第3章ー㉟ 目標に向かっての歩み
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
大規模討伐の夜――
討伐を終えたギルドの宴は、ただの飲み会ではない。
それは「生き残った者たちが、自分がここにいる理由を再確認する場」だった。
酒場の扉が開け放たれ、
焼いた肉の脂と、油煙と、酒の匂いが混ざり合って渦を巻く。
鉄板の上では分厚い肉がジュウゥゥッと音を立て、
鍋では骨付きの獣肉がぐつぐつと煮込まれている。
「おい、そっちの卓! 肉が余ってるぞ!」
「持ってけ持ってけ! 今日は出し惜しみなしだ!」
ジョッキがぶつかり合い、
木製の床が踏み鳴らされ、
誰かが調子外れの歌を歌い始める。
それでも、誰も止めない。
今日だけは――いい。
ロゼッタたち四人は、少し奥まった卓に陣取っていた。
それでも卓の上は戦場だ。
骨付き肉、焼き野菜、硬い黒パン、
そして果実酒の瓶が何本も転がっている。
セリカは完全にできあがってた。
「はぁ〜……これこれ!
命が戻ってくる感じ!」
鎧を外した肩口に、
討伐の名残の擦り傷が覗いているが、
本人はまるで気にしていない。
ミレイアは、グラスを片手に周囲を見回した。
「……こうして見ると、
今回の討伐、参加人数も多かったわね」
「その分、危なかったけどね」
リンが肩をすくめる。
「銃声、叫び声、車両のエンジン音……
正直、耳が追いつかなかった」
ロゼッタは黙って肉を切りながら、
その言葉を噛みしめるように頷いた。
――自分たちは、
確実に“次の段階”に足を踏み入れつつある。
しばらくして、酒も進み、
卓の空気が少し緩んだ頃。
ロゼッタが、ぽつりと切り出した。
「……ねえ、みんな。
今後のこと、少し話してもいい?」
三人が自然と顔を上げる。
「今回みたいな討伐が増えると、
徒歩と定期便だけじゃ、正直きつい」
セリカが即座に反応した。
「だよな。
今日だって、装備置き場と戦場を
何度も往復してたし」
ミレイアが続ける。
「戦利品もそう。
重くて、泣く泣く置いてきた素材もあった」
リンが指を立てる。
「それに……
装備の制限もある」
全員が、その言葉に頷いた。
ロゼッタが、静かに言葉を足す。
「車――
車が欲しいよね」
酒場の喧騒の中で、その一言は妙に重かった。
「重い防具」
「予備弾薬」
「大型武器」
「予備のパーツ」
セリカが拳を握る。
「つまり――
より強力なモンスターを狩れるってことだ」
「前衛が、
本当に“前に立てる”」
ミレイアの声には、実感がこもっていた。
「車両があるパーティは、
そもそも戦い方が違う」
リンが補足する。
「持久戦ができる。
撤退判断も早い。
負傷者を即座に運べる」
「……討伐の質が変わるわね」
ロゼッタは、ジョッキを持つ手を止めた。
その会話を、
いつの間にか近くで聞いていたベテランハンターが、
椅子を引いて近づいてくる。
「いいところまで考えてるじゃねえか」
使い込まれた装備、
派手さはないが隙のない佇まい。
「車はな、移動手段じゃない」
男は指を折る。
「武器だ」
「防具だ」
「拠点だ」
「重装備を積める」
「大型武器を運べる」
「より危険な狩場に行ける」
「そして――」
にやりと笑う。
「生きて帰れる確率が、段違いに上がる」
セリカが身を乗り出した。
「でも、誰でも持てないんですよね?」
「ああ」
男は頷いた。
「ギルドは見てる。
“こいつらに車を預けていいか” をな」
「暴走して壊すだけの連中には、
絶対に回ってこねえ」
ロゼッタは、静かに言った。
「……じゃあ」
ミレイアが微笑む。
「次の目標は、はっきりしたわね」
「ハンターランクを上げる」
「安定した実績を積む」
「そして――」
セリカが笑う。
「自分たちの車を手に入れる!」
男は満足そうにジョッキを掲げた。
「いい目だ。目標を見据えた目だ。
その目をしてる奴らは、伸びる」
「生き延びた新人に、乾杯だ!」
「乾杯!」
金属音が響き、
酒が喉を焼き、
笑い声が夜に溶けていく。
ロゼッタは、果実酒を一口飲みながら、
心の中で確かに思った。
――次は、もっと重い装備で。
――次は、もっと強い敵と。
――そのための“足”を、必ず手に入れる。
宴の熱気の中で、
四人の未来は、静かに形を取り始めていた。
宴の翌朝、ギルドの空気は少しだけ張りつめていた。
昨夜の喧騒が嘘のように、掲示板の前には静かな人だかりができ、紙片を睨む視線にはそれぞれの思惑が滲んでいる。
笑い声よりも、低い相談の声。
軽口よりも、指でなぞる依頼内容。
――次に何を受けるか。
――どこまで踏み込むか。
ロゼッタたち四人も、その一角に並んでいた。
「……これくらい、かな」
ミレイアが指差した依頼票は、
報酬も危険度も、これまでより一段階だけ上に設定されているものだった。
討伐対象は複数。
地形は開けていない。
増援の可能性あり。
「完全に無茶、ってほどじゃないけど……
気を抜いたら終わるタイプだね」
ミレイアが冷静に言う。
セリカは腕を組み、少しだけ楽しそうに笑った。
「いいじゃん。
前に進むなら、これくらい踏まないと」
リンは依頼票を見つめながら、胸の奥で小さく息を整えた。
――ランクを上げる。
――そのために、少し難しい仕事を選ぶ。
それは、力を誇示することじゃない。
生き残れるかどうかを、自分たちで測る行為だ。
「受けよう」
ロゼッタの声は静かだったが、迷いはなかった。
「四人なら、いける」
受付に向かうと、いつもの職員が顔を上げ、
一瞬だけ目を見開いた。
「……この依頼を?」
視線が四人を順に追い、
最後にロゼッタのギルド証で止まる。
「難易度、上がってますよ。
連携が取れてないと――」
「大丈夫です」
リンが即答する。
「役割は決まってます」
「無理なら引く判断もします」
ミレイアが続ける。
セリカはにっと笑った。
「ちゃんと帰ってきますから」
受付は、ふっと息を吐いてから依頼票に判を押した。
「……健闘を祈ります」
ギルドを出ると、朝の光が四人を包む。
装備を確かめ、銃を点検し、
ロゼッタは新しい打撃武器の感触を確かめるように柄を握った。
頭の奥で、いつもの落ち着いた気配が応える。
――《判断基準更新。
本依頼は“成長段階に適合”。
過信せず、だが臆する必要もなし》
ロゼッタは、思わず小さく笑った。
(……うん)
セリカが肩を叩く。
「行こうぜ、ロゼッタ。
ランク上げは、地道に、でも確実にな」
ミレイアとリンも頷く。
派手さはない。
英雄譚でもない。
ただ、少しだけ難しい依頼。
少しだけ高い壁。
それを越えるたびに、
彼女たちは“ハンター”になっていく。
四人は並んで歩き出した。
次の一歩を、確かめるために。
続く
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