第6章ー48 使えるものは使いましょう
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ダリア達が街で休暇を楽しんでいる頃――
ハンターギルド本部では、定例会議が開かれていた。
長い楕円形の机。
各部門の責任者達が席についている。
普段なら事務的に進む会議だが、今日は少し空気が違った。
議題の一つが――
緊急案件だったからだ。
会議の中央で検査部の担当者が資料を広げる。
「まず、先日の討伐個体について」
机の中央に図面が置かれる。
三つ首の巨大獣。
「現場では暫定的にケルベロスと呼称されています」
数人の幹部が頷く。
検査部の男が続ける。
「現在、解体と組織検査を進めていますが」
少し眉をひそめる。
「この個体は完全な未知種です」
資料をめくる。
「他支部にも照会しましたが、同型の記録はありません」
部屋が少しざわつく。
男は淡々と言った。
「そのため」
書類を示す。
「総本部より検体提供の命令が出ています」
「研究部門が本格的に調査を行うとのことです」
ギルドマスターが静かに頷いた。
「妥当だな」
次に現場担当の責任者が口を開く。
「討伐地点についてですが」
地図を広げる。
「現在、該当区域は封鎖中です」
廃工場の場所を指す。
「ケルベロスが出現した以上」
「この場所はただの低危険区域とは言えません」
指で机を叩く。
「現地調査が必要です」
少し間を置く。
「危険度は未知数」
周囲を見渡す。
「高ランクハンターによる調査隊の編成を推奨します」
数人が頷く。
会議は次の議題へ移った。
別の幹部が資料を取り出す。
「次に、廃鉱山の闇市場摘発について」
机の上に押収品の一覧が並ぶ。
「闇商人の取り調べと禁制品の整理が続いています」
少し疲れた顔をしている。
「作業は順調です」
紙をめくる。
「あと一週間ほどで終了する見込みです」
別の幹部が付け加える。
「ただし」
少し苦い顔をする。
「南部へ逃げた連中についてですが」
資料を指す。
「政治的問題が絡んでいます」
ため息をつく。
「総本部より、越境調査は禁止との命令が出ました」
何人かが顔をしかめる。
だが誰も反論しない。
ハンターギルドと言えども、政治から完全に自由ではない。
その現実を皆知っていた。
ひとまず大きな問題は片付きつつある。
会議室の空気が、わずかに緩む。
「これでようやく一区切りですね」
誰かがそう言った。
何人かが小さく頷く。
その時だった。
一人の男が手を挙げる。
「一ついいですか?」
全員の視線が向く。
発言したのは――
興行担当の男。
近接班にも同行していた、あの禿頭の男だった。
彼は少し考えるように言う。
「押収品の整理と調査が終わったあと」
机に置かれた地図を見る。
「廃鉱山跡はどうするんです?」
別の幹部がすぐ答える。
「決まっている」
腕を組む。
「ああいう廃鉱山は」
少し顔をしかめる。
「盗賊や犯罪者の拠点になる」
指で机を叩く。
「再び闇市場が開かれる可能性もある」
淡々と言う。
「だから」
「爆破して使用不能にする」
「それが通例だ」
多くの者が頷いた。
今までずっとそうしてきた。
だが。
禿頭の男が言う。
「ちょっと待ってもらえませんか」
会議室が少し静かになる。
その時、今まで黙っていた人物が口を開いた。
ギルドマスターだ。
腕を組み、男を見ている。
少し興味深そうな目だった。
「……何かあるようだな」
低い声で言う。
「構わん」
顎で示す。
「話してみろ」
禿頭の男は少し息を吐いた。
この男は、興行の件でもそうだった。
他の幹部とは違う視点で物を見る。
勘――
と言えばそれまでだ。
だがギルドマスターは感じていた。
この男は、ハンターギルドに今までなかった見方をしている。
だから発言を許した。
禿頭の男は机の地図を見ながら言った。
「まだ確証はありませんが」
少しだけ笑う。
だが、その目は真剣だった。
「でも」
指で廃鉱山の場所を叩く。
「この場所」
「壊す前に、もう少し使えるんじゃないかと思いましてね」
会議室の空気が、少し変わった。
会議室の空気が静まり返る中、禿頭の男はゆっくり口を開いた。
「この廃鉱山をですね――」
指で地図を軽く叩く。
「合法的な商売の場所にできませんかね?」
一同が一瞬固まった。
「……は?」
「何だって?」
小さなどよめきが広がる。
だが男はそれを気にせず話を続けた。
「これを見てください」
彼は机の中央に地図を広げる。
指を差す。
「廃鉱山はここです」
周囲の幹部達が身を乗り出す。
「元は鉱山です」
指を道へ滑らせる。
「鉱石を運び出す為に、道は広めに取ってある」
さらに少し離れた場所を指す。
「そして――街道」
「ここからそう遠くない」
次に、地図の青い線を叩く。
「そしてここ」
「大河です」
幹部達の視線がそこに集まる。
「鉱石の運搬のため」
「ここには船をつける場所がある」
男は腕を組んだ。
「つまり」
地図を指でなぞる。
「街道が近い」
「川がある」
「荷物を運ぶ道がすでにある」
一度周囲を見る。
そして言った。
「商売の場所にできませんかね?」
会議室がざわつく。
管理部の責任者が腕を組んで頷いた。
「……確かに」
地図を見る。
「条件は揃っている」
別の幹部も言う。
「立地は悪くない」
だがすぐに問題を挙げる。
「しかし」
書類をめくる。
「あの鉱山は廃鉱になって長い」
指を立てる。
「船をつける場所は劣化している」
「道も舗装されていない」
首を振る。
「整備するには莫大な資金がかかるぞ」
すると禿頭の男が、あっさり言った。
「出させればいいんですよ」
一同が彼を見る。
男は肩をすくめる。
「商人達に」
会議室が静まる。
男は続けた。
「商人はですね」
少し笑う。
「金になると分かれば金を出す」
机を軽く叩く。
「ギルドはこう言えばいいんです」
「この廃鉱山を」
「商売の場所として整備する予定だと」
指を立てる。
「それだけ言っとけば」
ニヤリとする。
「向こうから接触してきます」
何人かが顔を見合わせる。
男はさらに続ける。
「ただし」
指で鉱山内部を示す。
「金を出そうとする商人には」
「内部の一等地を約束してください」
もう一つ指を立てる。
「さらに」
「売り上げから取るギルドの取り分を少し下げる」
「つまり」
「金を出した奴が得をする」
そう見せればいい。
そして笑った。
「商人は飛びつきます」
管理部の幹部が顎を撫でる。
「なるほど……」
すると禿頭の男が続ける。
「しかも」
少し楽しそうに言う。
「内部はすでにある程度整ってます」
数人が首を傾げる。
男は肩をすくめた。
「闇商人達が」
「勝手に整えてくれてましたから」
小さな笑いが起きる。
確かにそうだった。
違法市場を作るため、彼らはかなり手を入れていた。
男はそこで表情を少し真面目にした。
「ただし」
声の調子が変わる。
「興行の時と同じです」
周囲を見渡す。
「ルールは厳格にする」
指を折る。
「禁制品は禁止」
「奴隷取引も禁止」
もう一つ。
「万が一違反があれば」
「罰金」
「商品の没収」
そして。
「ギルドの制裁」
静かに言う。
「きちんと守る商人だけが利益を得る」
腕を組む。
「真っ当な商売をする商人を」
ゆっくり言った。
「大事にしてほしい」
会議室はしばらく静まり返った。
やがて誰かが呟く。
「……面白い」
別の幹部が言う。
「成功すれば、ギルドの収入源になる」
「継続的な収入を得られるのは大きいな」
管理部の男が言う。
「街にも利益があるな」
そして全員の視線が――
ギルドマスターへ向いた。
彼はしばらく黙っていた。
腕を組み、地図を見ている。
そしてゆっくり言った。
「……興味深い」
禿頭の男を見る。
その目は少し楽しそうだった。
「お前は」
「やはり面白いことを考えるな」
会議室の空気が、再び動き始めた。
続く
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