第6章ー47 職人殺しダリア
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
翌日。
三人はハンター稼業を休んだ。
身体が資本。
それは剣闘士でも、ハンターでも同じだった。
昨日の戦いは激しかった。
幸い、懐は温かい。
無理に依頼を受ける理由はなかった。
朝の街を歩きながらダリアが言う。
「まずはここだな」
三人が向かったのは――
ギルド専属の鍛冶屋だった。
簡単な刃研ぎや手入れなら自分達でも出来る。
だが、本格的なメンテナンスは違う。
装備の不備は――
命に直結する。
それは三人とも骨身に沁みていた。
鍛冶屋の扉を開くと、熱気が流れ出てくる。
カン、カン、カン――
金属を打つ音。
炭の匂い。
弟子達が忙しそうに動いている。
「おう」
奥から声がした。
筋骨隆々の男が現れる。
この店の親方だ。
ダリアとオルレアの装備――
巨大変異サソリの防具と、オルレアの槍を作った職人でもある。
ダリアが笑う。
「親方、メンテ頼む」
防具と大剣を渡す。
オルレアも防具と槍を預ける。
親方は受け取りながら言った。
「聞いたぞ」
ニヤリとする。
「三つ首の化け物をやったんだってな」
ダリアが肩をすくめる。
「運が良かっただけさ」
親方は防具を軽く叩く。
加工した外殻がいい音を鳴らす。
「俺の作ったもんが役に立ったんなら」
少し嬉しそうに笑う。
「職人冥利に尽きるってもんだ」
ダリアが頷く。
「あの時、素材加工頼んで良かったよ」
オルレアも静かに言う。
「防御がなかったら危なかった」
親方が鼻を鳴らす。
「当然だ、あんな素材めったにないからな」
その時、ダリアが横にいるリコリスを示した。
「そうだ」
「紹介する」
リコリスを見る。
「こいつはリコリス」
「知り合いでな」
少し笑う。
「これから三人でやっていく」
「よろしく頼む」
リコリスが一歩前に出る。
丁寧に頭を下げる。
「リコリスです」
「よろしくお願いしますわ」
親方は腕を組んでリコリスを見る。
上から下まで観察するように。
しばらく黙ってから言った。
「……なるほど」
ニヤリと笑う。
「こいつらとチームを組むんだ」
「あんたも相当使うな」
リコリスが少し笑う。
「どうでしょうかね」
ダリアが話を戻す。
「それで親方」
腕を組む。
「近接が三人になった」
指を立てる。
「大剣、槍、ハルバード」
昨日の戦いを思い出す。
「今回みたいな大物を狩るとなると」
親方を見る。
「何かアドバイスあるか?」
弟子達が少し驚いた顔をする。
ダリアはよく人に意見を求めた。
特に――
専門家に。
真剣に意見を求めるダリアを、彼らは嫌わなかった。
親方は少し嬉しそうに笑う。
「そうだなぁ」
顎を撫で、少し考えてから言う。
「やはり盾役が一人欲しいな」
奥へ歩く。
ガサゴソと何かを探す。
そして戻ってくる。
手には――
巨大な盾。
普通のハンターが持つ盾の倍近い大きさだ。
「ダリア」
それを差し出す。
「あんたなら使えるだろう」
「これはどうだ?」
ダリアが受け取る。
ずしりと重い。
だが彼女は軽く腕を振る。
「悪くない」
親方が頷く。
「並の連中なら扱えねぇ」
「だがあんたなら大丈夫だろ」
そしてもう一つ取り出す。
今度は――
大型ハンマー。
完全な打撃武器だ。
「それとな」
ダリアに渡す。
「大物相手なら、打撃武器が欲しい」
「大物になる程、殻や骨が硬くなる。
骨や外殻を砕くにはこれが一番だ」
ダリアは盾とハンマーを持ったまま少し動いてみる。
足運び。
振り。
構え。
リコリスが感心する。
「流石ですわね」
オルレアも頷く。
「防御が厚くなる」
親方が目を細める。
「使えるとは思ったが、ここまでとはな」
一通りの動きを終えたダリアは、すぐ言った。
「気に入った」
親方を見る。
「幾らだい?」
親方は手を振る。
「いや」
「それは試作品だ」
少し笑う。
「試しに使ってみて、
感想を聞かせてくれればいい」
だがダリアは首を振る。
「それは悪い」
懐から金を出し、親方の手に押し付ける。
「酒代にでもしてくれ」
親方が少し困った顔をする。
「おい」
だがダリアはもう笑っていた。
「いいから」
親方はしばらく見ていたが――
やがて笑った。
「……わかった」
金を受け取る。
「ありがとよ」
「明日には仕上げとく」
三人は装備を受け取り、鍛冶屋を出た。
「……職人殺し」
ダリアを知っているオルレアが呟いた。
その後。
弟子の一人が親方を呼ぶ。
「親方」
「相当あいつら気に入ってますね」
親方は半ば押しつけられた金を見ながら笑う。
「当然だ」
腕を組む。
「見てみろ」
鍛冶屋の外を見る。
「いい目してやがる」
「しかも気っ風もいい」
弟子が言う。
「でも」
「彼女達新人なんですよね?」
親方はニヤリと笑った。
「関係ねぇ」
鉄を打つ槌を握る。
「あいつらはすぐ有名になるぜ」
弟子達が笑う。
親方は炉を見ながら言った。
「有名になっても」
少し笑う。
「贔屓にしてもらえるように」
槌を振り上げる。
カンッ!!
「俺も頑張らないとな」
装備を宿に置いたあと、三人は軽い格好で街へ出た。
今日は完全な休みだ。
市場の通りには人が多い。
商人の呼び声。
屋台の匂い。
子供の笑い声。
三人は特に目的もなく、のんびり歩いていた。
周りの人間が、ちらちらと視線を向ける。
派手な服を着ているわけではない。
むしろ地味な普段着だ。
だが――
それが逆に三人の魅力を引き立てていた。
整った顔立ち。
無駄のない体の動き。
自然に漂う空気。
それだけで十分、人目を引いた。
ただし。
「……」
誰も声はかけない。
美女三人。
それなのに男達は遠巻きに見るだけだった。
理由は簡単だ。
三人から漂う空気。
ハンター特有の雰囲気。
ただの街娘ではない。
危険を潜り抜けてきた者の、独特の気配。
それが自然に滲み出ていた。
ダリアが少し周りを見て笑う。
「そういえばさ」
手を後ろで組みながら歩く。
「こうやって三人で街ぶらぶらするの」
少し考える。
「初めてじゃないか?」
オルレアが隣で頷く。
「そうね」
ダリアが続ける。
「剣闘士の頃はさ」
空を見上げる。
「命のやり取りする敵同士だった」
通り過ぎる人を避けながら言う。
「街ですれ違っても」
肩をすくめる。
「挨拶すらしなかった」
オルレアも静かに言う。
「顔を見れば」
「次の試合を思い出した」
ダリアが苦笑する。
「不思議なもんだよな」
「今じゃこうして並んで歩いてる」
オルレアも小さく頷いた。
「本当に不思議」
二人の会話を聞いていたリコリスが、ふっと笑う。
「まあ」
肩をすくめる。
「いいんじゃないですの?」
二人を見る。
少し楽しそうな顔だった。
「私は」
通りの屋台を見ながら言う。
「楽しいですわよ」
その言葉にダリアが笑う。
「そりゃ良かった」
オルレアも少し微笑む。
三人はまた歩き出した。
特に目的もない。
ただ街を歩く。
それだけなのに、妙に心地よかった。
少し前まで――
命を奪い合う関係だった三人が。
今は同じ道を歩いている。
ダリアが空を見上げて言う。
「人生って分からんもんだな」
リコリスが笑う。
「だから面白いんでしょう」
三人は並んで歩き続けた。
新しい人生の、まだ始まったばかりの道を。
続く
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