいてありがとうございます。ご意見ご感想お待ちしております。

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