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第4話

カクヨム版第4話を改稿。

西暦20××年7月××日


 模範的な中学生の身としては、一学期の期末試験が終了して夏休みを待つばかりの日々。


 俺の暗記能力の向上は、期末試験で凄まじい結果を叩き出した。


 学年トップの俺の成績は、なんと全教科満点だったのである。


 ケアレスミスが全くなかったのは、単なる偶然なんだろうけどね。


 俺の素晴らしい試験結果へは、先生たちからも、俺と俺の彼女以外の生徒たちからも、普通にカンニングが疑われた。


 まずあり得そうもない試験問題の事前流出の可能性さえも、先生たちの間では何故か議論されたらしい。


 ただし、そうした流れから俺の通う中学校では、試験問題の管理方法が今後より一層厳格になるようだ。


 けれども、そんなことは俺にとってはどうでも良い事柄でしかない。


 だって、試験問題の管理方法なんて完全に他人事だもんね。


 学校に勤める事務専用の職員と仲が良い俺は、彼との雑談でそんな話を知った。


 まぁ、それを知ったからと言って特に何をするわけでもなく、平常運転なのは当然なのであるが!


 何故なら、1%ノートの力で暗記能力を高めたのはズルいのかもしれないけど、カンニングをしたり、試験問題を盗み出したりしたわけじゃないからね。




 少々時系列を遡る話になるが、中間試験の結果が思いのほか良かったことに気を良くした母さんが、「ご褒美ってわけでもないけれどね。一郎、何か欲しいものはないの?」と尋ねてきた時、俺は握力計をねだった。


 もちろん、デジタル表示式の安いものの方を。


 いざ、ものの値段を調べてみると、アナログな機械式の握力計とは意外に高価なものだと知った。


 たぶん、無駄な知識というものは、こうして増えて行くのであろう。


 もっとも、母さんにそれを伝えたら、「今どきは大概そんなもんよ。腕時計なんかが良い例」と、あっさり言われてしまった。


 どうやら、俺が無知であっただけの恥ずかしい話であったのは、誰にも語るべきではない秘密として、墓まで持ってゆく所存である。


 そんな決意であったにも拘らず、母さんは綾瀬さんが家に遊びに来た時に、俺の面白エピソードの一つとして、彼女にそれをペラペラと語ってしまったんだ。


「頼むよ母ちゃん。そういう息子が『恥ずかしい』と思う話を、他所様にするのはやめておくれ!」


 俺が心の中でそう叫んでいたのは、誰も知ることのない悲しい現実である。


 こういうのは地味に辛い。


 この気持ち、わかってもらえると思う。


 それはさておき、だ。


 俺が握力計を欲しがった理由は、1%ノートに書き込んだ結果を検証するためだった。


 暗記能力以外にも、視力、聴力、筋力などなどいろいろな身体能力のUPを書き込んでいたからだ。


 例えば、視力と聴力は「おそらく10%から20%程度のそこそこ大きな向上がなければ、日常生活で変化に気づくことはない」と思われた。


 だがしかし。


 筋力ならば握力計を使って毎日握力計測をすることで、微々たる変化でも実感できるのでは?


 そう考えたからこそ、「一般家庭だとあんまり所持していないだろう」と思われる握力計を、俺が欲する動機になったのである。


 尚、中間試験の結果が出た直後の時点の俺も母さんも、未来の期末試験の結果が更に良くなることは当然知らない。


 そっちはそっちで、ご褒美代わりにちょっとしたお願い事をするのだが、それはそれで別の話となるのだ。


 ちなみに、1%ノートに認められていたのは、暗記のような100%UPではなく、各能力の1%UPという微妙な内容。


 まぁ、人間の肉体能力には限界があるのだろうから、それは当然なことなのかもしれないが。


 所詮、人はヒグマと力比べをできるレベルには到達し得ないだろうし、素手でトラやライオンには勝てないのだろう。


 あと、一応言っておくと、1%ノートに書き込んでも消えない条件を割り出すのには、非常に苦労した。


 コンマ以下の領域まで書き込みを試さずに済んだのは、「僥倖」と言って良いのかもしれない。




 ああ、そうそう。


 あの六月のヤバイ書き込みしちゃったよ案件は、どうやら無事にハズレの約74%側を引けたようだ。


 財布に忍ばせた、買うのにめっちゃ勇気が必要だった特別なお守り(ポリウレタン製品)は、無用の長物と化したのだが、俺には「それで良い」と思えた。


 ついでに言うと、あの日の翌日、俺は綾瀬さんをカラオケデートに誘った。


 そうして、「そういうのは、保護者同伴か、高校生になってから」と、彼女にハッキリ、キッパリ、バッサリお断りされ、一人寂しく個室で熱唱事件なんてこともあったりしたが。


 悔しくて泣いたりなんかはしていないんだからね!


 すみません。

 

 嘘です。


 大嘘です。


 カラオケの件はともかくとして、「お守りの案件では、ちょっと大人の階段を上ってみたかった気持ちがあった」のは事実です。


 ごめんなさい。


 って、俺は誰に言い訳をして謝っているんだか。


 まぁ、心の中の言葉は誰にも知られないのだから問題はない。


 ないよね?




 せめて綾瀬さんの水着姿くらいは。


 大人の階段を上り損ねて、そう考えた俺。


 俺は、ありふれた青少年なので、健全なエロの魂も内包している。


 しかし、「カラオケデートを却下された」という、苦い思いをした前例もある。


 なので俺は先手を打つことに。


 要するに俺は、「彼女の綾瀬さんを誘うのに成功したら」という条件付きで、母さんに保護者として公営プールへ同伴してくれるように頼み込んだのだ。


 想定している時期としては、夏休みに突入している七月下旬以降のスケジュール調整となる。


 海のほうがよくね?


 あるいは、遊園地併設型のプールのほうがよくね?


 そういう意見の持ち主も存在するかもしれない。


 と言うか、「それが普通の考えだ」と俺も思う。


 激しく同意させてもらうよ。


 だけどね。


 俺が地味な公営プールを選択したのには、もちろん相応の理由があるんだ。


 ええ、ええ。


 俺は母さんにお願いする前の段階で、1%ノートに綾瀬さんと一緒に行きたい場所を書きまくりましたよ!


 そうやって書いて書いて、書きまくった結果、消えなかったのは公営プールだけだったんだよ!!!


 わかったか?


 これが相応の理由ってやつの正体だよ!


 ちくしょうめ!


 だが、考えようによっては、これは正解であるかもしれん。


 プールに入る時に、綾瀬さんが「トレードマークの、大きな黒縁メガネをかけたまま」ということは、たぶんなかろう。


 綾瀬雅という女の子は“メガネを外したら美人でした!”を地で行く女子なのは間違いない。


 と、なると、だ。


 そこに有象無象のナンパ野郎が近寄って来る可能性を考えるとですね。


 設備が「娯楽寄り」とは言い難い、簡素な公営プールは「健全過ぎて滅茶滅茶安全!」と言えるのだ。


 そもそも、その手の目的を持った輩が、「獲物を物色するために選ぶ場所」とは言い難いからな。


 だって、ご近所のお子様連れのパパさんやママさんが、チープに子供を楽しませる目的で普通に来る場所だもの。


 そこまで思考を進めた時、俺は綾瀬雅という女子の人物像から、「一緒にプールに行った時に、綾瀬さんが着用するであろう水着は何であるか?」を想定できてしまい、茫然となる。


 どう考えても、あの慎ましい胸部装甲と色気のあるビキニ系の水着の組み合わせはあり得んのだ。


 あるとすればワンピースタイプ一択だろう。


 だがしかし、だ。


 そもそも綾瀬さんは、プライベート用の水着を元々所持している、あるいはデートが決まってからそれ用に購入するような女子であろうか?


 つまるところ、彼女は俺の母さんという保護者付きプールデートに、スクール水着でやって来る可能性が極めて高い。


 いくら美人でも、その水着ではナンパ野郎も躊躇するような気がして来たのは内緒だ。


 また、綾瀬さんの成長期待枠な胸部装甲の貧弱さも、そうした輩が躊躇する一因になるかもしれない。


 そんなことを考えてしまったのは、絶対にバレてはならない秘密である。


 バレるはずはないけど、もしバレたら殺されるかもしれんね。


 準備は万端。


 外堀は埋めた。


 あとは、本丸の真面目堅物美少女様に、プールデートの約束を取り付けるだけ。


 それの難易度が一番高いかもしれないのだが!




「『美少女の水着姿を、俺の両の眼に焼き付けるようにガッツリ拝むぞ計画』は完璧じゃ~」


 今日も今日とて、俺は聖域で内なる心の声を表に出して叫ぶ。


 これは、魂の叫びであるのだ。


 母さんは「久々に水着を新調する」と張り切っているので、きっと俺の男の子の部分を理解してくれるであろう。


 要は、階下で夕食の準備をしながら、いつものように聞こえていない振りをしてくれるはずである。




 盛夏(せいか)の候。

 とある一日。


 母さんに学年一位の成績を報告し、俺はささやかなご褒美として、同伴プールデートというおねだりすることに成功した。


 綾瀬さんとの、読みは成功と同じで漢字が異なる行為の方は、遂に1%ノートへの記述が綺麗さっぱりと消え去り、泡沫の夢で終わったのだけれど。


 しかし、男女のお付き合いが進めば、いつかはそんな日も来るだろう。


 なにせ俺は、綾瀬さんとの結婚後に生まれて来るはずの子供の名前を、もうすでに考えている気の早い準備万端男なのだ。


 今回の一件では、「可能性がゼロではなかった」という事実のみを喜ぼう。


 本来は「99%を超えて、なしの側だったのだ」という寂しい現実には、スルーする力を極限まで高めて目を瞑るのだ。


 俺は1%ノートを前に、「彼女との関係を今後どうステップアップさせていくべきか?」で延々と知恵を絞るのだった。

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