第6章ー49 戦友二人
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
会議室の空気が静まった中、ギルドマスターは腕を組んだまま禿頭の男を見ていた。
やがて、ゆっくり口を開く。
「……面白いな」
地図を軽く指で叩く。
「考えておこう」
男を見る。
「返事は待たせない」
それだけ言うと、椅子から少し身を引いた。
「今日はこれで終わりだ」
会議は締めくくられた。
幹部達が席を立ち、資料を持って会議室を出ていく。
椅子の動く音と、扉の開閉が続く。
やがて室内は静かになった。
だが――
禿頭の男は席を立たずにいた。
ギルドマスターはその様子を見て、ふと口を開く。
「そういえば」
男を見る。
「お前はあの時、近接班にいたんだったな」
禿頭の男が顔を上げる。
「廃鉱山の摘発の時だ」
マスターは少し笑った。
「奇抜なやり方で中に入ったらしいじゃないか」
顎で椅子を示す。
「少し話を聞かせてほしい」
禿頭の男はすぐ頷いた。
「わかりました」
そのまま席に座る。
しばらくして――
最後の幹部が出ていき、扉が閉まる。
会議室には三人だけが残った。
ギルドマスター。
禿頭の男。
そしてもう一人。
マスターの隣に座っている、彼と同年代くらいの男だった。
禿頭の男が少し視線を向ける。
それに気づいたギルドマスターが言う。
「心配するな」
隣の男を軽く示す。
「こいつは私の右腕だ」
「ここにいても問題ない」
副マスターは軽く頷くだけだった。
禿頭の男も頷き返す。
その後、ギルドマスターが腕を組んだ。
「さて」
少し前の話に戻る。
「お前は興行の件の時もそうだったな」
目を細める。
「成功の話だけではなく」
「危険性もきちんと話していた」
少し身を乗り出す。
「今回の話も」
「当然、その危険があるんだろう?」
禿頭の男は一瞬だけ目を見開いた。
そして小さく笑う。
「さすがですね」
少し感心したように言い、心の中で呟いた。
(さすがギルドのマスターになる人物は、武力だけではないな)
男はゆっくり話し始めた。
「ギルドの武器は」
指を二本立てる。
「剣と銃です」
「ですが」
少し声を落とす。
「商人の武器は――」
「金です」
会議室が静まる。
男は続けた。
「金の力は恐ろしい」
ゆっくり言う。
「気づかないうちに虜になる」
手を軽く握る。
「飲めば飲むほど喉が渇く」
「そして――」
目を細める。
「際限がなくなる」
机の上の地図を見つめる。
「そしてその金を使って」
指をゆっくり動かす。
「商人達は」
「ギルドの内部の奥深くまで浸透してきます」
しばらく沈黙が流れる。
副マスターが小さく呟いた。
「……注意するのは」
腕を組む。
「むしろギルド内部か」
禿頭の男が頷く。
「その通りです」
真面目な顔になる。
「この計画が成功すれば、おそらく莫大な利益になります」
だがすぐに言葉を続ける。
「しかし」
「諸刃の剣です」
ギルドマスターと右腕を見る。
「もし」
ゆっくり言う。
「危険が利益を上回ると判断したなら」
迷いなく言った。
「躊躇なく中止してください」
地図の廃鉱山を指す。
「そして」
「鉱山を爆破してください」
その言葉に二人は少し黙った。
禿頭の男は続ける。
「私の案であっても」
首を振る。
「構いません」
「ギルドが危険になるなら」
「止めるべきです」
会議室は静まり返っていた。
ギルドマスターと副マスターは互いに少し視線を交わす。
二人が感心していたのは――
発想力だけではない。
誠実さだった。
上を目指す者は多い。
そのために実績を求める者も多い。
だがこの男は違う。
自分の案が実績になる可能性があっても。
危険があれば中止してくれと言う。
それは簡単なことではない。
つまり彼は――
本気でギルドのことを考えている。
ギルドマスターはゆっくり頷いた。
「……よし」
禿頭の男を見る。
「この案を」
指で机を叩く。
「レポートにまとめてくれ」
少し笑う。
「もちろん」
「危険性もきちんと書いて構わん」
腕を組む。
「最終判断は」
「総本部に任せる」
禿頭の男が立ち上がる。
深く頭を下げた。
「ご検討ありがとうございます」
真剣な声だった。
「至急レポートにまとめます」
そう言って会議室を出ていく。
扉が閉まる。
部屋には――
ギルドマスターと、副マスター。
二人だけが残された。
会議室を出たあと、ギルドマスターは副マスターに声をかけた。
「……俺の部屋で話さないか?」
副マスターが静かに頷く。
二人は廊下を歩き、ギルドマスターの執務室へ入った。
部屋に入ると、ギルドマスターは棚を開ける。
奥から酒瓶を取り出し、グラスを二つ並べた。
コポッ、と静かな音を立てて酒を注ぐ。
一つを副マスターへ差し出す。
「ほら」
副マスターは受け取る。
二人は向かい合うように座った。
ギルドマスターが軽くグラスを揺らす。
「……あの男の案」
少し笑う。
「どう思う?」
副マスターは一口酒を飲み、静かに答えた。
「正直」
グラスを見つめる。
「魅力的だ」
少し肩をすくめる。
「金はいくらあってもいい」
視線を上げる。
「ギルド運営にも金がかかる」
指で机を軽く叩く。
「支配地域の税収」
「それとハンターが狩るモンスター素材の売買益」
「今の収入源はそれがメインだ」
小さく笑う。
「金が増えるなら」
「管理部は喜ぶだろうな」
そして少し真顔になる。
「しかも」
「うまくいけばこちらの懐は痛まない」
ギルドマスターも頷く。
だが副マスターは続けた。
「ただし」
少し低い声になる。
「危険性も理解できる」
グラスを置く。
「下手をすれば」
ゆっくり言った。
「ギルドが商人に取り込まれる」
視線が鋭くなる。
「商人のためにモンスターを狩り」
「商人のために」
少し間を置く。
「ハンターが死ぬ」
静かな言葉だった。
ギルドマスターは黙って聞いている。
副マスターは続ける。
「もし許可されるなら」
「線引きはきちんとすべきだ」
指を立てる。
「ギルドは**貸し手**」
「商人は**借り手**」
はっきり言う。
「金を出す商人にはそれなりのものを用意する」
「だが」
首を振る。
「それ以上は用意しない」
「求めない」
「便宜も図らない」
「そこを曖昧にすれば終わりだ」
ギルドマスターはゆっくり酒を飲んだ。
「……そうだな」
静かに呟く。
そして椅子に背を預ける。
「この地域は」
天井を見上げる。
「正直、頭打ちだ」
副マスターも黙って聞く。
ギルドマスターは続けた。
「広大な廃工場地域を抱えている」
少し苦笑する。
「宝の山とも言える地下区域もある」
だがすぐに言う。
「だが」
「**攻略が進まない**」
手を軽く振る。
「危険度も汚染度も桁違いだ」
少し遠くを見る。
「前のギルドマスターが攻略を試みた」
「莫大な資金を投入した」
しかし――
「得たものは」
静かに言う。
「**わずかだった**」
副マスターも覚えている。
あの時の損失を。
ギルドマスターはグラスを揺らした。
「もし」
「廃鉱山の計画が承認され」
「軌道に乗れば」
指を二本立てる。
「**人**」
「**物**」
「それが動く」
少し笑う。
「しかも劇的にな」
副マスターも頷く。
「人と物が動けば」
「それだけで金が生まれる」
ギルドマスターは続ける。
「そうなれば、この地域も注目される」
「腕のあるハンター、高ランククラン」
「そういう連中も来る」
そして机を指で叩いた。
「そうすれば」
「地下区域の攻略も」
「可能になるかもしれん」
副マスターが小さく息を吐く。
「なるほど」
ギルドマスターはさらに続けた。
「金と物を生み出す地域は」
「**総本部の覚えもめでたい**」
少し皮肉な笑みを浮かべる。
「そして」
「それを生み出している限り」
グラスを軽く回す。
「多少のことは黙認される」
副マスターが静かに言う。
「……昔とは違うな」
ギルドマスターも頷く。
「ギルド設立当初の理念」
ゆっくり言う。
「地域の人々を守る」
「それが薄れてきている」
苦い顔になる。
「今は」
「派閥争い」
「利益争い」
「理念より、利益が重視されている」
少し間が空く。
ギルドマスターは呟いた。
「もしかすると」
「ギルドは」
「**危険な場所に足を踏み入れている**のかもしれんな」
副マスターが言う。
「……あの男の話を聞いて」
「そう感じたか?」
ギルドマスターは静かに頷いた。
副マスターはふと笑う。
「そういえば」
酒を飲む。
「あの男」
「**拾い物**だったな」
少し興味深そうに聞く。
「その能力を見越して、ギルドに引き入れたのか?」
ギルドマスターは吹き出した。
「まさか」
笑う。
「ただ」
少し楽しそうに言う。
「面白そうな男だと思っただけだ」
副マスターが苦笑する。
「……昔から変わらんな」
少し砕けた口調になる。
「だが」
グラスを軽く掲げる。
「その勘に」
「俺は何度も救われてきた」
ギルドマスターも笑う。
少しして、彼は静かに言った。
「時々な」
遠くを見る。
「若い連中が羨ましくなる」
副マスターが眉を上げる。
ギルドマスターは続けた。
「昔みたいに」
「ひたすら依頼を選び」
「戦って」
「終わったら祝いの酒を飲む」
少し笑う。
「そんな生活だ」
副マスターも頷く。
「……そうだな」
酒を飲む。
そして言う。
「このギルドは今、変わってきている」
指を折る。
「あの男」
「それに」
少し笑う。
「最近注目されてる」
「三人の女ハンター」
ギルドマスターも笑う。
副マスターが静かに言う。
「俺たちが」
「あいつらを守っていかないとな」
ギルドマスターは残っていた酒を一気に飲み干した。
「……そうだな」
グラスを机に置く。
かつて共に戦った戦友同士。
肩書きは変わった。
立場も変わった。
だが――
こうして酒を飲みながら語る時間だけは、昔と変わらない。
二人にとって。
それは貴重な時間だった。
続く
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