五十一話 上の勝手って大体迷惑
「あたしが最初に疑問を抱いたというか、ちょっと気になったのはユグドの世界で人種と魔族のどっちが悪いかと尋ねた時なんだよね」
魔族はユグドの世界の先住民族である。そう考えるに至った経緯を冥利は説明し始める。
「あの時君はこう言ったよね…………エルフがあの地に降り立ってしばらくしてから魔族たちが攻めてきたと」
「うむ、間違っておらん」
ユグドは頷く。それは間違いなく彼女自身が口にしたことだ。
「そう、君たちエルフはあの地に降り立ったんだ…………でもそれってちょっと変な言い回しだよね? そこがエルフ発祥の地であるならもっと違う言い回しをするんじゃないかとあたしは思ったんだよ」
ユグドの世界の生物が進化論に則って生まれているのか冥利は知らない。しかし仮に最初からエルフという知能のある主として存在したのだとしても、そこで生まれたのなら生まれたと言い伝えるのではないかと思うのだ。
「だってそうだろう? 降り立ったなんてまるで別のところからやって来たみたいじゃないか」
「あ、確かに」
同意するように日陰は呟く。
「も、もしかして魔族の本拠地のあった…………大陸、から?」
「いや、それは違うとあたしは思うよ」
冥利は首を振る。
「別の大陸からやって来たのなら、辿り着いたって表現するんじゃないかな」
それにその航海の過酷さだって言い伝えることだろう。
「降り立っただなんて、本当にまるで違う世界から…………それも天から降りてきたような表現だと思わないかい?」
「つまり、冥利殿はわしらエルフが別の世界からあの世界へとやって来たと言いたいのかの?」
「そういうことだね」
冥利は頷く。
「言っておくが、エルフにも世界樹にも世界を渡る力などないぞ」
「でもそれが出来る別の存在はいただろう?」
「…………神か」
「うん、君たちエルフは神様にこの世界に連れられてきたんじゃないかな」
それこそ空から神に連れられてあの世界に降り立ったのかもしれない。
「だとするとその神に与えられたっていう世界樹の存在も納得できる…………前に世界樹がまるでテラフォーミング装置みたいだって話はしたよね? それは本当にそうだったんじゃないかな。異なる世界で君たちエルフが暮らしていけるように神が与えたんだ」
世界樹は根付くと周囲を自身の領域へと変える。その領域は生物が豊かな生活を送ることのできる実りある地となる…………例えそれが何もない荒野であったり、本来エルフが暮らしてはいけないような地であったとしても。
「そして、魔王が君たちを憎んでいることを考えると結論は一つしかない」
じっとユグドを冥利は見る。責める様ではない…………どちらかと言えば申し訳なさのようなものがその視線には含まれている。なぜなら彼女が口にしようとしている結論はエルフという種を貶めるものでもある。
「皆まで言わずとも良い」
だからユグドは首を振ってその言葉を引き継ぐ。
「エルフが協力したかは知らぬが、わしらエルフが里を構えたあの大陸には元々も魔族が住んでおったのだろう…………それを全て滅ぼして荒野となった地に祖先たちは世界樹を植えたのじゃ」
「その通りだ」
魔王がそれを肯定する。
「お前たちの創造神があの大陸に住まっていた全ての魔族を滅ぼした…………何の咎もなくただ暮らしていただけの者たちを、だ」
だからこその恨みだった。種族全てを滅ぼされた恨みであるからこそ、それを果たすために終わりのない戦いを続けてきた。
「お前たちの、と言うたな…………つまりお主らの創造神は別におるということか?」
「そうだ」
魔王が頷く。
「母様こそがあの世界を生み出した創造神だ」
母様というのは魔王が以前にも口にしていた相手だ。それが創造神ということは魔王がその娘ということになる…………あれだけの力を持っていたのも納得ができる話だ。
「あのさ、ちょっと整理したいんだけど」
そこに冥利が割り込む。
「神とやらが実在してそれが複数いるのはいいとしてさ…………ユグドの世界を創ったのは君の母親である神様ってことだね?」
「そうだ」
魔王が即答する。それに冥利はユグドへと視線を向けるが彼女は疲れたように息を吐く。
「人種の間では女神アマテがあの世界を創ったと伝わっておる…………が、今の話からすればそうではないのじゃろうな」
自ら生み出した世界なのであれば、そこにいた生物を滅ぼしてエルフを移住させる必要などないだろう。
「あ、あのさ」
おずおずとそこに日陰が口を挟む。
「なんでその、アマテって神様は…………わざわざ他の、神様の世界にエルフを移住、させたの?」
それが彼には疑問だった。別に世界を創造できるような神様なのであれば他の神様に喧嘩を売らずとも新しい世界を創ればいいだけなのにと。
「アマテという神は世界を創るのがあまり上手ではなかった。どれだけ頑張っても狭くてすぐに溢れてしまうような世界しか創れなかったようだ…………その代わりに生命の創造は得手だったらしいがな。しかし優秀な生命を生み出せるからこそすぐに狭い世界では対応できなくなってしまった」
優秀だからすぐに文明を発展させてその数を増やすが、だからこそすぐに世界のキャパシティをオーバーしてしまう。
「対して母様は世界を創造することには長けていた。生み出した世界の容量は他の神に比べても大きく、またあらゆる生命が活動するのに申し分のない環境を保っていた」
「…………それで、奪った?」
「そうだ」
魔王は頷くが、いやいやそんなと日陰は思う。
「神様、なんだよね?」
自分じゃ作れないから他人の物を奪うなんてまるで子供の理屈だ。世界やそこに住まう声明を生み出すような神様がそんな俗っぽいことをする者だろうかと思ってしまう。
「神は別に高尚な存在ではない…………母様は別だが」
けれど魔王はそんな日陰の考えを両断する。
「私の知る限りアマテという神は傲慢で自己中心的だ。自分がすることがすべて正しいと思い込んでいて他者はそれに従うべきと考えていた。咎められても咎めた側が間違っていると思い込んで自身を改めることがない」
「…………ずいぶんな言いようじゃのう」
「それが事実だからだ」
流石に眉を顰めるユグドだが、魔王はきっぱりと言い切る。
「なにせあの女は、それで母様を殺したのだからな」
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