四十四話 すぐにやるのが大体正解
「ああ、滅ぼすって方針には賛成だしあたしも少し気が楽になったんだけどさ…………こいつらって誰が動かしてるんだろうね」
ふとした疑問を覚えたように冥利が首をかしげる。町にいる魔族たちは明らかに自由意志を持っておらずその動きは機械的だ。つまるところそれを動かす誰かの意思があるわけで、その姿は今のところ確認できていない。
「それは、魔王……なんじゃ?」
自信なさげに日陰が口にする。直接その存在を聞いたわけではないがユグドはずっと魔王軍という呼称を使っていた。それはつまり魔族を統べる魔王がいるということで、それであればこの光景を作っているのは魔王と考えていいはずだ。
「確かに魔王軍の総大将として魔王と呼ばれるものがいるという話ではあるな…………しかし今のところその存在を直接確認したものはおらぬ。その存在は全て魔族と接触した者がその魔族から聞いた話としてしか伝わっておらん」
「つまり実在しない可能性もあると?」
「もしくは、魔王という存在もあのように意思のないものなのかもしれん」
ユグドの視線の先にはテレビに映し出された意識なき魔族たちの光景があった。
「えっと、それじゃあ…………どうするの?」
「どうするもなにもない」
特に予定は変わらないとユグドは言う。
「曲がりなりにも魔王と呼ばれる存在であれば調べるにはリスクが大きい。いくら魔力によらぬ技術であろうと気づかれる可能性は高かろう…………そもそも調べたところで意味がない」
「なんで?」
「どうせ消し飛ばす」
「…………」
なんにせよ魔王とその軍団がユグドの敵であるには変わりない。魔王がいかなる事情を抱えていようがそれで彼女の故郷が滅ぶ要因を作ったことが許されるわけでもない…………で、あれば知れば余計な感情を覚えてしまうだけだ。
「まあそうだね、その方がいいか…………別の黒幕がいる可能性だけ少し不安だけどね」
「それはまとめて吹き飛んでくれることに期待しよう」
それだけの威力が冥利の爆弾にはあるのだから。
「あの、それで、いつやるの?」
やる意思に変わりがないのはもうどうしようもない…………それならば実行されるのはいつなのかが日陰は気になった。
「今じゃ」
そしてその答えは予想外だった。
「え…………今?」
「うむ」
頷きユグドは冥利を見る。
「インフェルノとやらは使えるのじゃろう?」
「もちろん使えるよ。光学迷彩処理も済ませてある…………ドローンは気づかれなかったんだしそれで投下すれば問題なくいけるんじゃないかな」
「それは重畳」
ユグドはただ落とすつもりであったが冥利は念のために光学迷彩という細工も加えていたらしい。ミサイルに施すのは時間が掛かるという話だったが、ミサイルに搭載せず爆弾だけであればその処理も時間はそれほど必要なかったらしい。
「で、でも今すぐなんて…………準備、とか」
「それなら今済ませたではないか」
ユグドはドローンを見る。
「偵察して投下に問題ないと判断できた…………で、あれば時間が経って状況が変化してしまう前に投下しなくてはならん」
テレビに映し出されているのは今さっきの状況だ。それは時間とともに変化するものでありその変化の先では爆弾が対応されてしまう可能性だってある。そのリスクを回避するためにはできる限り早く行動するのが一番だ。
これが軍隊であればその判断には様々な準備や許可などが必要になるが三人は軍隊ではない。組織力はないが、やれる状況が整っていれば上官の許可など煩わしい前提条件なくやってしまえるのが利点だ。
「ユグドならそういうと思って用意しておいたよ」
そう言って冥利はポケットから小さな箱を取り出す。
「え、もしかしてそれが…………インフェルノ?」
「そうだよ…………正確にはこの中に入ってるんだけどね」
冥利は頷く。ユグドから学んだ空間圧縮技術によってその小さな箱にインフェルノを収納しているらしい。
「それが出来るのなら例えばそのドローンに爆弾を仕込むこともできるのではないか?」
「それも考えたんだけどさ、これは確かに魔法を使わないあたしの世界の技術で再現したものだけどユグドの世界には空間圧縮それ自体は普通に存在するわけじゃない?」
「そうじゃな」
「魔法が絡んで無くても空間圧縮それ自体を感知される可能性はあるかなって思って」
「む、確かにそれはあるかもしれぬ」
ユグドの世界の人間も魔法だけを警戒しているわけではない。むしろ魔法が日常にあるせいか感覚的には日陰や冥利の世界の人間よりも敏感だ。圧縮されている空間が近づいてくるというその異常を感知する可能性は高いように思える。そうなればむしろ魔法が絡んでいないがゆえにより異常な事態だと判断されるかもしれない。
「だからまあ、そういうのは無しにした方がいいかなって」
「良い判断じゃと思う」
ユグドは頷く。
「そんなわけだから…………はい」
冥利が床に置いて小箱の両端を軽く抑えると、それが展開して恐らくそれが爆弾であろう物が現れる。形状的には日陰の想像する爆弾のようではなく、ダンベルのように両端にタイヤのような形のものが付いてその中央が円柱で繋がっているような形状だった。
確か二つの物質の化学反応で爆発が起こると冥利は説明していたから、その両端にそれぞれ反応する物質が入っているのかもしれない。
「結構、大きいね」
「そう?」
そのダンベルのような爆弾はそれこそ重量挙げなどで使われているようなサイズで、しかもそれよりも遥かに太い。日陰であれば持ち上げることも難しいように思う。
「まあ落とすだけだし扉は通るサイズだから問題ないでしょ」
「そうじゃな」
冥利の言葉にユグドも頷く。押して落としても問題ないだろうし彼女であれば持ち上げることだってできるだろう。
「接触式と時限式のどっちにする?」
「確実性であれば時限式のほうが良かろう」
「了解。ドローンからの情報によると地上までの距離は…………うん、これくらいかな」
ちょうど地上に到達したくらいで起爆するように冥利はセットする。
「光学迷彩は落下が始まると同時に起動するようにセットして…………よしできた。これでいつでもできるよ」
「ではやるか」
ユグドには余計な時間をかける気は一切なかった。ただ確認するように日陰を見る。
「よいか?」
「…………う、うん」
あまり良いという感情でもなかったが、今更彼が反対する理由も根拠もない。そもそもの発端は日陰にあって、止めるタイミングであればこれまでいくらでもあったのだから。
「では冥利殿、頼む」
「ほいさ」
冥利が手元の端末で何かしら操作をし、扉を開けてユグドを見る。
「蹴っちゃっても大丈夫だよ」
「ではそうするか」
開かれた扉の向こうへと広がる空へとユグドはインフェルノを蹴りだした。それが地面へと落下していくのを確認するとそれ以上見続けることもなく彼女は扉を閉める。
それだけで部屋とその世界との繋がりは断たれて、なんの爆発音すら聞こえなかった。
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