第1章ー⑬ 帝国の計画
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
黒龍兵の残骸が煙を上げる中、
ロゼッタはふらつきながら膝をついた。
深紅に染まっていた瞳がゆっくりと薄れ、
呼吸は荒く、弱い義手は完全に動かなくなっている。
「ロゼッタ! 無茶をしすぎた……!」
ホーゲルは駆け寄り、肩を支えた。
その時、ロゼッタの胸ユニット内部で、微細な光が明滅した。
ホーゲルの表情が固まる。
(……これは……何だ?)
彼は震える手で、古びたメンテナンス端末を広げる。
ロゼッタの体内ネットワークに接続し、バイナリログを解析し始めた。
次の瞬間、画面に黒いラベルの暗号化データが浮かび上がる。
【スパルタカス計画 ― 目的コード:機密指定】
ホーゲルは唇を噛み、さらに深層まで解析をかける。
暗号が一つ、また一つと解けていき──
表示された目的文に、ホーゲルは息を呑んだ。
「……嘘だろ……こんな……」
ロゼッタが弱々しく彼を見上げる。
「ホーゲル……何が……書いてあるの……?」
ホーゲルは震える声で、読み上げた。
《スパルタカス・プログラム本来の目的》
『剣闘士としての戦闘適応強化……
ではない。
“反乱の指揮者”としての資質を選別し、
“支配構造へ反逆する個体”を人工的に創出する計画』
ロゼッタの瞳が揺れる。
ホーゲルは続ける。
「ロゼッタ……君の中に入っていたのは、ただの戦闘プログラムじゃない。
“反乱軍リーダーの種”を作るための……禁断のアルゴリズムだ」
「反乱……軍……?」
「そうだ。
スパルタカスは“剣闘奴隷を解放する反逆者”だった。
その名前を冠している時点で怪しいとは思っていた。
でも……本当の目的は……」
ホーゲルの声がかすれる。
スパルタカス計画の目的:
各国に存在する“剣闘士制度”そのものを逆手に取り、
大陸全域に小規模反乱を連鎖的に発生させる。
最終的に、各国の軍事力・警備力・治安維持体制を、
同時多発的に疲弊させ大陸規模の無力化を達成する。
基本構想:「種(Seed)」を持つ剣闘士を育成する。
特定の思想、暗号化された合図、反乱行動の訓練を受けた個体。
彼らは通常の闘技奴隷と見分けがつかないよう造られている。
剣闘士は“興行”のため国境を越えて移動することもある
その性質を利用し、反乱思想プログラムを密かに拡散。
剣闘士に組み込まれている”反乱防止プログラム”に作用し
そのプログラムを内部から書き換える。
そして小規模な蜂起を“意図的に”発生させる。
町単位・闘技場単位で起こる一過性の反乱。
成功・失敗どちらでも構わない。重要なのは「火種が見える」こと。
”火は連鎖する”
圧政下の剣闘士たちが刺激され、模倣反乱が増加。
各国は軍を分散せざるを得ず、結果的に広域の統治が崩壊していく。
想定結果:
労働力・治安・興行産業が一斉に麻痺。
税収低下と安全保障の破綻により各国家は疲弊。
その隙を突いた帝国の“大陸覇権”が生まれる。
なお計画達成ののち、反乱した剣闘士をすべて”処分”する
ロゼッタは震えながら胸に手を当てた。
そしてかつての記憶にあった事実
そこには、あの戦闘時に脈動していた“もうひとつの心臓”がある。
「わたし……帝国の……ために……?」
ホーゲルは首を振る。
「違う。
君が“反乱者になるよう作られた存在”なのは事実だ。
でも、何のために戦うか“選ぶ”のは君だ。
反乱のためでもなく……
君自身が守りたいもののために」
ロゼッタは小さく息を吸った。
「……じゃあ私が殺してきたのは……
ただの……プログラムのせい……?」
ホーゲルはロゼッタの手を握った。
「ロゼッタ。
君が今まで生き延びたのも、戦ったのも……
全部“君自身の選択”だ。
だからこそ──」
ホーゲルは深紅に光る彼女の瞳を、正面から見つめた。
「君には、まだ未来がある」
第1章ー⑭へ続く
計画の全容が明らかになりました。脱出編もう少し続きます。引き続きよろしくお願いいたします。
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