第6章ー46 伝説の初討伐
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ギルドへ戻った頃には、すでに回収班からの連絡が届いていたらしい。
搬送トラックがギルドの裏手にある大型搬入口へ入ると、何人もの職員やハンターが様子を見に集まっていた。
クレーンが動き、巨大な死体がゆっくり降ろされる。
その瞬間――
周囲からざわめきが起こった。
「おい……」
一人の職員が思わず呟く。
「本当に三つ頭があるぞ」
別の男が腕を組んで見上げる。
「まるで伝説の……」
少し考えてから言う。
「ケルベロスみたいだな」
その言葉に何人かが頷く。
「確かに」
「三つ首の犬型か……」
別の職員が書類を持ちながら言った。
「とりあえず暫定呼称を決めるか」
少し考えてからペンを走らせる。
「ケルベロス型変異体」
「うん、それでいこう」
そうして、この怪物は暫定的に――
ケルベロスと呼ばれることになった。
その後。
三人は職員に呼ばれ、ギルドの奥へ案内された。
「詳しい話を聞きたいので」
案内されたのは小さな会議室だった。
扉を開けると、すでに数人が席についている。
書類を抱えた職員。
記録官らしい人物。
そして――
中央の席に座る男。
ギルドマスターだった。
ただ座っている。
それだけで場の空気が引き締まる。
三人が入ると、彼はゆっくり頷いた。
「座ってくれ」
椅子に腰を下ろす三人。
ギルドマスターは腕を組んだまま言った。
「まずは」
少しだけ表情を緩める。
「特殊大型個体の討伐、よくやってくれた」
ダリアが軽く頭をかく。
「運が良かっただけさ」
ギルドマスターは首を振る。
「いや、運ではない」
机の上の資料を軽く叩く。
「回収班からの報告も聞いている」
三人を見る。
「銃火器なし。爆発物なし」
「近接戦闘のみで討伐」
少し笑う。
「立派な戦果だ」
そして少し真面目な顔になる。
「あの廃工場地区は初心者ハンターがよく行く場所だ」
指で机を叩く。
「もしあの個体がそのまま放置されていたら」
ゆっくり言う。
「確実に被害が出ていた」
視線を三人へ向ける。
「街を守ってくれたことに、ギルドとして感謝する」
リコリスは少し驚いた顔をしていた。
やはり剣闘士の世界とは違う。
歓声ではなく――
感謝だった。
ギルドマスターは続ける。
「報酬についてだが」
書類をめくる。
「大型個体討伐として、正式な報酬を支払う」
ダリアがニヤリとする。
「助かる」
ギルドマスターも少し笑った。
「だが一つ相談がある」
机の資料を示す。
「素材についてだ」
ケルベロスの図が描かれている。
「この個体は完全に未知の変異種だ」
「三頭型など前例がない」
指を組む。
「可能なら素材を全てギルドで買い取らせてほしい」
オルレアがすぐに頷く。
「研究のため?」
「その通り」
「構わない」
ダリアも肩をすくめる。
「どうせ解体なんて俺らじゃ無理だ」
リコリスも笑う。
「金になるなら文句ねぇ」
ギルドマスターは満足そうに頷いた。
「ではそのように手配する」
その後、記録官が身を乗り出す。
眼鏡を押し上げながら言う。
「さて」
「もう少し詳しく聞かせてください」
ペンを構える。
「どこから現れたのか」
「どのように戦ったのか」
三人は顔を見合わせた。
そして順番に説明を始める。
バイオドッグの群れ。
番いと思われる、大型個体。
そして三つ首の怪物との戦闘。
ダリアがどう突っ込み。
オルレアが毒を入れ。
リコリスがとどめを刺したか。
話が終わる頃には、記録官はびっしりと書き込んでいた。
そして――
ふっと笑う。
「……困りましたね」
三人が首をかしげる。
記録官は書類を持ち上げた。
「これ」
少し笑う。
「記録に残しても信じてもらえないかもしれません」
ダリアが吹き出す。
「なんでだよ」
記録官が肩をすくめる。
「新人三人」
指を立てる。
「しかも」
リコリスを見る。
「一人は初依頼」
書類を見て笑う。
「それで大型特殊変異体討伐ですから」
部屋の空気が少し緩んだ。
ギルドマスターも小さく笑う。
「確かにな」
だがすぐ真顔に戻る。
三人を見る。
「だが事実だ」
ゆっくり言う。
「そして事実なら、いずれ皆が知る」
ギルドマスターは椅子に背を預けた。
「今日の出来事は」
少し意味深に言う。
「この街のハンター史に残るかもしれんぞ」
リコリスは腕を組んで笑った。
「そりゃ大げさだ」
だが。
ダリアとオルレアは分かっていた。
これはきっと――
始まりに過ぎない。
ギルドでの聞き取りは一通り終わった。
ケルベロス本体と素材の査定は、研究班や解体班が調べてから金額を決めることになった。
「正式な報酬は後日だ」
職員が書類をまとめながら言う。
「かなりの額になると思うので、少し時間をください」
ダリアが肩をすくめる。
「そりゃそうだろうな」
オルレアも静かに頷く。
「未知の個体だもの」
ただし、今回の依頼そのものの報酬と、最初に倒した大型バイオドッグ二匹分の追加報酬はその場で支払われることになった。
受付カウンター。
袋に入った硬貨と紙幣がカウンターに置かれる。
「こちらが今回の報酬になります」
受付が微笑む。
「討伐確認済みです」
リコリスがそれを受け取った。
ずしり、と重みが手に伝わる。
思わず少し驚いた顔になる。
「……重いな」
ダリアが笑う。
「それが依頼報酬だ」
リコリスは袋を軽く振る。
金属が触れ合う音が鳴る。
「これが」
袋を見下ろす。
「初めての依頼報酬か」
オルレアが言う。
「いいスタート」
ギルドを出た三人は、まず宿へ戻った。
戦闘の汗と血を流すためだ。
熱い湯を浴びると、ようやく体の緊張がほどけていく。
着替えを済ませ、装備を軽く整える。
そして再びギルドへ戻った。
今度は依頼ではない。
食堂だ。
ギルドの食堂は夜になるとかなり賑わう。
ハンター達が依頼を終え、酒と飯を楽しむ場所だ。
三人は空いている席に座った。
ダリアがジョッキを三つ持ってくる。
泡立つ酒。
リコリスはジョッキを手に取った。
ダリアが笑う。
「さて」
ジョッキを掲げる。
「初依頼成功」
オルレアも静かに持ち上げる。
「おめでとう」
リコリスも少し笑った。
三人のジョッキがぶつかる。
カンッ。
「乾杯!」
冷たい酒が喉を流れる。
体に染みる。
料理も運ばれてくる。
肉料理、スープ、焼きパン。
香ばしい匂いが広がる。
その時だった。
「おーい」
声をかけられる。
振り向くと、ギルドでよく顔を合わせるハンター達が立っていた。
普段は軽口ばかり叩く連中だ。
一人が笑いながら言う。
「聞いたぞ」
腕を組む。
「廃工場でデカいのやったんだって?」
別の男が肩をすくめる。
「三つ首のバケモンとか」
ニヤリとする。
「やるじゃねぇか」
普段なら、「またやらかしたのか」とか「破壊神、ダーティペア」などからかうような連中だ。
だが今日は少し違う。
もう一人がジョッキを持ち上げる。
「ま、なんだ」
照れくさそうに言う。
「さすが大物狩りだな」
軽く掲げる。
「討伐祝いだ」
三人のジョッキと軽くぶつける。
「おめでとう」
そして笑いながら去っていった。
ダリアが笑う。
「珍しいな」
「素直に褒めていった」
オルレアも少し笑っていた。
「あれがハンターなりの祝い」
リコリスはしばらく黙っていた。
目の前の料理を見る。
湯気が立っている。
肉を切り、口に運ぶ。
――うまい。
酒を飲む。
体に広がる。
思わず小さく息を吐いた。
「……うめぇ」
ダリアが笑う。
「だろ?」
リコリスは少し遠くを見る。
自分で選んだ仕事。
命をかけて戦う。
その報酬で食べる料理と酒。
そして。
街の人間からの感謝。
剣闘士だった頃とは、何もかも違う。
リコリスはジョッキをもう一度持ち上げた。
「こんなに美味い飯と酒」
少し笑う。
「久しぶりだ」
少し考える。
そして言い直す。
「……いや」
「初めてかもしれねぇ」
ダリアとオルレアが静かに聞いている。
リコリスは酒を一口飲んだ。
そして笑う。
「今後いろいろあるんだろうけどさ」
二人を見る。
「ダリア」
「オルレア」
少し肩をすくめる。
「俺も」
「ハンターって仕事、性に合ってるかもしれねぇな」
ダリアがニヤリとする。
「今さらか?」
オルレアも小さく頷く。
「私達は最初からそう思ってた」
食堂は相変わらず賑やかだった。
笑い声。
ジョッキの音。
料理の匂い。
三人のハンターの――
最初の夜が、静かに過ぎていった。
続く
何かあるといつも酒、飯のシーンですが、自分にとっては大事なシーンなので、勘弁して頂けたらと思います(笑)
読んで頂いて、お腹が空いたなと思われる様に精進していきます。食事のシーン。難しいですね。
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