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第1章ー⑱ 剣闘士皇帝

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。いよいよ脱出編も大詰めになります


廃都市の空気は、夜が落ちると一層重く沈む。

ロゼッタとホーゲルが対峙した黒鎧の巨影——皇帝。その存在は、ただそこに立つだけで世界の軸をねじ曲げるような威圧感を放っていた。


だが、ホーゲルはその背後に潜むもっと別の“脅威”を感じ取っていた。


「……ロゼッタ。あれは“ひとり”で来たわけじゃない。」


ロゼッタは感覚器を研ぎ澄まし、廃ビルの影や崩れた高架の下を探る。

そこには明確な殺気の気配——しかし、それは一個の意思ではなく、まるで一本の糸に繋がれた複数の心臓が一斉に脈打つような奇妙な統一感があった。


「呼ばれてる……? 誰に……?」


「決まってるだろ。あいつだ。“皇帝”そのものだ。」


黒鎧の皇帝を中心に、闇が波打つように動いた。

すべての影が、まるで主を失った犬が主人を見つけたかのように、ゆっくりと、しかし抗いようもなく皇帝へと吸い寄せられていく。


それが、旧帝国最強の親衛隊——〈黒衛兵〉。

かつて各地の闘技場で最強の名を欲しいままにした“元・剣闘士”で構成された最強の精鋭である。


ロゼッタは問いかけるようにホーゲルを見た。

「どうして……彼らは皇帝の元に?」


ホーゲルは苦い息を漏らした。

「理由は簡単だよ……“あいつが一番強い剣闘士だからだ”。」


ロゼッタは瞠目する。

皇帝が、剣闘士——?


ホーゲルは頷き、続ける。

「皇帝は昔、闘技場にいた最強の剣闘士だったんだよ。まだ帝国が大陸統一前、皇帝自身が闘技場で

 ”剣闘士として” 戦っていた 強かった強すぎたんだ

 だけど、その強さを怖れた宮廷が……あいつを“処分”じゃなく“利用”する道を選んだ。」


宮廷は皇帝に“種”を埋め込んだ。

実験体として。

兵器として。

支配の道具として。


だが——それが大きな誤算になった。


「皇帝はな、種の浸食率が100%を超えても精神を侵されなかった。むしろ……共生したんだ。誰より美しく、誰より強く。」


ロゼッタの内部データがざわつく。

“共生”という言葉が、皇帝の異常性を際立たせる。


「やがてあいつは“源核オリジン”に覚醒した。

 全ての剣闘士の種を統制し、同調させる……絶対的な中心核だ。

 だから親衛隊は“忠誠”じゃなく“本能”であいつに従う。引き寄せられるんだよ。」


廃都市の暗闇から姿を現す〈黒衛兵〉たち。

重い足音は、皇帝の心臓に合わせて脈打つように、一糸乱れず響く。

彼らの瞳は濁っているわけではなかった。

むしろ研ぎ澄まされ、鋭く、純粋に“強者の前での昂揚に震えている”だけだった。


「血の絆でも、思想でもない。

 ただ、もっと原始的な……“最強を頂点と認める、生き物としての本能”だ。」


ロゼッタは皇帝の方へ目を向ける。

その動作ひとつひとつが無駄なく、美しい。

そして驚くほど静かだ。

剣を構える姿はまるで——ひとつの芸術。


「……彼が剣闘士だったというのは、本当なんですか?」


「本当だよ。大陸を統一したのも、政治じゃない。

 “戦って勝ったから”皇帝になったんだ。」


ロゼッタの胸の奥で、古い記憶が疼く。

闘技場最上段。

ただひとり静かに観戦していた“圧倒的な視線”。

負けた者、勝者、血飛沫、観客の歓声……全部を、あざ笑うでも恐れるでもなく “つまらなそうに”

見下ろしていたあの存在。


——あれは、この男だった。


ホーゲルが呟く。

「しかもな……長引く戦闘で強くなるタイプだ。

 “適応型閃力”。

 戦えば戦うほど、敵のデータを吸って、速度も出力も跳ね上がる。」


ロゼッタの視線が、黒鎧の奥で微かに光る皇帝の眼と交差する。


その瞬間、彼女は理解した。

この男は——戦うことに喜びを感じる。


反乱の“種”をばらまいたのも、統一戦争を操ったのも、全てがただ一つの根源に集約する。


もっと強い敵と戦うため。


そして今、

彼の前には“次世代個体”とされたロゼッタが立っている。


皇帝の黒い剣が微かに光を帯びる。

親衛隊が息を呑むように姿勢を低くする。

廃都市の空気が、一斉に沈黙する。


ロゼッタは拳を握り、静かに呟いた。


「……あの日の続きか」


皇帝の面頬がわずかに歪む。

それは、戦いを待ち望む獣の“笑み”だった。


第1章ー⑲へ続く


モデルは歴史上いた ”あの皇帝” です。 某剣闘士ゲームでの ”あの皇帝” でのデュエルでの選択肢はどっちにしましたか? 私は神には逆らえなかったのでそっちの選択肢にしました。



読んでいただいてありがとうございます。ご意見ご感想お待ちしております。

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