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引き籠りの部屋が異世界に漂流してしまったようです  作者: 火海坂猫


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七十二話 止めはちゃんと刺すもの

 気が付けば四人はあの見慣れた部屋の中に立っていた。その一瞬での変わりようはそれまでのことなど夢だったように感じさせる…………が、流石にそれで現実を忘れるほどユグド達は愚かでもない。


「日蔭殿!」


 ユグドはまずその姿を探す。見やれば床でうずくまる体勢のままの彼の姿があった。


「父様!」

「大丈夫かい!」


 慌てたように三人は彼に駆け寄る。


「だ、大丈夫…………ちょっと疲れた、だけ」


 それによろよろと日陰が体を起こす。その表情に確かに疲労の色は濃いが、命の危険を感じさせるような衰弱の色は見られなかったことに三人はほっとする。


「ふう、日陰が無事なようで何よりじゃ」

「皆の方こそ…………無事で、よかった」


 安堵したように日陰は顔をほころばせる。正直に言えば自分が何をしたのかよくわかっていなかった。彼からすれば気が付けば部屋が元に戻っていたようなもので、そこに三人の姿があったことに心から安堵する。


「あ、そういえば…………アマテは?」

「いかん、忘れておった!」


 慌てたようにユグドが窓へと視線を向け他の二人もそちらを見る。


「…………外の光景は変わってないように見えるけど」


 冥利から見た限りアマテの神域は先ほどまでと変わらなかった。日陰が彼女の神域を侵食して自らのものとしたなら目に見えるような変化があってもおかしくはない。だとすればこの部屋の領域分だけを奪い取ったという可能性もあるだろう…………そうだとするとアマテはまだ健在ということになる。


「いや、目に見える部分に変化がないだけだ」


 けれどそれにヨミが口を挟む。


「内部は父様がほとんど奪い取ってスカスカだ。そういう感覚がある」

「へえ、そういうものかい」


 自分にはわからぬ感覚なので冥利はユグドを見ると彼女もそれに頷く。


「うむ、わしの感覚でもアマテの神域はその大半の力を失っておるよ」

「じゃあ、その当人は…………あ、いた」


 ではアマテ本人はどうなっているのだろうと視線を巡らせて冥利は見つける。何もない白い床が広がるだけのその領域の一角にアマテは倒れ伏していた。防護服の機能で映像を拡大して見るが間違いない…………そして見た限り意識はないようで動きは全くなかった。


「倒れておるの」

「死んでいるのかな?」

「わからん。神域もその持ち主の死に連動して崩れることもあるが、そうでないこともあるからな」


 神域は生み出した神の体の一部のようなものだが、必ずしもその命と連動しない。ともに崩壊することもあれば月夜の神域のように残り続けることもある…………恐らくは持ち主である神の意志が作用しているのだとヨミは思う。

 ツクヨは自分が存在した証を遺したかったからヨミを生み出した。それと同じで自分の神域が消えることも望まなかったのだ…………しかしアマテであれば自分が死ぬならその神域も道連れにするように思う。あれは自分が死ぬのに他が残っていることを許せないと考えるタイプの女だ。


「だが多分あれは生きていると思う」

 

 だからヨミはそう口にした。


「ならば早急に止めを刺す必要があるじゃろう」


 今は意識がないようだが目覚めればどんな悪あがきをするかわからない。もちろんその力の大半は失っているだろうが、他ならぬ日陰が窮地からの逆転を見せているのだから同じことが起きないとも限らないのだ。


「んー、でも下手な攻撃じゃ止め刺す前に起こすかもしれないよね」


 そしてユグド達三人はその下手な攻撃しか持ち合わせていない。アマテは大幅に弱体化はしているかもしれないが、それでも三人よりもまだ強者であろうという予測はできた。


「日蔭君、どうにかできない?」

「え、それは…………」


 そもそも神としての力を自覚して間もない彼はその使い方もよくわからない。だからアマテに攻撃しろと言われてもどうすればいいかわからないし、そもそも日陰の性格的に敵であっても倒れた敵に止めを刺すような真似は出来なかった。


「やっぱり駄目か…………ジャッジメントがもっとあればよかったんだけどねえ」

「他のもので代用できぬのか?」

「まあ、できるけど…………あそこまでの威力は流石に出ないかなあ」


 手持ちの兵器と資材を総動員すればそれなりの威力は出せるだろうが、ジャッジメントの威力までは届かないであろうと計算ができてしまっている。弱ったアマテ相手であればそれでも十分効果はあるだろうが、それでも多分止めは刺せない気がする。


「あ、そうだ日蔭君。ジャッジメントを出せない?」

「え、え?」

「いやほら、君の部屋って日蔭君の望みを反映するんだろう? それなら意識すればジャッジメントも出せたりしないかなあって」


 それができるなら問題は全て解決する。


「そ、そんなこと急に言われても」

「あ、出た」

「えっ!?」


 驚く日陰だが冥利の目の前には確かにジャッジメントが収納されていた小箱と同じものが五個ほど置かれていた。


「うん、間違いなくジャッジメントだ」


 その小箱の一つを取っていくらかの操作をして冥利はそれを確認する。


「え、え、なんで?」


 日陰はわけがわからない。


「ツクヨの神域のエネルギーを使ってアマテの神域を侵食したことで日陰殿の神としての力も上がったからではないか?」

「その可能性はあるな」


 最低でも熟練の神の神域一つ分の力がこの部屋にはあるのだから。


「なんにせよそれなら十分に止めを刺せるじゃろう」

「ああ、さっさとやってくれ…………そのほうがあれにとっても救いになる」


 ヨミにとってアマテに対する感情はもはや憎しみではなく哀れみしかない。誰ともその心を分かち合うことのないアマテを哀れんだからこそツクヨは最後まで彼女を恨まなかったのだと今ならわかる…………そしてそれが変わることはないのだから死んだ方が救いだ。


「日蔭君、私が投げたらすぐに離れるようにね」

「あ、うん…………」


 いざ止めを刺す段になるとまだ躊躇いはあるが、アマテと自分たちが相容れない事はわかっているし放置すれば彼女は必ず報復に来るのもわかる…………だからユグド達を止めることもできなかった。


「じゃ、やるよ」


 ぱらぱらと、石でも投げるように冥利はジャッジメントをアマテのいるところへと放り投げる。


 後はそのままアマテの神域を離れて爆発を待つだけだ。世界の狭間すら震わせる威力を持つジャッジメントを五発分…………弱ったアマテであれば確実に葬れるだろう。


 そこに何も介入されなければ、だが。


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