第2章ー⑩ 生きる術 ――ドグ編
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
夕方。
日が傾き、
廃都市の影が長く伸びる頃。
ドグは、車両の後部を占領していた。
床には、拾い集めたガラクタが並ぶ。
割れた照準器。
使えない銃身。
潰れた弾倉。
歪んだ配線。
「……全部、壊れている」
ロゼッタが言う。
ドグは、にこやかに頷いた。
「そう」
「だから、使える」
ロゼッタは首を傾げる。
「……分からない」
「じゃあ、教えよう」
ドグは、壊れた照準器を拾い上げる。
「武器はね、
最初から壊れる前提で作るべきなんだ」
「完璧な物は、
壊れた瞬間に“無”になる」
彼は、照準器を分解し、
レンズを取り外す。
「でも、壊れる前提で作った物は――」
レンズを、別の金属筒に嵌める。
「壊れても、
役割を変えられる」
「……これは?」
ロゼッタが聞く。
「即席の集光器」
「太陽光でも、
火を起こせる」
ドグは、にやりと笑う。
「銃より、
よっぽど人を救う時がある」
ロゼッタは、
義手で慎重に触れる。
「……武器、じゃない」
「でも」
ドグは、次に弾倉を持ち上げる。
「武器にもなる」
弾倉に配線を通し、
電池パックを繋ぐ。
「即席スタン装置」
「殺さない」
「でも、止められる」
ロゼッタの目が、少し見開かれる。
「……闘技場は、
止める戦いじゃなかった」
「知ってる」
ドグは、真顔で言った。
「だから、
違うやり方を教える」
彼は、ガラクタを指差す。
「そのあたりに転がっている物は、
全部“候補”だ」
「壊れた物ほど、
形を変えやすい」
ロゼッタは、
しばらく見回して――
鉄の筒を拾った。
「……これは?」
「いいね」
ドグは頷く。
「何に出来る?」
ロゼッタは考える。
「……殴る?」
「うん、短絡的」
ドグは、楽しそうに笑う。
「じゃあ、
殴らずに使う方法は?」
ロゼッタは、黙り込む。
やがて。
「……音」
「当たり」
ドグは、筒の中に小石を入れ、
蓋をする。
「投げる」
「転がす」
「視線を奪う」
「戦わずに、
勝つ方法だ」
ロゼッタは、
それを振ってみる。
――ガラガラ。
少し、笑う。
「……楽しい」
「そう」
ドグは、静かに言う。
「戦いは、
必ずしも重くなくていい」
「生き延びるための工夫は、
楽しくていい」
彼は、最後に一つ、
割れた銃身をロゼッタに渡す。
「持ってみて」
ロゼッタは、
両手で持つ。
「……重い」
「だから言っただろ?」
ドグは、肩をすくめる。
「完璧な武器は、
君には重すぎる」
「壊れてるくらいが、
ちょうどいい」
ロゼッタは、少し考えてから言った。
「……壊れても、
終わりじゃない」
ドグは、目を細める。
「その通り」
「壊れる前提で作れば――」
「壊れた時に、
次の手が残る」
ロゼッタは、
義手を見つめる。
金属の指が、
きしりと動く。
「……私も?」
「もちろん」
ドグは、即答した。
「君は、
最初から壊れていたわけじゃない」
「壊された」
「でも今は――」
彼女の義手を、軽く叩く。
「作り直している途中だ」
ロゼッタは、ゆっくり頷いた。
「……分かった」
「私、
壊れても、作る」
その言葉に、
ドグは満足そうに笑った。
夕暮れの光が、
ガラクタの山を照らす。
そこにあるのは、
武器でも、廃材でもない。
可能性だった。
第2章ー⑪へ続く
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