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『王様の耳は速記者の耳』

作者: 成城速記部

 普通、物語の主人公は、一つのお話にしか出てきません。桃太郎が鬼退治に行った後、竜宮城に行ったりはしないものです。

 その点、プリュギアのミダス王は、ただ者ではありません。

 ひょんなことで、黄金のプレスマンを手に入れたミダス王は、王らしく、速記に励みました。

 毎日のように、宮殿の近くの森で、森の神パンの朗読を速記しておりますと、太陽神アポロンの目にとまり、どちらの朗読が上か、勝負をすることになりました。

 審判は、山の神トモロスが務めることとなり、文芸と時事を、森の神パンと太陽神アポロンが、かわりばんこに朗読しました。

 山の神トモロスは、太陽神アポロンの朗読に軍配を上げました。

 ミダス王は、物言いをつけました。なぜって、森の神パンの朗読のほうが書きやすかったからです。

 太陽神アポロンは、激しく怒りました。そうして自分の朗読の美しさが理解できないなら、お前の耳をロバの耳に変えてやると言い、ミダス王の耳は、そのようになりました。

 実は、この勝負は、パンに分がありました。確かに声の張りは、太陽神アポロンのほうが上でしたが、速記競技会ではないのですから、正確さや美しさより、書きやすい森の神パンの朗読のほうが、勝利にふさわしかったのです。

 ミダス王にとっては、実に災難なことですが、速記者の耳を持つミダス王の耳の外観は、ロバの耳に変えられました。

 ミダス王は、これを恥じ、髪を伸ばし放題にしていましたが、いつまでもそういうわけにもいかず、床屋を呼びました。

 驚いたのは床屋です。自分の住む国の王の耳が、ロバの耳の形なのです。髪が切りにくいことこの上ありません。

 しかし、床屋も、髪切りのプロです。きっちりと仕事を終えますと、礼金を受け取り、退出しようとしたところ、大臣から、王様の耳の形状の不具合について、守秘義務を守るように言い渡されました。

 床屋もかわいそうです。王様の耳を見なければ、秘密を抱え込まずに済んだのに。

 ストレスがたまります。円形脱毛症になりました。医者の不養生というか、紺屋の白ばかまというか。

 これ以上耐えられないと思った床屋は、草原に穴を掘り、そこに向かって「王様の耳は速記者の耳!」と叫びました。

 床屋は、穴をすぐに埋めましたから、秘密は地中に閉じ込められたはずでした。

 しかし、穴から生えたアシが、風に揺れるたび、「王様の耳は速記者の耳!」と叫ぶ床屋の声が、草原に響き渡るのでした。冬になると、強い北風が吹き、その声は、宮殿にまで聞こえるようになりました。

 大臣は、床屋に罰を与えるかの下知を得るため、王に謁見しますと、風が吹き、あたりが「王様の耳は速記者の耳!」という言葉で包まれ、ミダス王は、黄金のプレスマンで、その言葉をうれしそうに速記したのでした。



教訓:プリュギアの国では、速記を志す若い娘たちの間で、ロバの耳をつけたカチューシャがはやったという。彼女たちは、ロバ娘と呼ばれ、はるか後の東洋の島国のソーシャルゲームに影響を与えているという。

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