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第3章ー㊳ 告白

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。



ブルータスの残骸が冷え、坑道に残っていた熱と振動がようやく引いていく。

粉塵が静かに落ち、折れた梁の隙間から差し込むランプの光が、

四人を淡く照らしていた。


ロゼッタはまだ地面に膝をついたままだった。

呼吸は整いつつあるが、胸の奥――さきほど確かに“目を覚ましたもの”が

まだ完全には眠っていない感覚が残っている。


セリカがそっと近づき、ロゼッタの前にしゃがみ込んだ。

叩き潰された装甲の破片が、彼女の足元で小さく音を立てる。


「……さっきの、あれ」


言葉を選ぶように、セリカは一度口を閉じる。


「正直に言うとさ、

 普通のハンターの動きじゃなかった。

 すごかったとか、強かったとか、そういうのじゃなくて……」


リンも、銃を肩から下ろしたまま、視線を逸らさずにいる。

ミレイアは黙っていたが、その表情はいつもよりずっと真剣だった。


ロゼッタは、一度目を閉じた。


――もう、隠しきれない。

――隠す意味も、ない。


ゆっくりと立ち上がり、三人を順に見渡す。

その目に宿るのは、さきほどまでの戦闘の鋭さではなく

どこか怯えた、けれど決意を固めた光だった。


「……話さなければならないことがあります」


声は小さい。

だが、はっきりとした重みがあった。


「私は――

 この世界で言う“剣闘士”とは、少し違う」


セリカが息を呑む。

ロゼッタは言葉を継ぐ。


「何十年も前……

 帝国が今より、ずっと強く、残酷だった時代の剣闘士」


リンの指が、無意識に引き金から離れる。


「私は、帝国の闘技都市で生まれました。

 名前じゃなく、番号で呼ばれる場所。

 勝てば食べられて、負ければ終わり。

 それだけの世界だった」


セリカは黙って聞き、ミレイアとリンも口を挟まない。

誰も、目を逸らさなかった。


「剣を持たされたのは、物心つく前。

 最初は恐ろしくて、何度も震えた。

 でもね……震えてる間に、人は死ぬ」


淡々とした語り口なのに、その一言が重い。


「だから、生き残るために学びました。

 力の差を覆す動き、間合い、呼吸。

 二刀流も、踊るような戦い方も、

 全部“見せるため”じゃなく“殺されないため”」


セリカの脳裏に、さっきの《円舞》がよみがえる。

あれは技術ではない。

生きるために削ぎ落とされた、闘争の結晶だった。


「でも、ある時……帝国が気づいた。

 私みたいな存在は、制御できないって」


「ある反乱のあと……

 私は、封じられました。

 眠らされたまま、時間だけが過ぎて……

 目を覚ましたとき、この時代にいました」


ロゼッタは自嘲気味に笑う。


「だから、処分する代わりに“保存”した。

 技術で眠らせて、必要になったら使うために」


「帝国は、私を探してます。

 “危険な存在”だから。

 逃げて、隠れて、そしてハンターとして生きようと思いました」


言葉を選びながら、

それでも、もう止まらなかった。


「……でも、戦い方は隠せなかった?」


「はい。

 抑えても、削っても……

 命がかかった瞬間、体が覚えてる動きをしてしまう」


「さっき出てきたのは……

 私の中に残ってた、剣闘士の魂(スパルタカス)

 もう、失ったと思ってたもの」



拳が、震える。



「……だからってさ」


拳を握り、セリカは歯を食いしばる。


「だからって、

 今ここで一緒に戦って、

 助け合った事実まで変わるわけじゃないだろ」


ミレイアも、静かに笑った。


「戦い方に“過去”があるのは、誰だって同じよ。

 重要なのは、今、何のために撃つか……何のために剣を振るか」


ロゼッタの胸の奥で、何かがほどける音がした。

恐怖でも、罪悪感でもなく、

張りつめていた糸が、ゆっくりと緩む感覚。


「……ありがとう」


その声は、かすかに震えていた。


「……でも、セリカがやられそうになった時、

 勝手に、身体が動きました」


小さく、笑う。

苦い笑みだった。


「だから……

 もし、怖いなら。

 一緒にいられないなら……

 ここで、言ってください」


「……みんなを巻き込む。

 ここにいるだけで、危険に晒す。

 だから――」


「だから、何だよ」


セリカの声は、強かった。

ロゼッタが顔を上げると、セリカは真正面から睨んでいた。


「帝国がどうとか、昔がどうとか、そんなの後だ」


セリカは一歩踏み出す。


「さっき、あたしを守ったのは誰だ?

 命張って、前に出たのは誰だ?」


ロゼッタは、言葉を失う。


ミレイアが、苦笑混じりに肩をすくめた。


「剣闘士でも、眠ってた存在でもいいわ。

 今、同じ現場で背中預けてるのは事実でしょ」


リンも、静かに頷く。


「過去は問題じゃない。

 今、どう動くか。

 それだけだよ」


ロゼッタの目が、揺れる。

拒絶されると思っていた。

距離を置かれると、覚悟していた。


セリカが、ロゼッタの前に立ち、少しだけ笑った。


「……さっきの “円舞” 、正直言ってさ」


間を置いて、言う。


「めちゃくちゃ格好よかった」


その瞬間、ロゼッタの堪えていたものが、崩れた。

視界が滲み、言葉にならない息が漏れる。


「……ありがとう」


それだけで、精一杯だった。


坑道の奥で、

剣闘士とハンター、過去と現在が、静かに重なっていく。


「いつか、迷惑をかけるかもしれない。

 帝国が、本気で――」


セリカが、ロゼッタの肩に手を置く。


「そのときは、そのとき考えようぜ。

 武器も、防具も、逃げ道も……

 一人で抱える必要、ないだろ?」


ロゼッタは、ほんの少しだけ、目を潤ませて笑った。


「……ありがとう……」


その声は、ほとんど囁きだった。


セリカが、ロゼッタの肩を軽く叩く。


「じゃあ決まり。

 あんたは“元剣闘士”じゃなくて――」


にっと笑う。


「今は、私たちのハンター仲間」


ロゼッタは、こらえきれず、泣き笑いのような表情になった。


その胸の奥で、

かつて血と叫びに染まっていた魂は、

初めて――“居場所”を得た気がしていた。




焚き火の小さな炎が、坑道の壁に揺れる影を映していた。

応急処置を終え、全員が腰を下ろしたあと、ロゼッタは静かに口を開いた。


「……もう少し、話しておきたいことがあります」


誰も急かさない。

セリカは膝を抱え、リンは水筒を手に、ミレイアは周囲を警戒しながらも耳を傾けている。


「私が目覚めたとき……最初に会ったのが、修復士(ホーゲル)でした」


名前を口にした瞬間、懐かしさが滲む。


「瓦礫の下に埋もれてた私を、

 “遺物”じゃなく“人”として扱ってくれた」


ロゼッタは、焚き火を見る。


「体の調整も、装備も、右腕も……

 全部、ホーゲルが整えてくれた」

 


一度、息をつく。


「でも、それだけじゃ足りなかった。

 帝国は、私を ”回収対象” として本気で追ってきたから」


ミレイアが低く唸る。


「そこで手を貸してくれたのが、ある傭兵達(αチーム)


ロゼッタの声が、少しだけ柔らぐ。


「輸送、陽動、偽情報……

 正面から戦うんじゃなく、

 “存在そのものを曖昧にする ”やり方」


「色々教えてくれた。生きるために必要な ”術”(すべ) を」


ミレイヤが小さく頷いた。

熟練者のやり方だ。


「何度も街を変えて、名前を変えて……

 帝国に追われながら、あの街(ハブ・ゼロ)に辿り着きました」


セリカが、そっと聞く。


「……怖くなかった?」


ロゼッタは、正直に答えた。


「怖かった。

 でも、それ以上に……

 また捕まって、誰かの前で剣を振るうのが、怖かった」


拳を見つめる。


「剣闘士の力を見せたら、

 また奪われる。

 利用される。

 そう思ってた」


沈黙が落ちる。


「だから、ハンターになった。

 ハンターに紛れれば、元剣闘士でも、機械化されていても、

 何より、強くても、不自然じゃない」


自嘲気味に、微笑む。


「……逃げ場としてのギルド」


セリカが、首を振った。


「でも、今は違う」


ロゼッタが顔を上げる。


「ここまで来れたのは、

 私を助けてくれた人(ホーゲルやαチーム)が、

 “逃げるだけの存在”にしなかったから」


ミレイアが、穏やかに言う。


「だったら、私たちも同じよ」


リンが短く続ける。


「一緒に生き残ろうよ」


ロゼッタの胸の奥で、何かがほどけた。


「……ありがとう」


焚き火が、ぱちりと音を立てる。

坑道の闇の中で、彼女は初めて、

“追われる剣闘士”ではなく、

“仲間の一人”として座っていた。



続く

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