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第3章ー㊲ 深紅円舞

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


鉱山跡での激闘になります


鉱山跡の最深部に近づくにつれ、空気そのものが変質していくのが分かった。

湿り気は消え、代わりに鉄が焼けたような匂いと、

古い油の酸味が鼻腔に張りつく。

壁面には採掘痕ではない、何かが何度も擦りつけられたような深い傷が走り、

天井の補強材は無理な力を受けたのか歪んで軋んでいた。


「……ここ、普通じゃないわ」


リンの声は抑えられていたが、緊張の色を隠しきれていない。

ミレイアは返事をしなかった。代わりに、銃を構える角度をわずかに下げ、

通路全体を“撃てる範囲”として捉え直している。


セリカは一歩前に出かけ、すぐに足を止めた。

床に残る巨大な轍。

爪痕ではない。

“引きずった”痕跡だ。


「……デカいの、いるね」


その言葉が終わるより先に、奥の闇が動いた。


ズ……ン……ッ。


低く、腹に響く振動音。

坑道の奥から、ゆっくりと、しかし確実に何かがこちらへ向かってくる。

ランプの光が届いた瞬間、全員が息を呑んだ。


それは機械モンスターだった。

だが、今まで見てきた個体とは明らかに違う。


全高は天井すれすれ、四脚構造。

外装は鉱石と廃装甲を溶接したかのように歪み、無数の修復痕が重なっている。

正面装甲には、旧文明文字で刻まれた識別名が、半分削れながらも残っていた。


――《G-OREM・TYPE:BRUTUS》


「……“ブルータス”」


ロゼッタが、思わず名を読み上げる。

その瞬間、機械が反応したかのように、赤い光が複眼に灯った。


――ズガァァンッ!!


床が割れる。

ブルータスが前脚を叩きつけただけで、鉱石が砕け、衝撃が足元から突き上げてきた。


「散開ッ!」


リンの叫びと同時に、銃声が走る。

――ダダッ、ダンッ!

関節部を狙った弾丸が火花を散らすが、装甲が厚すぎる。

効いていない。


ミレイアが回り込もうとした瞬間、

ブルータスの側面装甲が開き、内部から回転式の削岩アームが飛び出した。


――ギャリギャリギャリッ!!


壁ごと削り取る暴力的な回転。

坑道が悲鳴を上げ、崩れた岩片が雨のように降り注ぐ。


セリカが歯を食いしばり、短い踏み込みでハンマーを振るう。

――ゴンッ!

だが、衝撃は吸われ、逆に反動が腕に返ってきた。


「っ……硬すぎる!」


ロゼッタは迷わず前に出た。

両手運用は不可能。

彼女は即座に片手持ちへ切り替え、支柱を背に距離を詰める。


《警告。

 正面装甲、耐衝撃値想定超過。

 提案:腹部下層、動力ケーブル》


頭の奥の声に従い、ロゼッタは滑り込むように低姿勢になる。

ブルータスの腹部――だが、そこは脚部に守られ、狭すぎた。


――ドンッ!!


尾部が振り回され、ロゼッタは壁に叩きつけられる。

息が詰まり、視界が揺れる。


それでも立ち上がる。

闘技場の記憶が、嫌でも蘇る。

狭い檻、逃げ場のない死合。


(……違う)


歯を食いしばり、ロゼッタは自分に言い聞かせる。

ここは闘技場じゃない。

自分は――ハンターだ。


ミレイアの弾がブルータスのセンサー部を掠め、

リンが連射で牽制する。

だが、ブルータスは止まらない。


天井の梁が、

――ミシ……ミシ……

嫌な音を立て始めていた。


「このままじゃ、坑道ごと潰れる……!」


セリカが叫ぶ。

ロゼッタは武器を握り直し、片手で構えたまま、ブルータスを睨み据えた。


強敵。

明らかに格が違う。

まだ、決定打は見えていない。


それでも――退くという選択肢は、誰の頭にもなかった。


ブルータスが再び脚を踏み鳴らし、突進の姿勢を取る。

坑道全体が、今にも崩れ落ちそうに震え始めた。


その瞬間、

ロゼッタの視界が一瞬だけ研ぎ澄まされる。


《次行動予測――》


だが、その先を聞く前に、

ブルータスの巨体が動いた。


――――ズドォォォンッ!!!


衝撃が全てを飲み込んだ


爆音と共に坑道の床が砕け、粉塵が霧のように立ちこめた。

衝撃は逃げ場のない閉所で何倍にも増幅され、壁、天井、肺の奥まで震わせる。


ロゼッタは地面を転がり、辛うじて体勢を立て直したが、

右腕の義手が悲鳴のような軋みを上げた。警告表示が視界の端で瞬く。

ダメージ蓄積。

出力制限。


リンの肩口は裂け、銃は弾倉を叩き込んでも反応が遅れる。

ミレイアは片膝をつき、照準を合わせようとするたびに息が乱れ、視界の端が暗む。

セリカは前に立ち続けていたが、重装備の防具は衝撃を吸い切れず、

腕は痺れ、足取りはもはや覚束なかった。


「……化け物、だよ……」


その言葉通りだった。

《G-OREM・TYPE:BRUTUS》は、ただの機械モンスターではない。

鉱山という閉所、重装甲、圧倒的な質量。

ハンターを“殺すため”に最適化された存在。


――ギギ……ギィィ……。


ブルータスが向きを変え、標的を定める。

複眼の赤い光が、今度はセリカを捉えた。


「……っ」


セリカはハンマーを構え直そうとして、動きが止まった。

肩口から流れる血。

重装備とはいえ、連続した衝撃と反動が限界を超えている。


「セリカ、下がって!」


ロゼッタの叫びが届く前に、

ブルータスの前脚が高く持ち上がった。


――ズンッ。


一歩。

その一歩だけで、地面が陥没する。


「下がらない! 下がると ”守れない!” 」


その瞬間だった。


「セリカ!」


セリカの背中を見たロゼッタは叫んでいた。

あの時の記憶が蘇る。

炎の中、幼い自分を守ってくれたその背中

皇帝に負けた時、必死に声を張り上げて守ってくれた背中


ロゼッタの胸の奥――

ずっと空洞だった場所が、熱を帯びる。


(……また、守れないのか?)


闘技場の記憶が洪水のように溢れ出す。

檻。

歓声。

血。

「殺せ」「立て」「倒れたら終わりだ」という、無数の叫び。


――違う。


(今は……今は、違う)


だが、その否定を押し流すように、

失われたはずの“何か”が、確かに蘇った。


『――生きろ』


荒く、低い、懐かしい声。

耳ではなく、魂に直接叩きつけられる。


『死んだ時点で負けだ、ロゼッタ。

 仲間を守れ。

 立って、叩き潰せ』


スパルタカス。

消えたはずの魂が、怒りと共に目を覚ます。


『制限拘束、限定解除』


『スパルタカス――血の鎖を断て』


『限定起動承認。

SPARTACUS PROTOCOL : UNCHAINED』


ロゼッタの瞳が、闘技場で培われた“闘士の色”に染まった。

殺せ。

生きろ。

踊れ。

血の中で、剣を振れ。


忘れたはずの声。

封じたはずの衝動。


だが、それは命令ではなかった。

叫びだった。


(……セリカを、守る!)


ロゼッタの視界が、一気に澄み切る。

痛みも、恐怖も、音すら遠のき、世界が“動きの線”として立ち上がった。


ブルータスの脚が振り上がる。

次の一撃は、確実にセリカを潰す。


ロゼッタは走った。


拾い上げたのは、地面に転がっていたセリカのハンマー。

そして、もう一方の手には、自分の武器。


――二刀。


《警告。戦闘負荷、限界超過》


頭の奥の声を、ロゼッタは無視した。


「……黙ってて」


踏み込み。

跳躍。

着地と同時に、二つの武器が唸りを上げる。


剣闘士二刀流技 

《深紅円舞・リベレイション・サークル》


踊るように、回る。

叩き、引き、踏み込み、すれ違いざまに打ち込む。


――ガンッ!

――ゴォンッ!

――ギャリッ!


ハンマーが装甲を叩き潰し、刃が露出した内部配線を切り裂く。

一撃ごとに、間合いを変え、角度を変え、止まらない。


ブルータスが反応しようとするが、遅い。

ロゼッタはすでに、次の“位置”にいる。


「……っ、なに……これ……」


ミレイアが、息を呑む。

リンも、撃つ手を止めていた。


ロゼッタは戦場で踊っていた。

荒々しさの中に、セリカ達(観客)をも魅了する美しさがそこにあった

闘技場で、生き残るために身につけた“狂姫(きょうき)の型”。

だが今は違う。


殺すためじゃない。

守るための円舞。


最後の踏み込みで、ロゼッタは両腕を振り抜いた。


円舞が止まる。


深紅の軌跡が、一本の線に収束する。


《血よ、還れ!》


――ズドォォンッ!!


腹部下層、動力核直撃。

ブルータスの巨体が硬直し、赤い光が瞬いたまま、動きを止める。


数秒の沈黙。

そして――


――――ドガァァァンッ!!!


爆発音とともに、機械の巨体が崩れ落ちた。


ロゼッタは、その場に膝をつく。

二刀を手放し、荒い呼吸を繰り返す。


セリカが、震える足で近づいた。


「……ロゼッタ……?」


ロゼッタは顔を上げ、いつもの、少し不器用な笑顔を浮かべた。


「……大丈夫。

 今度は、守れた」


その胸の奥では、

かつて失われたはずの魂が、確かに目を覚ましていた。



続く

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