第2章ー⑪ 生きる術 ――ベルベット編
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
夕暮れ。
廃都市の外れ、
人がかつて通った痕跡だけが残る旧街道。
αチームは短い休止を取っていた。
ロゼッタは、瓦礫に腰掛け、
義手を膝の上に置いて調整している。
そこへ――
ベルベットが、何気ない足取りで近づいた。
「よ」
軽い声。
「ちょっと、時間あるか?」
ロゼッタは顔を上げ、頷く。
「……在る」
「よし」
ベルベットは、彼女の前にしゃがみ込む。
「今日はな、
戦わない戦い方を教える」
ロゼッタは、少し戸惑った。
「……嘘?」
「そう」
ベルベットは、即答する。
「正確には、
顔の使い方だ」
ロゼッタは眉を寄せる。
「嘘は……
悪い物では?」
ベルベットは、くくっと笑った。
「いい質問だ」
「答えは――
半分正解で、半分違う」
彼は、ロゼッタの正面に立つ。
「まず、これを見ろ」
急に、表情を変える。
目を伏せ、
肩を落とし、
声を低くする。
「……俺は、弱い」
「何も出来ない」
次の瞬間。
背筋が伸び、
目に光が戻る。
「――今のが“嘘”だ」
ロゼッタは、目を瞬かせた。
「……全然、違う」
「そう」
ベルベットは頷く。
「同じ俺だ」
「でも、
見せている顔が違う」
彼は、指で自分の頬を軽く叩く。
「人間はな、
目で“真実”を判断する」
「だから――」
「目に見せる物を変えれば、
相手の判断は簡単に歪む」
ロゼッタは、少し考える。
「……闘技場は、
強そうに見せろ、だった」
「ああ」
ベルベットは苦笑する。
「でも、外の世界じゃ逆もある」
「弱く見せた方が、
生き残る時がある」
彼は、瓦礫の向こうを指差す。
「例えば――
帝国兵に見つかったとする」
「どうする?」
ロゼッタは答える。
「……逃げる」
「それも正解」
「だが、逃げられない時は?」
ロゼッタは黙る。
ベルベットは、ゆっくり言った。
「迷子の子供の顔をする」
「怯える」
「声を震わせる」
「視線を逸らす」
「相手が、
“敵ではない”と判断するまで待つ」
ロゼッタの胸が、少しざわつく。
「……騙す」
「守るためだ」
ベルベットは、きっぱり言う。
「生きるための嘘は、
卑怯じゃない」
「正直者だけが死ぬ世界で、
正直でいる必要は無い」
ロゼッタは、義手を見つめる。
「……顔も、
武器?」
「最高の武器だ」
ベルベットは笑う。
「弾も要らない」
「壊れない」
「しかも――
相手に触れずに勝てる」
彼は、少し声を落とす。
「ただし」
「使い過ぎるな」
ロゼッタが顔を上げる。
「……何故?」
「自分が、
どの顔が本当か分からなくなる」
一瞬だけ、
ベルベットの軽さが消えた。
「俺は、それで一度迷った」
「だから言う」
「嘘は、
脱ぐ場所を決めろ」
「仲間の前では、
本当の顔でいろ」
ロゼッタは、ゆっくり頷く。
「……今の顔は?」
ベルベットは、少し驚いてから、
にやっと笑った。
「本物」
「少なくとも、
お前の前ではな」
ロゼッタは、少しだけ笑う。
「……変な人」
「褒め言葉だ」
ベルベットは立ち上がる。
「覚えとけ、ロゼッタ」
「拳は、
最後に使う物だ」
「その前に――」
彼女の額を、軽く指で叩く。
「顔で、生きろ」
ロゼッタは、はっきり言った。
「……分かった」
「私、
生きる為に、嘘を使う」
ベルベットは満足そうに頷く。
「上出来だ」
夕闇が迫る中、
少女は一つ、
新しい武器を手に入れた。
それは刃でも銃でもない。
――生き残るための、顔。
第2章ー⑫へ続く
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