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第2章ー⑤ 再び灯る炎

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。

倉庫の中で、エンジンが吠えた。


最初は低く、掠れた唸り声。

長い眠りから無理やり引きずり起こされた獣のような音。


次第に回転が安定し、

振動が床を伝い、

空気そのものが震え始める。


「……よし」


モヒカンが、ハンドルを叩く。


「目、覚ましたな」


旧式軍用車両。

かつて戦場を走り抜け、捨てられ、忘れられた鉄の塊。


だが今は違う。


廃材で補強されたフレーム。

剥き出しの配線。

ドクが組み上げた即席兵器が、車体の側面と天井に取り付けられている。


美しさとは程遠い。

だが――生きている。


「外、来るよ」


ベルベットが囁く。


倉庫の外で、金属音。

重装甲部隊が、突入準備を始めている。


拡声器の声が、低く響く。


「内部の者へ。

 最終警告だ――」


「聞かなくていい」


バルカが、静かに言った。


「俺が合図する」


ロゼッタは、車両の後部座席に座っていた。

毛布を握りしめ、

視線は、揺れるランプの光を追っている。


心臓が、早い。


怖い。

それでも――


胸の奥で、別の鼓動が、確かに鳴り始めていた。


――逃げる。


――生きる。


その感覚は、かつて闘技場で感じていたものと、

よく似ている。


「ロゼッタ」


バルカが、振り返らずに声をかける。


「これから、少し揺れる」


「危なくなったら、

 俺達の名前を呼べ」


ロゼッタは、強く頷いた。


「……うん」


その声は、まだ小さい。

だが、確かに“意思”があった。


次の瞬間。


ドンッ!!


倉庫の扉が、内側へ歪む。


帝国兵が、強行突入を始めた。


「今だ!!」


バルカの号令。


モヒカンが、アクセルを踏み抜く。


「しっかり掴まれ!!」


爆音。


車両が前進し、

ドクの即席兵器が――火を噴いた。


白熱する閃光。

圧縮ガスで射出された破片弾が、扉を内側から吹き飛ばす。


鉄扉が砕け、

瓦礫が宙を舞う。


「突っ込め!!」


車両はそのまま、

爆煙の中へ突入した。


帝国兵の隊列が、崩れる。


「なっ――!?」


「車両だ!!」


銃火が集中する。

だが、旧式車両の装甲は、想定以上にしぶとい。


火花が散り、

弾丸が弾かれる。


ベルベットが、側面から身を乗り出す。


「はいはい、注目はこっち」


改造された照明弾が放たれ、

閃光が炸裂。


視界を奪われた帝国兵が、悲鳴を上げる。


「ドク!!」


「もう一丁、行くよ……!」


即席爆弾。

投擲。


爆風が、追撃部隊を吹き飛ばす。


車両は駐屯地の中央を突っ切り、

瓦礫と炎の間を縫って進む。


ロゼッタは、揺れる車内で必死に身体を支えていた。


怖い。

それでも――


視界の端で見える光景が、

かつての闘技場と重なる。


観客席の怒号。

砂に落ちる血。

勝たなければ、生きられない場所。


その時。


胸の奥で、何かがはっきりと灯った。


消えかけていた火。

押し込められ、封じられ、

それでも消えなかったもの。


――闘士の火。


「……っ」


ロゼッタは、歯を食いしばる。


「……まだ……」


爆発音。

銃声。

怒号。


だが、彼女の世界は、急に澄んでいく。


「ロゼッタ!」


ベルベットの声。


「大丈夫!?」


その瞬間。


ロゼッタは、はっきりと声を張り上げた。


「――大丈夫!」


車内の空気が、一瞬止まる。


モヒカンが、バックミラー越しに目を見開く。


「……!」


「――まだ、戦える!!」


叫びは、震えていた。

だが、逃げの声ではない。


生きるための、

闘士の声だった。


「……はは」


ドクが、嬉しそうに笑う。


「いいね……

 その声」


バルカは、ほんの一瞬だけ口元を緩める。


「聞いたな、みんな」


「彼女は――

 立っている」


車両は、駐屯地の外縁へと突き進む。

帝国の包囲が、完全に崩れ始める。


ロゼッタは、胸を押さえた。


熱い。

怖い。

でも――


もう、消えない。


火は、再び灯った。


そして彼女は、知らずに悟っていた。


この逃走は、

ただの脱出ではない。


次の戦いへの、第一歩だということを。


第2章ー⑥へ続く

読んでいただいてありがとうございます。ご意見ご感想お待ちしております。

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