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第1章ー㉓ 皇帝から覇王へ

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。

廃都市の中心で、赤黒い粉塵が渦を巻いていた。

暴走状態のロゼッタが放った蹴撃が、皇帝の黒鎧にわずかな傷を刻む。

その一瞬、熱が散るように火花が散った。


そして——

皇帝は静かに立ち止まった。


ロゼッタの体内で“スパルタカス”が怒号のように響く。


【よォッ! 見たかロゼッタ! あの化け物に傷入ったぞッ!!】

【ビビるんじゃねぇッ、ここが勝負どころだッ!! ぶっ壊せェ!!】


暴走した意識に引きずられ、ロゼッタの視界が赤く染まる。

筋繊維が断裂し、ナノマシンが悲鳴を上げながら修復に追いつかない。

それでも身体は止まらない。

スパルタカスの咆哮が全てを上塗りしていく。


だが——

その前で皇帝は、ゆっくりと右手を面頬に添え、深く、静かに息を吐いた。


「……やむを得ん。」


まるで長く放置していた“封印された箱”を開けるような声だった。

皇帝の身体表面に走るラインが逆流し、深紅から“光を吸い込む黒”へと反転。

脊髄に沿って幾何学装甲が展開し、まるで闇が装甲を纏うように形状が膨張する


次の瞬間、空気が落下したような衝撃が広がる。


風が止み、粉塵が一斉に地に沈む。

黒衛兵たちは全員、膝をついて震え出した。

都市を包む空そのものが、皇帝の覚醒に怯えているかのようだった。


ホーゲルが遠くで呟く。


「……まずい……ロゼッタ……あれは……

統一戦争のとき、一夜で街を消し飛ばしたと言われる “《覇王形態》”だ……」


ロゼッタは返事をしようとしても、スパルタカスの怒涛の声に押し流されていく。


【逃げるだぁ? 何言ってんだオメェッ!!】

【勝負から逃げた戦士は屑だッ!! 前に出ろッ! ぶっ殺しにいくぞォ!!】


全身に血が逆流するような熱量が叩きつけられ、

ロゼッタは地面をえぐる勢いで加速し、皇帝へ突撃した。


速度は音の壁を破り、爆風が廃ビルの外壁を剥ぎ取る。


しかし皇帝は、ただ一歩、前へ“滑った”だけだった。


——消えた。


「っ……どこッ——」


思考が追いつくより先に、背後で空気が爆ぜる。


皇帝の巨剣が、無音で振り上げられていた。


ドグォンッ!!


世界が割れるような音が遅れて鳴り響き、

ロゼッタの身体は数十メートル吹き飛び、廃車の山に叩きつけられる。


【オラァァ!! 立てロゼッタァ!! まだ死んでねぇだろうがッ!!】

【あんなノロマの一撃、かすり傷みてぇなもんだッ!!】


だが、暴走を煽っていた声が、急にトーンを落とす。


【……チッ……やべぇな……こいつ……さっきまでとは比べもんにならねぇ……】


ロゼッタが瓦礫の中から片腕で起き上がると——


皇帝の胸の紋章が深紅に点灯し、

生体エンジンの脈動が廃都市全体に“圧”として流れ込んだ。


鎧の合わせ目から、黒煙じみた蒸気がゆっくりと漏れ出す。


それは“本気”を出す前兆。


「……来るぞロゼッタ……!」


ホーゲルの声が震えていた。


皇帝は、地を割るような一歩で踏み込み、

巨躯全体を沈めて構えを取った。


「——《覇王終式:無極極点変質〈ゼロ=インフィニティ〉」


音が消えた。


廃都市の街並みが縦に“裂ける”。

空気が二つに割れ、建物の影が引き裂かれ、光が乱反射して歪んでいく。


裂け目がそのままロゼッタを飲み込むように迫る。


【ロゼッタァァ!! 全出力だッ!! ここで受けなきゃ死ぬッ!!】


ロゼッタは反射で両腕を交差させ、防御姿勢を取った。


だが——


“断層”はあらゆる物質を無視して通り抜けた。


右腕が、音もなく消えた。


肩から上が空白になり、重心が崩れ、ロゼッタは膝をつく。

遅れて、脳に痛覚が烈火のように燃え上がる。


「ぁ……っ、ぐ……!!」


ホーゲルの叫びが遠くで響く。


暴走していたスパルタカスの声が、一瞬だけ沈黙し——


【……あの野郎……やりやがった……!!】


ひりつくような怒りだけがロゼッタの中で脈動した。


皇帝は巨剣をゆっくりと肩に担ぎ上げ、静かに言った。


「予想以上だ、ロゼッタ。

そして……その奥にいる“お前”。」


ロゼッタの背骨が冷える。


「……スパルタカス……を……?」


皇帝は頷く。


「そうだ。

私は《源核オリジン》……

すべての剣闘士の種を制御できる唯一の個体だ。」


巨剣の切先がロゼッタへ向けられる。


「だが、ただ一つだけ制御できなかったものがある。

“覚醒したスパルタカスの人格”だ。」


面頬の奥で笑った気配がした。


「だから奪いに来た。

私が……さらに“強くなるため”にな。」


黒衛兵たちが皇帝の覚醒に反応し、全員が一斉に立ち上がる。

円陣が狭まり、闘技場は完全に閉じられた。


ロゼッタは片腕で地を支え、苦痛に震えながら、視界を上げる。


赤い視界の奥で。


スパルタカスがニィッ、と笑ったように見えた。


第1章ー㉔へ続く

読んでいただいてありがとうございます。ご意見ご感想お待ちしております。

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