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引き籠りの部屋が異世界に漂流してしまったようです  作者: 火海坂猫


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六十七話 罠であっても殴りたい

 日陰たちのアマテに対する削りは今のところ成功していた。神といっても精神的には人と変わらないとヨミは言っていたが正にその通りで、特にアマテは頭に血が上りやすい性格なのか面白いくらいに翻弄されてくれた。


 そのおかげで日陰たちは反撃を一度設けることなく彼女を消耗させることに成功している…………もっともそれが全体としてどの程度なのかはわからない。恐らくまだまだ果てしないのだろうけれど、今のところ四人のモチベーションはまだ高く保たれていた。


「ん、守りを固めてる?」


 しかし体感にして二時間ほど経過したところで変化が訪れる。これまで躍起になって日陰たちへと反撃しようとしていたアマテが白い防壁のようなものに囲まれてじっとしているのだ。それでこちら側の攻撃は全て弾かれた。


「無視でよいじゃろう」

「ああ、今の状態を続けるべきだ」


 しかしユグドとヨミは即座にそう判断を下す。こちらの攻撃を完全に防がれていることは問題だが、そもそも三人の攻撃など大したダメージにはなっていない。例外はジャッジメントのような大物くらいでそれ以外は正直誤差だ。


 メインのダメージソースは日陰の部屋によるアマテの神域の穴開けなのだから、そこに影響しないのであれば余計なことをするべきではない。


「わかった」


 というか話をする間も日陰は変わらぬペースでアマテの神域からの離脱と再接続を繰り返している。その判断は彼に任されているし、何となく止まるべきではないという予感も日陰の中にはあった。前回アマテによる範囲攻撃をすかした時もそうだが、アマテと戦い始めてから不思議とその勘が冴えわたっている。


 そんなわけでアマテの変化に構わず延々と日陰たちはそれまで通りの削りを繰り返す。防がれてはいるがそれまで通り攻撃も続ける。不思議と疲れや空腹などの生理現象もわいてこないので延々と続けられた。それも日陰の神域による効果かもしれないがそれを確認している暇もない。


「は、話」


 するとついにアマテが何かを喋り出す。


「話を」


 しかし日陰たちは一切応じない。アマテという存在の人間性を信じていないのでそれが罠であると最初から判断していた。


「一度落ち着いて話を」


 全力で感情を抑えて柔らかにした声が聞こえるがそれも無視。


「だからお互い冷静に」


 無視。


「いい加減こちらの話を」


 無視。


「話」


 それにかぶせるように攻撃を加える。


「話を聞けと言っているでしょうがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 再び激昂するがそれも無視。


「このっ、所詮はあの陰険女の分け御霊ね! 正面切って話すこともできないんだから!」

「…………なに?」


 だが流石にその一言をヨミは聞き逃せなかった。


「気づいていないとでも思ったの? 脆弱極まりない分け御霊であったとしてもこの私が見抜けぬはずないでしょう?」


 その会話の間も絶え間なく日陰はアマテの神域との離脱と接続を繰り返している。話に乗るのは危険だと日陰は判断していたからだ。


「すまないが…………止めて欲しい」


 けれどヨミは彼に頼む。


「罠じゃぞ」

「わかっているが…………母様のことをああも言われて黙ってられない」

「それこそ無視し続けてやるのが一番の意趣返しじゃと思うがのう」

「それもわかって、いるが」


 ヨミは歯を噛みしめる。面と向かって反論してやりたいという表情だった。


「まあ、いいんじゃないかい」


 そこに助け舟を出すように冥利が口を挟む。


「ユグドも思うところはあったとはいえ、元々あの神様に喧嘩を売る要因となったのはヨミの持つ因縁なんだ。彼女の思うようにさせてやればいい」

「しかしそれで負けては意味がなかろう?」

「別に元々勝ち目なんてなかったじゃないか」


 もちろんできる限りの勝つ準備はしたけれど、駄目で元々の話ではあった。


「それもそうか」


 それを思い出したようにユグドは目を細める。


「日蔭殿もよいか?」

「う、うん」


 いやな予感はある…………が、必要なことだとも思えた。


「ヨミ」

「わかった」


 ユグドがヨミに視線を向けると同時に繰り返されていた離脱と再接続が止まった。固定された状態で窓越しにアマテと日陰たちの視線が合う。


「日蔭殿、いつでも逃げられるように心構えだけは確かにな」

「わ、わかってる」


 ほぼほぼ罠であるのだから逃げる準備は必要だ。


「ようやく観念したようね」

「…………発想の飛躍がいちじるしすぎるだろう」


 不意に勝ち誇ったように口にするアマテを冥利が呆れるように見る。確かのほんの少し前までこのアマテという神はこちらと話がしたいと叫び続けていたはずだ、それに応じてなぜこちらが観念したことになるのか。


「お前たちが私に勝てる可能性なんて皆無なんだから、観念するのは当然でしょう?」

「先ほどまでいいようにわしらにあしらわれていたくせによう言うのう」

「そうだ! お前!」


 同じく呆れるユグドをアマテが見る。


「お前私の創造物でしょう! それなのになんで創造主である私に逆らうのよ!」

「そんなものお主が創造主として誇れぬ存在であるからに決まっておろう」

「私のどこが誇れないっていうのよ!」


 全部じゃ、とユグドは口に出しそうになったが…………口にすることそれ自体に意味がないと思えて出さなかった。言っても無駄と大して語らずともわかる相手も珍しい…………それに今回の主役は彼女ではない。


「おい」


 低い声でヨミがアマテへと声をかける。


「…………お前か」


 煩わしそうにアマテがヨミを見る。


「なんで母様を殺した」


 そんなアマテを憎々し気に睨みつけながら、彼女は尋ねた。


 お読み頂きありがとうございます。

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