第1章ー⑲ 黒き王と深紅の剣闘士
前回の続きです。いよいよ皇帝とのデュエルです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
瓦礫だらけの廃都市が、息を潜めるように静まり返った。
ロゼッタの前に立つ黒鎧の皇帝は、ただそこにいるだけで世界の中心に穴を開けるかのような圧力を放っている。
そして闇の中から、〈黒衛兵〉たちが歩み出た。
ひとり、またひとり。
無言のままロゼッタと皇帝の周囲を囲み、円を描く。
それはまるで——儀式。
ホーゲルが息を呑んだ。
「……闘技場だ。こいつら……皇帝に“場”を作りやがった……!」
黒衛兵は決して言葉を話さない。
だが、その動作は美しいほど統一されていた。
重い足音が地面を均し、円が完成した瞬間、
まるでかつての巨大闘技場の歓声が幽霊のように蘇ったかのように、空気が震えた。
ロゼッタの胸部コアが脈動を早める。
体内で何かが“覚醒”する音がした。
——スパルタカスプログラム:反乱因子稼働開始。
視界の端に赤い警告表示が走る。
ロゼッタの呼吸が荒くなる。
思考が焦げるように熱を帯びる。
《支配者を排除せよ》
《従属を拒否せよ》
《大陸の敵を破壊せよ》
怒り。熱狂。破壊衝動。
ロゼッタは歯を食いしばった。
「だめ……私は……私は……!」
その瞬間だった。
皇帝の黒鎧の胸部が――微かに青白く光った。
〈源核〉——
全剣闘士の“種”を統御する、ただひとつの中心核。
光が膨れ、波紋のように闘技場全体へと広がる。
次の瞬間、ロゼッタの暴走因子は——
完全に“鎮圧”された。
身体の奥で燃え上がっていた炎が、一瞬で水に沈められたように消え、代わりに重圧がのしかかる。
まるで“跪け”と命じられたかのような圧倒的支配。
「……っ……!? 身体が……勝手に……!」
「くそっ……オリジンの制御波だ!
ロゼッタのスパルタカスプログラムが……あいつに従属させられてる……!」
皇帝が一歩、前に進む。
静かだ。
だが重い。
その足音ひとつで、空気そのものが押し潰されそうになる。
巨大な黒剣がゆっくりと引き抜かれ、その刀身が闇に溶けるように鈍く輝いた。
皇帝は言葉を発しない。
表情も見えない。
ただ、微かに面頬が傾く。
“さあ、始めよう。”
それだけが伝わる。
ロゼッタもまた、一歩踏み出す。
動作制限のせいで重い体。だが拳を握り、姿勢を整える。
そして——
地面が、破裂した。
皇帝の踏み込みは、ロゼッタのセンサーが追いつくより速かった。
黒い影が一瞬で間合いを消し、巨大な剣が横薙ぎに走る。
ロゼッタは咄嗟に盾で受けた。
火花が散り、金属が悲鳴をあげる。
衝撃で数メートル吹き飛び、瓦礫に叩きつけられる。
ロゼッタ
「……っ……っ……強……っ……!」
皇帝は、追撃のために一切ためらわない。
既に次の動作に入っていた。
上段から振り下ろされる黒剣。
空気が裂け、地面が陥没する。
ロゼッタは転がりながら回避し、間一髪で剣が瓦礫を粉砕するのを見た。
ホーゲルが叫ぶ
「ロゼッタ! 近接は絶対に不利だ! あいつは——」
「わかってます……! でも、逃げられない……!」
黒鎧が振り返る。
その動きがあまりにも滑らかで、恐ろしく美しい。
ロゼッタは床を蹴り、一気に間合いを詰める。
皇帝の懐に入り、連撃を叩き込む。
刀を 盾を 拳を 肘を 膝を そして脚を
そのすべてを——
皇帝は剣を使わず、
片手で受け止めた。
金属音もなく、まるで柔らかな布を触るように。
ロゼッタ
「……!?」
皇帝の握る黒手が、ロゼッタの腕を掴む。
——次の瞬間。
地面が裏返ったような衝撃。
ロゼッタは空を舞い、地面に叩きつけられる。
全身の骨格が悲鳴をあげる。
スパルタカスプログラムが起動しようとするが、
皇帝のオリジンがそれを押さえつけている。
反乱の因子が、皇帝に“服従”させられる。
ロゼッタ
「(……まったく動けない……? これが皇帝……!)」
立ち上がろうとするロゼッタの前に、皇帝が影のように迫る。
黒剣が、ゆっくりと持ち上がる。
親衛隊が囲む“闘技場”が、完全な沈黙に包まれる。
皇帝は語らない。
だが、その佇まいが告げていた。
——決闘は、終幕へ向かう。
ロゼッタは最後の力で拳を握り、皇帝を見上げた。
「……まだ……終わりじゃない……!」
黒剣が、落ちる。
廃都市の空気が震え、闘技場が唸るように揺れた。
第1章ー⑳に続く
黒衛兵が円を描く所は映画グラディエーターのラストシーンのイメージです。名作ですよね1は
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