第1章ー⑪ 激突
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ロゼッタは、即席の盾を構えた。
右義手は、弱い。出力は本来より程遠い。
手にしている“スクラップブレードは”。一撃で刃こぼれする可能性もある。
それでも、逃げない。
「……来る。」
黒龍特化異能兵の首が、カク、とロゼッタの方向へ傾いた。
赤い光点、彼女の胸部を正確に狙い続ける。
同時に──爆速の踏み込み。
地面が砕け、黒い槍が突進してくる。
ホーゲルが叫ぼうとした声は、爆音にかき消された。
ロゼッタは盾を前に突き出した。
ガンッ!
衝撃で全身が揺れる。盾の裏で、左肩のサーボがきしんだ。
それでも、黒龍兵の推力の軌道を逸らすことに成功する。
(避けるだけじゃ、意味がない……!)
盾で黒龍兵の顎をはじいた瞬間、右義手を無理やり稼働させ、刀を振り抜く。
ザシュッ。
金属皮膚に浅い傷。
本来なら深く切り込めるはずの一撃は、義手の低出力もあって表面を裂くに留まった。
黒龍兵が無機質に反応する。
傷口から黒い霧状の冷却煙が立つ。
「まずいな……強度が足りてない……」
後方でホーゲルが歯ぎしりする。
「ロゼッタ、無理はするな!」
だがロゼッタは一歩、前に踏み込んだ。
(ここで退いたら……また誰かが殺される。
先輩や仲間たち、何よりホーゲルが……だれも守れない)
記憶の断片が蘇り、胸の奥で何かが、鳴った。
──ガンッ、ガンッ、ガンッ。
脈動。
心臓とは別の、もう一つの“起動音”が、彼女の内部で高まっていく。
黒龍兵が跳ぶ。
天井近くまで跳び、そのまま矢のように降下してくる。
ロゼッタの視界に、黒色の軌跡がハッキリ見えた。
(……見える)
時間が引き伸ばされたように、黒龍兵の動きが遅く見える。
空気の流れも、跳ぶ角度も、着地の重心も──すべてが手に取るように読み取れる。
ロゼッタは盾を斜めに構える。
黒龍兵の降下を──盾の角度を使って横へ逸らす。
着地点へ、一瞬で踏み込む。
右腕の義手が悲鳴をあげる。
それでも、刃を振り抜く。
ガキィン!
刃が火花を散らしながら、黒龍の脚部の結合部を半ばまで切りつけた。
だが黒龍兵は、脚の故障部もお構いなしに背後へ迫る。
ロゼッタはわずかに姿勢を沈め、その突進を回避しながら、
黒龍兵の半分切れかけた脚部を左足で踏みつける。
折れた脚部のシャフトを抜き反対側への膝へ突き刺す。
金属音が炸裂した。
ロゼッタは息を荒くしながら振り向く。
その動きに、微細な銀粉が散った。
義手の内部が摩耗し、粉を吹き始めている証拠だった。
「ロゼッタ! 限界だ、戻れ!」
ホーゲルが叫ぶ。
だがロゼッタは盾を構え直した。
両足が傷ついた黒龍兵が、まだうごめいている。
赤い光点がまた光る。
(弱い義手でも……壊れかけでも……
私の“本能”は、まだ燃えてる……!)
ロゼッタは前へ走り出す。
その瞳は深紅の光を帯びていた。
胸の奥で何かが、鳴った。
第1章ー⑫へ続く
次回にこの物語のキーになるものが登場します。ここから一気に物語は加速します。
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