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第19話

カクヨム版第19話を改稿。

西暦20××年10月××日


 秋の恒例行事である体育大会をつつがなく終え、直近に二学期の中間試験を控えている時期となった。


 俺は、病み上がりって大義名分があったために、体育大会の競技には参加しないで応援をしていただけだ。


 そんなわけで、実質保護者などの観客と変わらんかったね。


 ちなみに、通常の体育の授業も見学を続けている。


 体調的に「運動することが厳しい」というわけでもないのだけれど、1%ノートの効果で身体能力が思ったより上がってしまっていて、適度な加減が難しい。


 それが、理由を付けてのサボリを決め込んだ原因である。


 まぁ、力加減を上手く調節できるようになるまでの辛抱だね。




 筋力が1%上昇する。


 1%ノートに継続して書き続けていたこれは、思いのほか当たりを引いていた回数が多かったようだ。


 俺の握力は、現在六十キロを超えている。


 もちろん、人間を辞めてるレベルのパワーは遥か先でまだまだ遠い。


 けれども、中学生男子の平均値を大幅に上回っているのも事実なのだ。


 俺の握力に関しては、元々が平均よりもやや上だったって事情もあるんだけれどね。


 雅に頼んでこっそりと計測して貰った百メートル走のタイムも、普段使いの靴で走ったわりには信じられないほど良い記録が出ていた。


 ただし、手動計測なので多少誤差があると思うけど。


 俺、陸上選手としてやって行けちゃったりするのかもしれない。


 それに加えて、動体視力の向上も著しい。


 俺は試しに、家から遠いバッティングセンターにわざわざ足を運んで、最速のボールを打ってみた。


 ハッキリ言って、余裕で打ててしまう。


 さすがに「球が止まって見える」とかまでは言わないけどね。


 1%ノートによる身体強化は、累積抽選回数がまだ五百回かそこらのはずで、そのわりには強化成功が多すぎるようだ。


 これはひょっとすると、漠然とした内容で「身体能力が1%向上する」と書いたものが、重複して効果を発揮している可能性もあるのかもしれない。


 細かな検証をするのが難しいから、真実は不明だけどね。


 そもそも、俺が元からすごい人間だった可能性も!


 まぁ、ないよね。


 うん、知ってた。


 どう考えても、1%ノート様様でございまする。


 もう、1%ノート様に足を向けて寝られないね。


 俺の部屋のベッドと1%ノートがしまってある机の引き出しの位置関係上、元々そんなことはできないから全く問題ないけど。


 とりあえず、感謝の気持ちを込めることが大切だろう。


 手を合わせて1%ノート様を拝んでおこうか。


 今後もご利益がありますように。




 それはそれとして、雅が俺の母さんの養子となり、綾籐家の一員として迎え入れられてからしばらくの時が経過したわけだが。


 雅は俺の彼女であり、婚約者でもあるからして。


 なんかこう、ですね。


 もっとラブラブな同居生活みたいなのを、俺としては期待してたんですけどね?


 そのような期待は、超裏切られました。


 何の変哲もない、普通の日常が過ぎて行きますです。


「麗華もいるし、私たちはまだ中学生だし、家の中でイチャイチャしていたらお義母さまにも申し訳ないでしょう?」


 こうガツンと雅に正論を言われてしまうと、俺としてはぐうの音も出ないわけでしてね。


 せめて、お風呂でバッタリ鉢合わせ!


 あるいは、着替え中の下着姿や、裸体をちょっぴり見ちゃったよ事件!


 年頃の若い男女がひとつ屋根の下に同居しているのですから、そのくらいは起こってくれても良い。


 そんなことを、ワタクシめは思ったりする今日この頃なのですが。


 ええ、ええ。


 我が母上様は、拙者のそんな思惑を、まるっとお見通しでござったよ。


 防音のリフォーム工事ついでに母上様自らの手配で、各居室と浴室、浴室へ繋がっている洗面所の入り口には、しっかりと施錠できる設備が追加されましたとも!


 ちくしょうめ!




 雅という家族が増えて、冷蔵庫と洗濯機が大型のものに買い替えられたのも、我が家の小さな変化の一つだ。


 母さんはドラム式洗濯機がお嫌いのようで、縦型の洗濯機を真剣に吟味しておられました。


 なんでも、「ドラム式は衣類が傷む気がする」のだそうです。


 俺はそういった方面の知識がないので、真偽のほどは定かじゃないけどね。


 ついでに、ガス式の衣類乾燥機も我が家に導入されたりしました。


 こちらは、外に洗濯物を干して、泥棒に盗まれることを防ぐのが導入した目的みたいです。


 俺は洗濯物を盗むとか、そんなことはしませんけどね!


 雅や麗華の下着を盗んだりなんかしませんけどね!


 これは大切なことなので、強調しておきます。


 てか、母さんの下着が盗まれた事件が昔あったような?


 その時には、衣類乾燥機なんてものを導入しなかったのにさ。


 まぁ、事件以降は、下着類を室内干しに切り替えていたけど。


 衣類乾燥機に頼らなくて、そのまま室内干しで良くありませんかね?


 とても不思議だ。


 確かあの下着泥棒事件の犯人は、半年後くらいに捕まったんだっけ?


 なにぶんにも昔のことだから、記憶が曖昧なんだよね。




 雅は、まぁ麗華もそうなんだけど、養子になったことで名字が綾瀬から綾籐に変わった。


 学校側は元の名字を通称として名乗ることが選択できるのを、本人へ盛んにアピールしてきたみたいだけどね。


 でも、麗華はもちろんのこと、雅もそれを望まなかった。


 それ故に、二人の家庭環境の変化が学校内で早々に知れ渡ることになる。


 そうした話は、何気に子から親へと伝わるものでしてね。


 雅の実母の普段の生活が、そういった親の世代から注目を浴びることになったりしたわけだ。


 で、その普段の生活の実態が、「金遣いが荒く、若い男と遊び歩いている」だったりするとですね。


 俺や雅の耳にも、雅の実母のアレコレが届くわけなんですよ。


 当たり前のことだけど、お金ってのは使えばなくなる。


 仕事もせずにずっと遊んでいれば、収入がないからいつかは生活が破たんしてしまう。


 中学生でもわかる理屈だ。


 これは近い将来、実母が雅や麗華に金をせびりに来るんじゃなかろうか?


 そんな不安が激増案件である。


 実のところ、雅たちの血縁関係者の誰かが、何らかの形で干渉してくるのを防ぐために、俺は「1%ノートの力を使って予防的に排除するべきか?」を真剣に悩んだりもした。


 できるできないの話で言うと、俺が決断しさえすれば。


 そして、当たりを引くまでの時間を掛けさえすれば。


 この世からの邪魔者の排除が可能である。


 だからこその悩みなんだよね。


 ただし、問題が二つあるけれど。


 一つは、俺の精神が耐えられるかどうか?


 もう一つは、雅や麗華が「誰がやったのか?」に気づいたり、知ったりした時にどうなるか?


 厳密には、殺人罪で逮捕されるリスクも問題点かもしれない。


 けれども、1%ノートを使った場合、「そのリスクはほぼない」と言える。


 いや、「絶対安全に限りなく近い」だろう。


 なんせ、書き込み方次第でやりようがいくらでもあるし、そもそも殺人を証明することが不可能と思われるから。


 だってそうだろ?


 前提として、書き込んでも1%しか実現の可能性がないんだから、99%(ほぼ確実に)失敗するんだぞ?


 それを「俺のせいだ」と、どうやって証明するのさ?


 しかも、ノートの特性上、可能性0%からは1%にできない。


 つまり、どんなに極小でも、発生する可能性が最初からあるわけだ。


 また、それに加えて、ルールにあるノートに関する記憶の問題だってある。


 ルール自体が他者に共有できないのだ。


 よって、よほど馬鹿っぽいバレバレな使い方でもしない限り、人為的な犯行だと疑うことすらできない。


 それが、俺の結論である。


 ただし、俺様ルールの新たな世界を切り開いて、神を目指すなんてまっぴらごめんなので、そこのところは承知しておいて欲しい。


 諸般の事情を鑑みると、物理的な永久排除って線は、最後の最後まで保留して先延ばしをしたい。


 なので、俺としては雅の血縁者が愚かな行動に出ないことを祈るばかりだ。


 いや、そうした行動に出ないように1%ノートの力を使うって手もあるか。


 残念ながら、良い方法を今の段階で思いつかないけどね。




「俺の嫁取り計画は完全停滞中じゃ~」


 今日も今日とて俺は聖域に籠り、腹の底から絞り出すような大声で、魂の叫びを放つ。


 雅は麗華と一緒に先ほどお風呂へと入って行ったのを確認しているので、今は安心して叫べるのだ。


 俺だけの聖域はバージョンアップし、防音室と化している。


 しているのだが、実は部屋の外に全く音が漏れないわけではないことが母さんから告げられている。


 つまり、先日のアレは、母さんに聞かれていた。


 そうであれば、たぶん雅や麗華にも聞かれていたことであろう。


 よって、以降は叫ぶに当たって、ある程度注意を必要とする。


 パーフェクトな聖域ではないのが残念だが、致し方ないのである。


 この件に関しては、聞こえない振りをされずに、母さんからきちんと告げられたことがどんなにありがたいことかが身に染みるね。


 母さんの母親力の高さに。


 状況判断の的確さに。


 感謝感謝だ。


 ホントにもう大好き!




 清秋(せいしゅう)の候。

 とある一日。


 雅の母方の祖父が、三か月ほど前に亡くなっていることが発覚した。


 相続関連の知らせも含め、雅の母親宛で配達証明付き郵便が綾瀬家へ送付されていたようだ。


 家の郵便受けからそれを取り出したのは雅だが、母親宛の手紙を彼女が開封して中身を確認することはむろんなかった。


 そして、手紙を受け取るはずの母親は、自宅に帰ることなく外泊を繰りかえしていたというね。


 結果的に、雅の祖父の遺産は雅の母親が全て引き受けるハメになったのである。


 こんな話をしている時点で、もちろんそれは結構な金額の負の遺産だったりするのだけれども。


 そんな経緯から、速攻で銀行口座の差し押さえを食らってしまったらしい雅の母親。

 

 手持ちの現金が尽きた彼女は、狂乱状態で雅に掴み掛ったのだ。


 全く以て自業自得のはずなのだが、彼女の中ではこの案件の責任が雅にあり、全て雅が悪いことになっていたようで。


 事案発生が中学校の校門付近での出来事だったため、通報されて母親は警官に取り押さえられていたりしたらしい。


 そんな事態を知ってしまった俺は、1%ノートの力をこれまでにない使い方で使用するべきなのかどうか?


 前提として、俺は状況を正確に把握するために、人とお金を使わざるを得ない。


 俺は1%ノートを前にしたまま書き込む手を止めて、とりあえず弁護士さんへ電話を掛けたのだった。

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