第7章ーエピローグ 起爆剤
第7章開始です。舞台は再びロゼッタ達になります。
数日後。
ロゼッタたちは、ギルドマスターの部屋へ呼び出されていた。
厚い木の扉を開けると、室内にはすでに二人の男がいた。
机の奥に座るギルドマスター。そして壁際には腕を組んだグレン。
いつもの呼び出しとは、少し空気が違う。
ロゼッタたちが並ぶと、ギルドマスターは腕を組んだまま言った。
「ロゼッタ」
「はい」
「この前、別支部で売り出し中のコンビの話をしていたな。お前の先輩らしいと」
ロゼッタは静かに頷いた。
「はい」
その様子を見ながら、グレンが口を挟む。
「その話で、わざわざ全員をこの部屋に呼び出したのか?」
そして部屋を見渡す。
「しかも俺まで呼んでる。つまり――ただ事じゃねぇな」
ギルドマスターはゆっくりと頷いた。
「その通りだ」
少し机の上の書類に目を落とし、言葉を選ぶように続ける。
「その連中について、情報が入った」
ロゼッタの背筋がわずかに伸びる。
ギルドマスターは視線を上げ、静かに言った。
「ロゼッタ」
「はい」
「ダリア、オルレアという名に聞き覚えはあるか?」
その瞬間。
ロゼッタの顔に、はっきりと驚きが浮かんだ。
「……あります」
一拍置いて、はっきり答える。
「私がいた剣闘士団の先輩です」
そして言葉を続ける。
「二人とも、上級剣闘士でした」
部屋の空気が、わずかに張る。
ギルドマスターはゆっくり頷いた。
そして――
少し間を置く。
「もう一つ聞く」
ロゼッタの目が、自然と向く。
「リコリスという名に聞き覚えは?」
次の瞬間。
ロゼッタの表情が、先ほどよりもさらに大きく変わった。
「……!」
息を飲む。
「あります……」
声が少し低くなる。
「ダリア先輩たちと、幾度も刃を交えた」
「別の剣闘士団の……上級剣闘士です」
だが、そこでロゼッタは眉を寄せる。
「でも……」
言葉を選びながら続ける。
「詳しくは知りませんが……」
「その人は――死んだはずでは?」
その会話を聞いていたグレンが、小さく呟いた。
「ロゼッタの先輩というと……こいつらも墓戻りか」
短い言葉だったが、妙に納得の響きがある。
ギルドマスターはその言葉を聞き、ゆっくり頷いた。
「私も、そう思う」
「だが、ある意味これで納得がいった」
そして机の上の資料を軽く叩いた。
「彼女たちの戦歴だ」
全員の視線が集まる。
「初討伐、彼女たちは」
「重火器が必要とされる大型変異トカゲを」
「簡素な武器だけで、近接のみで二人で討伐している」
リンとセリカが同時に顔を上げた。
「は?」
リンが思わず声を出す。
「大型って……どのくらいです?」
銃火器を扱う者として、そこが重要だった。
ギルドマスターは淡々と答える。
「持ち上げるのに、クレーンが必要なくらいだ」
一瞬、沈黙。
そして二人が同時に呟く。
「……それ」
「重火器ないと傷つけるのも厳しいやつじゃん」
セリカが眉をしかめる。
「近接って……普通、刃が通らないよ」
ギルドマスターはさらに続けた。
「そしてもう一つ」
「同じく近接戦闘で――」
「大型の変異サソリを討伐している」
グレンが思わず唇を吹く。
「……おいおい」
腕を組みながら呟く。
「ただでさえ硬ぇ変異サソリだぞ」
「しかも大型を近接で?」
「すげぇな」
アマルダが低く聞いた。
「そんなに固いのか?」
エレナが即座に答える。
「ええ、固いわ」
淡々と説明する。
「外殻が曲線構造なの」
「しかも大型、おそらく外殻も分厚いわ」
「並みの近接攻撃では、刃が滑る」
「重火器でも弾かれることがあるわ」
リンが思わず頷く。
「確かに……」
ミレイアも短く言う。
「真正面から削るのは非効率」
部屋の空気が、静かに重くなる。
だが。
ロゼッタだけは、ゆっくりと頷いた。
「……あの二人なら」
静かに言う。
「可能だと思います」
その言葉に、グレンがロゼッタを見る。
「そんなに強ぇのか」
ロゼッタは少しだけ遠くを見る目をした。
「はい」
そして小さく笑う。
「私が剣を握っていた頃」
「一度も勝てませんでした」
部屋の空気が、また少し変わる。
ギルドマスターは腕を組み直した。
「つまり――」
「噂のコンビは本物ということだな」
そして、静かに続ける。
「問題は、ここからだ」
ロゼッタたちは自然と姿勢を正した。
ギルドマスターの次の言葉を、全員が待っていた。
ギルドマスターは机の上の資料をめくりながら、静かに続けた。
「最新の情報では――」
一度視線を上げる。
「彼女たちは三人で活動しているらしい」
ロゼッタが思わず反応する。
「三人?」
そして次の瞬間、はっとしたように言葉が出る。
「三人って……まさか!」
ギルドマスターは頷いた。
「そうだ」
「さっき名前が出た――リコリスだ」
部屋の空気が、わずかに揺れる。
ロゼッタは思わず一歩前に出た。
「……大丈夫なんですか?」
全員の視線がロゼッタに集まる。
彼女は少し迷いながら続けた。
「ダリア姉さまたちと……リコリスさんは」
「剣闘士時代、何度も刃を交えたはずです」
剣闘士の世界では、刃を交えるというのはただの試合ではない。
命を奪う可能性のある戦いだ。
だからこそ――疑問だった。
だがギルドマスターは落ち着いて答える。
「その辺りは問題ないらしい」
書類を軽く叩く。
「むしろ――」
「実に真面目にハンターをやっている」
グレンが少し口角を上げる。
「へぇ」
ギルドマスターは続けた。
「つい最近の戦果だ」
「三人で――三頭型特殊大型個体を討伐している」
リンが目を見開く。
「三頭型って……」
ミレイアが静かに言う。
「同時に三方向から攻撃してくる個体?」
エレナが補足する。
「旧文明の研究所絡みでもないといないわね」
「特殊大型なら、通常大型よりもさらに危険」
ギルドマスターは頷いた。
「その功績で」
「彼女たちは――」
「ロゼッタ、お前と同じスモールブロンズを授与されている」
ロゼッタは少しだけ目を細めた。
「あの人たちらしい……」
その声は、どこか懐かしそうだった。
ギルドマスターは資料を閉じる。
「そしてもう一つ、興味深い話がある」
全員が自然と耳を傾ける。
「彼女たちの影響かどうかは分からんが」
「その支部は――大きく変わっている」
グレンが腕を組む。
「どう変わった?」
ギルドマスターは答える。
「総本部から各支部へ書簡が回った」
「ここのギルドが始めた制度についてだ」
エレナがすぐに理解する。
「噂では聞いていたけど、もしかして」
「……新人ハンター教育合宿ってやつ?」
「さすが情報通、耳が早いなその通り」
ギルドマスターは頷いた。
「各支部でも実施してほしいという通達だ」
セリカが少し驚く。
「総本部が採用したんですか?」
「正式採用ではない」
「だが――試験的に広める」
それはつまり、ダリア達の支部の取り組みが評価されたということだ。
そしてギルドマスターは続けた。
「その支部では」
「ダリア、オルレア」
「二人とも――」
「教官兼参加者として合宿に参加した」
リンが笑う。
「教官なのに参加者?」
グレンが鼻で笑う。
「当たり前だ。以前が上級剣闘士だろうと、ハンターギルドに入れば全員新人だ」
アマルダが興味を示した。
「どんな訓練をした?」
ギルドマスターは少し苦笑する。
「内容は単純だ」
「とにかく走らせたらしい」
リンが肩を揺らして笑う。
「え、それだけ?」
「それだけだ」
ギルドマスターは淡々と言う。
「走り込み」
「基礎体力」
「持久力」
「合宿の後、目に見えて参加者の動きが良くなったそうだ」
アマルダがそれを聞き静かに頷いた。
「正しいな」
全員が彼女を見る。
アマルダは腕を組んで言う。
「兵士とハンターは違うが」
「だが――駆け出しに必要なものは同じだ」
「一に体力」
「二に体力」
そして少しだけ口元を緩める。
「体力があれば、余裕が生まれる」
「ハンターなら――逃げることもできる」
部屋に静かな納得が広がる。
アマルダは続けた。
「いい訓練だな」
「私もこの合宿には賛成だ」
グレンが肩をすくめる。
「軍人の意見が来たな」
エレナも頷く。
「合理的だと思うわ」
ミレイアも短く言う。
「生存率が上がる」
その様子を見ながら。
ギルドマスターは、ふっと小さく笑った。
そしてロゼッタを見る。
本人たちは気づいていない。
だが――
この支部は確実に変わっている。
強い者が来ると、周囲が変わる。
空気が変わる。
意識が変わる。
(……お前達が来てからだ)
心の中で、静かに呟く。
(この支部は、確実に動き始めている)
ロゼッタはまだ気づいていない。
だが――
この変化の中心にいるのは、
間違いなく彼女たちだった。
続く
正直、方向性が決まってません!いくつかの案はありますが、どうなるかは書いてみないとわかりません。
今後ともよろしくお願いいたします。
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