第3章ー㊴ 報告・連絡・相談
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
坑道に重く残っていた緊張を、リンが意識的に断ち切るように手を叩いた。
「はいはい、この空気は一旦ここまで!」
全員の視線が、リンに集まる。
「話は全部聞いた!
でもね、まずはコイツでしょ」
そう言って、倒れ伏した巨大な影――プルータスへ顎をしゃくる。
「まずは現実。
こいつ、でかすぎ。
私たちじゃ解体も運搬も無理だよ」
セリカが苦笑する。
「だよね……防具どころの話じゃない」
リンは頷いた。
「だから、ギルドに連絡。
討伐成功、ただし“回収案件”付き。
運搬班と解体班を出してもらおうよ」
ミレイアが通信端末を取り出そうとするが、
ロゼッタが一歩、前に出た。
「……その前に」
倒れたプルータスの周囲を、ゆっくりと見回す。
「どんな素材が取れるか、確認しましょう。
報告書にも必要だし……
何より、無駄にしたくないです」
リンが口角を上げる。
「そう来ると思った」
四人は警戒を解かず、プルータスへ近づいた。
坑道の灯りが、金属と肉体が混じった異様な巨体を照らし出す。
まず目に入るのは――
巨大な胴体を覆う、多層装甲殻。
外側は岩石のように硬く、内側は黒ずんだ金属繊維が編み込まれている。
セリカがしゃがみ込み、指で叩く。
「……これ、ただの装甲じゃない。
衝撃吸収層と、荷重分散構造」
目を輝かせて続ける。
「前衛用の防具にしたら最高だよ。
重いけど、その分 “耐えられる” 」
次に、視線を向けたのは脚部。
「関節部の強化アクチュエータ……
いや、生体筋肉と融合してる」
「動力伝達効率が異常。
軽量化できれば、機動型装備にも使える」
割れた装甲の隙間から覗く内部構造は、
モンスターというより重機に近い。
「……私は、やっぱりこれかな」
ロゼッタは、片手で埃を払う。
胴体側面に接続された、巨大な回転式削岩アーム。
鉱脈を穿つためのそれは、今も鋭い刃を失っていない。
「これ、武器に使える」
セリカが即座に反応した。
「だよね!
ただのパーツじゃない。回転軸もトルクも異常だよ」
彼女は目を輝かせ、削岩アームの付け根を観察する。
「軸を短くして、回転制御を簡略化すれば……
近接用の打撃武器、もしくは貫通用のドリルハンマーになる」
ミレイアが腕を組む。
「ロゼッタの戦い方に合いそう?」
ロゼッタは、少し考えてから答えた。
「重いけど……
芯材としてなら、かなりいい。
あの衝撃は、生半可な装甲じゃ耐えられない」
リンがメモ端末を操作しながら言う。
「了解。
回転式削岩アーム、主要素材として申請。
他にも、外装装甲、動力コアの残骸……」
プルータスの亡骸を見上げ、少しだけ笑う。
ミレイアは頭部付近に近づき、慎重に覗き込んだ。
「……中枢コアがある」
露出した装甲の隙間から、
鈍く光る結晶状の塊が見える。
「高密度エネルギー反応。
多分、旧文明製の軍用規格……
下手に触ると爆ぜるわ」
リンが即座に言う。
「これはギルド案件確定だね。
専門班に任せたほうがいいね」
ミレイアが通信を開く。
「討伐対象:機械融合型重装個体。
回収・運搬要請。
生体・機械複合素材、極めて高価値」
送信音が、坑道に小さく響いた。
四人は装備を整え、
ギルドの到着を待つため、坑道の出口へと歩き出した。
それからしばらくして
坑道の入口が、重低音とともに揺れた。
ギルドの回収班が到着したのだ。
重機、解体用ワイヤー、照明車両――閉所用に最適化された装備が次々と展開されていく。
その中心に、グレンがいた。
分厚い防護コートのまま、彼は無言で坑道の奥へ進む。
やがて視界が開け、横たわる巨大な残骸が姿を現した。
「……」
グレンは足を止めた。
プルータス。
鉱山跡を根城にしていた、軍用改造型重装モンスター。
その装甲は――
割れ、
砕け、
削れ、
叩き潰されている。
回転式削岩アームの基部は歪み、
胴体には明らかに人間の武器による打撃痕が何重にも残っていた。
「……おかしいな」
グレンは低く呟く。
「このランク帯で、
まず“狩れない”相手だ」
回収班の一人が口を挟む。
「隊長、攻撃痕が異常です。
爆発でも銃撃でもない。
近接打撃……しかも二種類」
グレンはゆっくりと視線を巡らせ、
坑道の出口付近に立つ四人を見つけた。
――ロゼッタ。
グレンは一歩、二歩と近づき、名を呼ぼうとする。
「ロ――」
その瞬間。
ロゼッタが、こちらを見た。
声はない。
ただ、目だけが、はっきりと訴えていた。
――言わないでほしい。
――今は、まだ。
一瞬の沈黙。
グレンは言葉を飲み込み、口を閉じた。
(……なるほどな)
視線を外し、軽く息を吐く。
(あの傷の付き方……
“昔”を思い出したか……)
ロゼッタは、わずかに頭を下げた。
感謝でも謝罪でもない、ただの合図。
グレンはそれを受け取り、
何もなかったかのように踵を返す。
「回収を急げ」
回収班に向けて、いつもの低い声で指示を出す。
「この個体は、
新人が連携して削り切った。
それ以上でも以下でもない」
部下たちは疑問を抱きつつも、命令に従う。
グレンは最後にもう一度、プルータスを振り返った。
(……背負ってるもんが、
ただの新人じゃない)
だが、踏み込まない。
それが、
生き延びてきたハンターの距離感だった。
グレンは帽子を深くかぶり直し、呟く。
「――時が来たら、
話してもらうさ」
坑道に響くのは、
解体機の駆動音と、金属が軋む重い音だけ。
その中で、
“語られなかった真実”は、
静かに胸の内へ沈んでいった。
続く
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