表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/25

第24話

カクヨム版第24話を改稿。

西暦20××年3月××日


 学年末試験と三年生を送る会、一年先輩な方々の卒業式にホワイトデー(倍返しの日)等々、怒涛のイベントラッシュをなんとか潜り抜け、春休みを待つばかりの俺。


 しかしながら、心の中は平穏とはほど遠い。


 何故なら、先月思いつきで書き込んでしまったとんでもない内容を繰り返し書いてみたら、ついに当たりを引いてしまったからだ。


「はぁ。ため息しか出ないわ」


 当たりが引けたのに、何故俺の口からこんな言葉が出るのか?


 あのね、俺が病気や怪我を治せる力を得たのは、1%ノートさんの力が本物である以上疑う余地はない。


 そこまでは良いんだよ。


 でもね。

 

「『能力を持っている』のと、『持っている能力の使い方がわかって、実際に使えるかどうか?』は全然別物なんだよぉぉぉ」


 ねぇ。


 この能力はどうやって使うの?


 自信満々に「ヒール!」とか叫んだのは完全に黒歴史だよ!


 他人がいない聖域での行為で良かったわ。


 誰か、俺が得た新たな力の使い方を、懇切丁寧に教えてくださいませんか?


 是非ともお願いします。


 今のままじゃ、宝の持ち腐れだし、悶々として気が休まらないのです。


 いわゆる、「才能はあるのに開花していない」ってのと同じじゃんね。


 それと、今更ですが。


 科学技術万歳の現代日本のはずなのに、病気や怪我を治す能力とかまるっきりラノベとかファンタジーの世界の話ですよね?


 ワタクシ、科学と由来のよくわからない力が交差する、学生だらけの都市に住んだ覚えはないのですが!


 とりあえずネットで調べろ?


 それすら怖くてできん。


 どこから足が付くかわかったもんじゃないからね。


 陰謀論かもしれないけど、ネットは監視されてる可能性を考えてしまう。


 もう、俺の警戒心は上限いっぱいに振り切っていますよ!




 ま、それはそれで置いといて、ですね。


 俺は株式投資ってものに手を出してみた。


 銀行にお金を寝かせておくだけより良い気がしたのと、「運用してあげよう」って俺に近づいてくる有象無象の輩への対策としてね。


 ほら、自分でやっていれば「自分でできますので、いらん」って言えるじゃん?


 母さんからの勧めもあったけどさ。


 相場に張り付いて短期で売買を繰り返すのは、中学生の俺には無理。


 そんな時間も暇もない。


 なので、基本的には実績重視で行く。


 長期間安定して、配当金を出している実績がある会社の株を中心に。


 要は、株の値上がりを期待して利益を狙うのではなく、配当金目当ての長期保有が前提の戦略とする。


 購入銘柄の候補は、母さんが家事の合間にちょこちょこと見繕ってくれたので、その中から勘で選んだ。


 こんなの最後は勘しかないよね。


 もちろん、手持ちの金額全部を株に突っ込むような真似はしてないよ?


 一億ドル分だけ投資に回して、残りは普通預金と定期預金へ。


 ただし、預金する銀行は複数に分けた。


 定期預金は日本円以外に、外貨のままで預けていられる銀行も選び、外貨預金の割合を大きくしてみた。


 そうした理由?


 利子が全然違うし、満期ごとに日本円に勝手に両替されて、「俺が為替リスクを被りながら、両替手数料を無条件に取られる」って馬鹿馬鹿しいからだよ。


 分散すること自体が、リスク回避にもなるしね。


 知っているかい?


 銀行だって倒産することはあるんだぜ。


 日本の銀行で預金額が一千万円を超えるなら、預金保険制度で全額保護してもらえる、「決済用預金」、またの名を「無利息型普通預金」って呼ばれる口座の利用は必須だよ!


 ワタクシめは、弁護士さんに雑談混じりで教えてもらうまで、そのような口座の存在を知りませんでした。


 俺が資産運用の方向へ目を向けたのは、アメリカの宝くじで高額当選金を得たことで、有名人になってしまったせいもある。


 目論見としては、誰もが見かけ上納得するような不労収入を得ること。


 ぶっちゃけ、貯金を食い潰して行く生活でも全然問題がないし、不労ってだけなら非課税の日本の宝くじを買い続ける方が楽なのはわかっているんだけど。


 でもね。


 俺的には、世間の目ってやつも気になるわけなんですよ。


 まだ数年は先の話になるが、社会に出る年齢になって以降、「ご職業はなんですか?」って聞かれることもあるだろう。


 また、なんらかの書類にさ、自分の職業を記入しなければならないこともきっとあるだろう。


 そんな場面で、「無職」って書き込むの嫌じゃん。


 でも、資産運用をしていれば、そこに「個人投資家」って書けるんだよ。


 学歴ってものに目を向けてみても。


 高い学歴が将来の安定した収入を得ることを最終目的とするなら、俺にはもう学歴なんて必要ない。


 けれども、結婚して子供を授かれば、たぶんだけど父親として誇らしい経歴とかが欲しいと思うんだよね。


 亡くなった俺の父さんも、こんなに素敵な母さんと結婚できて、しかも庭付き一戸建てを購入することができた立派な父親だったわけだし。


 こういうのは周囲の人間からの視線や評価を気にしてしまう、いわゆるチンケなプライドみたいなものかもしれない。


 けれども、そういうのは結構大事な気がする。


 だってさ、よく知っている人じゃなければ、外見と肩書くらいしか判断材料なんてないから仕方がないよね。


 俺はまだ経験したことがないけれど、就職の面接試験が面接のみの評価で合否が決まらないのはたぶんそういうことなんだろう。


 幸い、俺の記憶力の性能を遺憾なく発揮することができれば、国内最高の大学の最難関学部ですら入学して卒業することが可能と思われる。


 突然の思い付きでしかないけど、治癒の力が使えるのならば医者になるのも悪くはないかも。


 肝心の治癒の力がまだ使えないけどな!




「一郎。伯母さんが亡くなったそうよ。明日がお通夜で明後日がお葬式。出席するから準備しておいてね。雅と麗華はどうする? 行くと嫌なものを見るハメになるかもしれないから、行きたくなければお留守番でも大丈夫だけれど」


 母さんの言葉に、「1%ノートに書き連ねた名前のどれかなんだろうな」って決して口には出せない感想しか出てこない俺。


 そう、俺は父さんと母さんの親、つまり俺から見ると祖父母に当たる人物と、父さんと母さんの兄弟姉妹、俺から見て伯父、叔父、伯母、叔母に当たる人物の全てをノートに書き込んでいる。


 雅や麗華の、旧綾瀬家の人間についても同じだ。


 将来的には、俺って大量殺人犯になるのかもしれんね。


 もちろん、「バレれば」の話になるけど。


 書き込んだ事象が実現してしまうと、親を亡くすことになるいとこたちにはちょっと申し訳ない気がしなくもない。


 だが、それでも彼らは俺と同じ片親になるだけで、両親ともに失うわけではないからな。


 どう言ってみたところで、「俺は自分自身に加えて、一緒の家に住む身近な家族が最も大切」なのだから、優先順位を間違えたりなんかしない。


 自主的に俺と母さんの敵になった人たちは、反撃されても当然である。


 やりすぎ?


 過剰防衛?


 いやいや。


 1%ノートを手にしたならば。


 自由にそれを使える立場になったならば。


 それでも同じことが言えるのか?


 この手の話の、報復行為への抑止力って何だと思う?


 それはね、やり返したときに自分に降りかかるペナルティーの大きさだよ。


 少なくとも俺はそう思うね。


 で、1%ノートを使えば、そんなものはないわけだ。


 最初の一歩は躊躇うかもしれない。


 けれども、俺はもうルビコン川を渡ったんだよね。


 世の中には、お金がなければ命が助からない人間だっているんだ。


 だから、俺と母さんが生きていくために父さんが残してくれたお金を奪おうとした時点で、俺的には「アウト」としか言えん。


 これは俺の身に起きたことではないけど、東雲弥生さんを例に挙げれば、彼女は俺の金がなければ助かっていなかった。


 渡米費用と手術費用などの必要なコミコミの総額は、ハッキリ言って巨額だよ。


 俺や母さん、雅や麗華が今後似たような状況にならない保証がどこにある?


 ま、考え方は人それぞれだ。


 俺は「こういう考えの人間だ」ってだけの話さ。


 まぁ、俺が書き込んだ人物で事象が実現してしまった場合は、「運が悪かった」と思って諦めて貰うしかない。


 実際、運の話なんだよね。


 元々、可能性が皆無だった事柄は、1%ノートを使っても実現するわけじゃないから。


 1%ノートの力のおかげなのか?


 それとも偶然なのか?


 その線引きは誰にも不可能なのだから。


 残された遺族に対して言うと、「生命保険金などの大きなお金が動く事態になって、母さんや俺と似たような目に遭うとしたらご愁傷様」って話だけどな。

 

 瞬時にそうしたことをつらつらと考えながらも、俺は母さんに疑問点を問うことにした。


「どっちの伯母さん? 母さんのお姉さんの方? 父さんのお姉さん?」


「父さんの方よ。あそこは旦那さんと離婚しているから、一人息子の勇君だけになるわね。確か四月から高校三年生だったかしら。受験前に大変ね。今後の生活費や大学の学費とかの問題も出そうだけれど。一郎。うちは資金援助をするつもりはありませんから。葬儀の場で誰かからお金のことで何か言われても、きっぱり断るのよ」


「勇君の父親は生きているんだから、うちじゃなくてそっちに頼るべきだね。俺には関係ないよ」


 あり得そうな話は、先に対処を決めておくに限る。


 ちなみに、今回の案件については、雅と麗華は不参加で留守番するのを決めた。


 ま、顔つなぎしても良いことは何もないだろうから、それが正解だろう。




「俺の親戚は、葬儀の場をなんだと思っとるんじゃ~」


 葬式を終えて、帰宅した俺は一日振りに聖域で叫ぶ。


 故人を悼むのはそっちのけで、相続の話と「勇君を誰が引き取るか?」の押し付け合いも始まった。


 見苦しいことこの上ないね。


 あ、うち?


 母さんが「住まわせる部屋がない」ってぶった切った上で、「うちには年頃の娘がいるから『赤の他人』の男の子を同じ家に置けるわけがない」って追撃まで入れましたよ。


 まぁ、勇君に罪はないはずだけど、世の中には「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」って言葉もあるしね。


 年齢的にも十八にもうすぐなることだし、自立して頑張って貰おうじゃないの。


 昔、「大金が入るんだって? 俺、野球のグラブとスパイクがボロくなってきたからプレゼントしてくれない?」って言ってきたのを、俺は忘れてなんかないからな。


 俺の叫びが微かに聞こえていても、聞こえない振りをしてくださる母さん。


 今日の母さんは凛々しかったよ!




 春暖(しゅんだん)の候。

 とある一日。


 春休みを目前に控えた日、またしても我が家に訃報が飛び込んで来た。


 今度は旧綾瀬家の関係者が、お亡くなりになったそうで。


 雅の母方の祖母は、彼女の実母に続いて五十にも届かない年齢の実子を失ったことで、葬儀が済んでからほどなくして心労により倒れた。


 まぁ、「倒れた」と言っても、入院生活になっただけですけどね。


 その祖母の視点だと、夫と娘二人を立て続けに失ったわけで。


 入院費?


 知らんがな。


 実の息子に頼るがよろしい。


 未成年の雅や麗華にお金の無心とかないですわ。


 あまりにもロクでもない醜態を見せつけられると、1%ノートに書き込むペンの走りが軽くなってしまう俺なのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ