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第3章ー㉞ 目指すハンターの背中

100エピソード目になります。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。


戦場の余韻がまだ空気に残っている中、

戦車のエンジン音が落とされ、重装オフロード車の一台がロゼッタたちの前で止まった。


ドアが開き、降りてきたのは年季の入った装備を身に着けたハンターだった。

無駄のない動き。背筋は伸びているが、威圧する気配はない。

それでも――強者だと一目でわかる。


「お前たちだな。前線で踏ん張ってた新人は」


低く、よく通る声。


ロゼッタは反射的に姿勢を正した。

「は、はい! ロゼッタです。こちらはミレイア、リン、セリカ」


紹介され、三人もそれぞれ軽く会釈する。


高ランクハンターは四人を順に見て、ふっと口の端を上げた。

「悪くない。いや、正直に言うと――よくやった」


その一言に、セリカが目を丸くする。

ミレイアもリンも、言葉を失ったままだ。

その一言に、全員が一瞬固まる。


「え?」とリン。

ミレイアは反射的に「ありがとうございます」と口にしていた。


男はロゼッタの手にあるウォーハンマーに目を留める。

一瞥で終わらせず、構造を読むような視線。


「その武器、いい芯をしてる。振り回されてない、そして

 打撃武器であの距離感を保てるのはいい。

 前に出すぎないのも、判断としては正しい」


ロゼッタは驚きつつ、頭を下げる。


「まだ……未熟です」


「知ってる」


即答だった。


だが、そこで否定は終わらない。


「だからいい。

 未熟なやつが、無理にうまくやろうとしなかった」


次に男の視線はセリカへ向く。

重装の防具、傷だらけの表面。


「前衛か」


「はい!」

セリカは少し緊張しながらも、真っ直ぐ答える。


男は短く頷いた。


「立ち位置は合ってる。

 ただ、次は“受ける”だけじゃなく、止めろ。

 足、関節、駆動部。

 止まれば、後ろが生きる」


その言葉に、セリカの目がわずかに見開かれる。

叱責ではない。

実戦で生き残るための助言だった。


「新人はな、大抵“前に出すぎる”か“下がりすぎる”」

「だが、お前たちは違った。前衛が前を張り、後衛が生きてる。

 連携も、判断も、十分合格点だ」


ロゼッタは思わず息を呑む。

(……評価、された?)



一瞬だけ、鋭い視線。

まるで戦いのすべてを見抜かれたような感覚に、背筋が引き締まる。


「ただし――」


四人が身構える。


「慢心するな。今日は運も良かった。

 次は、俺たちが来る前に終わらせられるようになれ」


叱責ではない。

期待だった。


「ギルドは、討伐数だけを見ちゃいない」

「生き残る力、仲間を守る力、状況を読む力……

 それが揃ったとき、ランクは後からついてくる」


そう言って、軽く手を上げる。

「また戦場で」


車に戻っていく背中は、驚くほど自然で、遠い。


その場に残された四人は、しばらく無言だった。


「……今の、夢じゃないよね?」

リンがぽつりと呟く。


ミレイアが苦笑する。

「高ランクに褒められるなんて、聞いたことないよ」


セリカは拳をぎゅっと握り、前を見つめていた。

「……もっと強くならないとね。あの人たちみたいに」


そのとき、ロゼッタの耳元で、あの落ち着いた声が響く。


――【評価更新:外部高ランクハンターより戦闘適性を確認】

――【推奨:現在の戦術継続】


少し間を置いて、どこか皮肉めいた調子が続く。


――《補足:期待は、時に最も重い荷物となります。お気をつけて》


ロゼッタは、思わず小さく笑った。

(……ありがとう、オラクル)


圧倒的な差を見せつけられ、

それでも一歩だけ、近づけた気がした。


ロゼッタ達たちは、まだ知らない。

この一言が、彼女たちを次の段階へ押し出す合図だったことを。




後方車両部隊の中、

ギルドの臨時指揮テントのそばで、グレンは腕を組んだまま戦場を見渡していた。


硝煙はまだ薄く漂い、負傷者の搬送と弾薬補給の声が交錯している。

その喧騒の中を、先ほど新人たちに声をかけていた高ランクハンターが戻ってきた。


グレンは気づくと、軽く顎を上げて呼び止める。


「よう。さっき、あの四人に声かけてたな」


男は立ち止まり、グレンを見る。

深い付き合いはないが、互いに顔は知っている――長くこのギルドにいる者同士だ。


グレンが続ける。


「どう見た?」


男は少し考える素振りを見せ、短く息を吐いた。


「……率直に言うぞ」


「いつもそうだろ」


グレンは肩をすくめる。


高ランクハンターは視線を戦場の外れ――

ロゼッタたちが装備点検をしている方向へ向けた。


「まず、崩れない」


「ほう」


「新人にありがちな “誰かがやるだろう” ”俺がやるしかない” がない。

 全員が、自分の役割を理解してる」


グレンは小さく頷き、次を促す。


「ロゼッタは?」


「礼儀正しい。慎重。

 だが臆病じゃない」


そこで男は、わずかに口元を緩める。


「危険な個体が来たとき、

 一歩引いた判断をしただろ。

 あれで後衛が生きた」


「……あいつらしいな」


「打撃武器の使い方も悪くない。

 無茶はしないが、逃げもしない」


次に話題はセリカへ移る。


「重装の子」


「ああ、最近ハンターになったばかりだ」


「体格に合ってる。

 前に立つ覚悟がある」


男は少し厳しい声になる。


「ただし、まだ“止め”が甘い。

 受けて、耐えて、それで満足してる」


「伸び代あり、ってことか」


「そうだ」


次はミレイアとリン。


「後ろの二人もいい。

 無駄撃ちしないし、

 味方の射線をちゃんと見てる」


「新人でそれは珍しいな」


「誰かが教えてる」


男は一瞬だけ、グレンを見る。


「……お前だろ?」


グレンは苦笑した。


「まあな。

 あとは勝手に学んでる」


しばらく沈黙が落ちる。

遠くでエンジン音、履帯の軋む音が響く。


高ランクハンターは、最後にこう締めた。


「強いか、と聞かれたら――

 まだだ」


「だろうな」


「だが」


男ははっきりと言う。


「生き残る。

 それも、ただ運がいいだけじゃない」


グレンはその言葉を聞いて、満足そうに息を吐いた。


「十分だ」


高ランクハンターは背を向け、歩き出す。


「次の討伐で、

 何人残ってるか楽しみだな」


「おい」


グレンが呼び止める。


「もし次も一緒になったら、

 また声かけてやってくれ」


男は振り返らず、手だけを軽く上げた。


「気が向いたらな」


その背中を見送りながら、

グレンは小さく笑った。


「……いい評価じゃねえか」


視線の先では、ロゼッタたちが次の指示を待ちながら、

まだ少し緊張した面持ちで立っていた。


――知らぬところで交わされた会話が、

彼女たちの“立ち位置”を、確かに一段上へと押し上げていた。



続く

前書きでも書きましたが、100エピソードになります。

こんな物語をここまで読んで頂きましてありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。



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