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引き籠りの部屋が異世界に漂流してしまったようです  作者: 火海坂猫


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四十六話 何もかもは片付かない

「じゃあそろそろドローンを偵察に行かせようか」


 魔族の本拠地と思しき場所にインフェルノを落として一時間ほどが経った。そろそろ爆発の影響も落ち着いている頃だろうと冥利が提案する。日陰に地上へと扉の位置を繋ぎ直してもらう手もあるが、念のためにまずドローンに行かせた方が安全だとの判断だ。


「そうじゃな、そのほうが良かろう」


 ユグドもそれに同意する。


「日陰殿もそれでよいか?」

「あ、え…………うん」


 日陰は正直外の光景がどうなっているか見たくはなかったが、断る理由は思い浮かばない。


「じゃあ扉を開けるけど、いつもの魔法だけじゃなくて防御魔法? みたいなやつもかけてくれるかな」

「ふむ、確かにその方が安全じゃな」


 立ち上がりユグドがいくつか何かを呟く。それで目に見える変化が起こったりはしないのだが、これまでも確かに効果はあったしきちんと彼女は魔法を唱えているのだろう。


「よいぞ」

「じゃ、開けるよ」


 頷いて冥利が扉を開ける…………その向こうに広がるのは先ほどと変わらぬ空、ではあったのだが爆発で押し出されたのか雲一つなくなっている。


「風はまだ吹き荒れておるようじゃな」

「そうなのかい?」

「うむ」


 目に見える範囲では冥利にはわからなかったが、防御魔法を展開しているユグドはその感触を覚えているのかもしれない。


「そのどろーんは暴風の中でも大丈夫なのか?」

「よっぽどの嵐でもない限り大丈夫だと思うけど」

「まあ、嵐というほどではない」


 それに暴風はやはり収まりつつあるのか弱まりはしても強くなるような気配はない。


「それなら大丈夫かな。ただ念のため今回は扉を開けたままで映像を中継しておこうか」


 それであればドローンが飛行不能な状態になっても直前までの映像は確認できる。今回は爆弾を落とすわけではなくまず様子を伺うだけだから、扉を開けっ放しにしていても危険は少ないはずだ。


「日蔭君、これをテレビの端子に差してくれるかな」

「え…………うん」


 冥利はドローンから小さなUSB端末のようなものを取り出すと日陰に渡す。それで映像を中継するのだろうが、そんなものまで対応したものを用意していたらしい。自分が加担した惨状をリアルタイムで確認するのかと思うと気が重いが、言われるままに日陰はテレビへとその端末を刺した。


「それじゃあ…………よいっと」


 冥利は抱えていたドローンを扉の外へと放り出すとリモコンのようなものを操作する。すると飛行したドローンからの映像がすぐにテレビへと映し出された…………まずそこに映ったのはやはり扉から見えるのと変わらぬ空だ。しかしやはり風が強いのかその画面はかなり揺れて色々な方向を映しているようだった。


「下の方へ向けられぬか?」

「周囲を一通り映したら下を向くはずだよ」

「…………」


 じっと見守る日陰の視線の中でドローンが下を向く…………そこに映っていたのは赤黒く変色した大地だった。まだ高度が高いせいかよくは見えないが、爆発の際の膨大の熱で溶けて固まったのだろう。少し前に見たはずの町は完全に消え去っているように見える。


「ふむ、威力は申し分なかったみたいだね」


 ただその効果を確認しただけのように冥利が呟く。それを受けて消滅した町や魔族のことなどそこに含まれてはいないようだった。


「しかしやり過ぎだったかなあ…………ここから復興させるのは少し面倒かも」

「なに、目的優先じゃ」


 それで魔族を撃ち漏らしては何の意味もない。


「そもそも大陸には他の場所もあるじゃろうし、どんな荒れ地であろうとも世界樹が根付きさえすれば改善される」

「便利だねえ、世界樹」

「なにせほれ、前にも言うたが神から与えられたものじゃからな」

「君らエルフがこの世界にやって来た時に貰ったんだっけ…………そう考えるとテラフォーミング装置みたいなものなのかもしれないね」

「てらふぉーみんぐ?」

「あたしたちの世界でも空想というか実現されていなかった技術なんだけどね。簡単に説明するなら住むのに全く適していない環境を人が住めるようにする技術ってところかな」


 正確には地球に比較的近い環境の星を完全に地球と同じような環境にして住めるようにする技術だが、その辺りを詳しく説明するような話でもない。冥利の世界では早期に世界大戦が起こってしまったせいか宇宙開発に割く余裕がなかったので空想のままで終わっている。


「なるほど、まあわしらエルフは世界樹の領域であればどこでも生きられるからな」


 どんな環境でも世界樹さえ根付けば生存可能だ。そう考えれば世界樹をテラフォーミング装置と考えるのは間違っていない。仮に別の惑星にでも根付かせることができればそこで済むことができるのだから。


「…………あれ?」


 二人が離している間も日陰はテレビに映し出される映像をじっと見ていたが、ふと何かに気づく。ドローンはどんどんと高度を下げて地上に近づいてきているのだが、何もかも吹き飛んでしまったはずの赤黒い大地に何か影が見えるような気がするのだ。


「どうかしたのかの?」

「あれって…………人影?」


 画面に映る小さな黒点を日陰は指さす。まだ距離があるからほとんど点にしか見えないが、それから影が伸びているように彼には見えるのだ…………つまりは誰かがそこに立っているのではないかと。


「あ、カメラが、動いちゃった」


 しかしドローンが風に翻弄されているせいかすぐにその影は画面外へと行ってしまう。


「冥利殿、光学迷彩とやらは?」

「機能しているよ」


 ドローンは起動と同時に光学迷彩を展開している。爆弾が何もかも吹き飛ばしているのなら意味なく電力消費を大きくするだけだが、どうせ長期間偵察させるつもりでもなかったので一応機能させておいたのだ。


「ならば日陰殿の見た人影へとドローンを近づけられるか?」

「命令してみるよ」


 ドローンにはAIによる自己判断での地上の偵察を命じてあった。そこに生存者の発見とでも命令を加えれば今日陰が見たという人影を捜索するだろう。


「でもあの爆発を生き残れる生物ってあたし想像できないんだよね」

「威力を見るにわしとて世界樹の万全のサポートがあってどうにかというところじゃろう…………今の苗木の状態では難しかろうな」


 しかしそれがもし本当に生きた人影であるのなら話が変わる。


「魔王、か」

「それであれば化け物じゃな」


 ユグドの世界では直接誰も見たことのない魔族たちの王。その実力は大衆の想像を遥かに超えるものであることになる。


「あ」


 唐突に日陰の見ていた画面が暗転する。


「どうやら、撃墜されたみたいだね」


 冥利の手に持つリモコン端末には赤いランプが点滅していた。それはドローンからの通信が完全に途絶えたことを示している。それにとりあえず彼女は扉を閉めた。


「さて、どうするかの」


 呟いたユグドに答える者はなく、しばしの沈黙が続いた。


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