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第1章ー⑭ 決意

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。

 スパルタカスプログラムの発動により辛くも黒龍兵を退けたが

 同時にロゼッタ自身のダメージも大きく、これ以上の移動は困難と判断し

 2人は下層の小さな部屋へ逃げ込んだ。


 ロゼッタはベッド代わりの金属板に腰を下ろしていた。

 弱い義手は完全に沈黙したまま。

 胸の奥では、スパルタカス・プログラムの冷たい鼓動がわずかに響いている。


 (私は……反乱のために作られた?

  じゃあ私は……何のために生きてるの?)


 自分の存在意義そのものが崩れる感覚に、意識が揺さぶられる。


 ホーゲルが古い工具箱を閉じ、ロゼッタの隣に座った。


 「……修理は、ひとまず応急処置はした。

  義手は、まだ当分戦闘には耐えないがな」


 ロゼッタはうつむいたまま、静かに尋ねた。


 「ホーゲル……

  私は……誰のために戦ってきたんだろう」


 弱々しい声だった。

 剣闘士として人を殺し、帝国の支配の歯車になり、逃亡し、また戦っている。

 どれも“自分の選択だ”とホーゲルは言ってくれたが、その確信は揺れていた。


 ホーゲルはしばらく黙り、ゆっくり口を開いた。


 「ロゼッタ。

  お前は……ずっと、誰かの指示に従って生きてきた。

  剣闘士の檻でも、帝国の機械棺桶でも……だ」


 ロゼッタの肩がわずかに震える。


 「でも──逃げ出したのは自分の意思だ。

  あの廃都市で目覚めたとき、誰かに命令されたか?

  黒龍部隊から逃げる時、誰のために走った?」


 ロゼッタは答えられなかった。

 ただ、自分の胸の中に渦巻く想いを探すように目を閉じた。


 ホーゲルは続ける。


 「お前が戦ったのは……

  生きるためでもあるし、守るためでもある。

  それは“プログラム”じゃない。

  生きているものなら誰だって持つ、本能だ」


 ロゼッタの胸が痛む。

 スパルタカス・プログラムの冷たい演算とは違う、人間的な痛みだった。


 「……じゃあ私は……

  これから、どうすればいいの?」


 彼女は震える声で問いかけた。


 

 「帝国と戦うべき?

  それとも……逃げ続ける?」


 涙のように見える微量の冷却液が、目尻からきらりと光った。


 ホーゲルは静かに首を振った。


 「違う。

  “何のために戦うか”は……君が決めるんだ」


 ロゼッタは息を呑む。


 「帝国のためでも、誰のためでもない。

  ロゼッタ、

  お前が守りたいものを、選べ。

  そのためなら……俺は手を貸す」


 ロゼッタの胸の奥で、スパルタカス・プログラムが微かに反応する。

 敵を倒す計算でも、反乱を誘導するためのシナリオでもない。

 ただ――


 (私が……守りたいもの……)


 思い浮かぶのは、

 過去の記憶にある仲間の顔。

 ホーゲルが火花を浴びながらも修理をしてくれた彼の厚い手。

 自分の名を呼ぶ声。


 ロゼッタはゆっくりと顔を上げた。


 深紅の瞳が、揺れながらも強さを宿していく。


 「……私……

  私は“誰かの道具”じゃない。

  もう……誰かの思惑で戦いたくない」


 ホーゲルが小さく頷く。


 ロゼッタは続けた。


 「私が戦う理由は……

  私が……決める」


 その瞬間、胸の奥の冷たい鼓動が、

 ほんのわずかに温度を帯びたように感じた。


 第1章ー⑮へ続く

読んでいただいてありがとうございます。ご意見ご感想お待ちしております。

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