第1章ー⑮ 極秘:帝国崩壊報告書
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
瓦礫の天井から落ちる赤錆の粒が、乾いた音を立てた。
不意にロゼッタがつぶやいた
「逃げることに必死で聞くことができなかったけど、今どうなっているの?帝国は?」
ホーゲルが小さく呟く
「滅びたよ‥」
「っ‥」
ロゼッタが息を飲む音が聞こえた。
「俺も今まで詳しいことまではわからなかったが、ロゼッタ、お前を入っていた”棺桶”を
開ける際、様々なデータがありその中にこれがあった」
ホーゲルは古びた端末のスクリーンに浮かぶ「極秘:帝国崩壊報告書」をロゼッタに見せる。
ロゼッタの義眼が微かに光を宿した。
第一段階:〈波及〉—剣闘士反乱の制御不能化
「……最初は計画通りだったんだ。そう書かれてる」
端末に残された記述は淡々としていた。
“反乱の火は各地へ伝播。
各王国軍は分断・疲弊し、帝国の干渉を受け入れるしかなくなった。”
「スパルタカス計画——。あれは、帝国が大陸を奪うための道具だった」
ホーゲルはため息をつく。
ロゼッタは静かに頷いた。
「剣闘士たちは“勝っても負けても死ぬ”檻を壊したかっただけ……
でも、それが帝国の思惑に使われた」
反乱は成功した。
そして帝国の軍が介入し、“支援”と称して各地を制圧した。
大陸は帝国の旗色へと染まっていった。
——ここまでは計画通り。
第二段階:〈混植因子の逸脱〉—種は兵へと広がる
しかし報告書の続きには、帝国上層がもっとも隠したかった文言があった。
“対象剣闘士の一部、処分漏れ。
また、混植因子が帝国兵に感染している兆候を確認。”
ホーゲルは唇をかみしめて言う。
「混植因子は、剣闘士の“戦闘欲求と連帯衝動”を増幅させる……
でもな、どこにも“感染する”なんて仕様はない。
これは……誰かが意図的に仕込んだ毒だ」
ロゼッタは目を伏せた。
「帝国はそれを隠して……兵をそのまま使ったのね」
「そうだ。
感染した兵は“命令に背く兵”じゃなく、“戦場を求める剣闘士”になった。
同僚を、自国の民を、軍規を……全部どうでもよくなっていった」
最初は小さな逸脱だった。
しかし戦闘経験のある兵ほど“感染”の進行が早かった。
第三段階:〈共鳴暴動〉—沈黙のパンデミック
帝国は秘密裏に鎮圧を試みるが、内部の剣闘士化した兵たちが逆に鎮圧部隊を取り込んでいく。
まるで共鳴するように、戦闘本能が連鎖して増殖した。
“帝国北部駐屯地にて、兵士1,200名が一夜にして暴徒化。
内150名は元剣闘士ではない。”
ロゼッタは黙っていたが、義眼の光が揺れる。
「……私たちを利用した結果が、これなのね」
ホーゲルはそっとロゼッタの肩に手を添えた。
「ロゼッタ、君のせいじゃない。
あれは“種”を人間に埋め込んだ連中の責任だ」
帝国は反乱を“敵国煽動工作”と偽装したまま、大陸を統一した。
しかし裏では、征服した街ごと焼却する事態も起きていた。
第四段階:〈自己破壊〉—帝国の中枢崩壊
最悪なのは、帝国中枢にも感染者が出たことだった。
元・剣闘士の出身者が多かった帝国親衛隊が、
“戦い合うことで強者を選別する”という狂った論理のもと、
宮廷内で内乱を起こしたのだ。絶対的な”忠誠”を誓わせるため
特に”調整”したにも関わらずだ
“皇帝直属親衛隊、第七分隊が皇城制圧を試みる。
皇帝、所在不明。”
「ここで帝国は終わったんだ」
ホーゲルは画面を閉じる。
「大陸を統一した直後に、自分たちの手で自分たちを壊した」
ロゼッタは深く息をつく。
「帝国が作った剣闘士も、帝国の兵も……
結局は“戦うように仕向けられた存在”。
誰も、自分の意思で生きられなかった」
そして、ロゼッタの視線は遠くに落ち着く。
「だから私は……今度こそ、自分の意思で動きたい。
もう、誰かの道具にはならない」
ホーゲルは柔らかく笑った。
「そのために、俺は君を蘇らせた。
ロゼッタ、君はもう帝国の兵器じゃない。
廃都市で息をしてる、ただの一人の女の子だよ」
彼女はわずかに照れたように目を伏せた。
「……ありがとう。ホーゲル」
瓦礫の間を吹き抜ける風が、言葉の代わりに静かに二人を包んだ。
ロゼッタは気付かなかった。いやホーゲルがあえて”見せなかった”
**【末尾記載:黒封筒文書】
(側近による手書きの追記)**
……もしこの報告書が発見された時、
帝国はすでに存在しないだろう。
残るのは廃墟と、封印の底で眠る“火種”だけだ。
第1章ー⑯へ続く
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