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秘密の先生  作者: 案山子
5/5

金曜日

次の日、私は学校を休むことにした。


昨日のことで、全く眠れない夜を過ごしたためか頭痛がひどかった。


翔先生は、昨日と変わらず授業をしているに違いなかった。


「…はぁ」


布団の中、寝返りを打ち、ため息をついた。


母子家庭の私の家は小さなアパートでごじんまりとしている。


私の部屋も襖で区切られているだけで、部屋と呼べるのかどうかさえわからないくらい狭かった。


朝から母は仕事にでかけていて、 家には私一人しかいない。


床に敷かれたうすい布団によこたわり、携帯の画面をみる。


時刻は午後12時をまわっていた。


昨日録音した音声がちゃんと録れているのか確認したかったけれど、あの時の音声をもう一度聞く気にはなれなかった。


布団に顔をうずめようとした、その時、玄関のチャイムの音が鳴り響いた。


「…誰だろう」


私はベッドから起き上がり、玄関のドアスコープを覗き込んだ。


玄関の扉の前、翔先生がうつむきながら立っている。


私はすぐに視線をそらし、玄関から距離をとった。


「すみません。教育実習生の須藤ですけど、花さんは大丈夫でしょうか?」


ドアをノックしながら、先生が尋ねた。


「…私は平気です。明日には登校できると思うので、心配しないでください」


思いもよらない出来事を前に、私はひどく動揺しながらも答えた。


「黒崎さん?ちょっと渡したいものがあるから、出てきてもらっていい?」


「 後で受け取るので、ポストに入れておいてください」


玄関の扉の先にいる先生むかって、 私は捲し立てるように早口で言った。


先生にパジャマ姿を見られたくない。


何より、昨日の事が頭から離れなくて、面と向かって会うのが心苦しかった。


「今日で実習が終わるから、最後に君に伝えたいことがある。少しだけでいいから出てきてくれないかな」


優しくて落ち着く声…。


玄関の扉の向こうから聞こえる声は、私が知っている先生の声だった。


「…わかりました。ちょっと着替えるので、待っていてください」


「うん、わかった」


私は急いでまともな服に着替え、髪を梳かして唇にリップを塗った。


期待と不安が入り混じる中、 私はおそるおそる玄関のドアを開けた。


「花ちゃん…」


「…翔先生」


ドアの向こう、翔先生がプレゼントのようなものを片手に持ち、立っていた。


「急にごめんね…。体調は大丈夫?」


「はい…、平気です」


「よかった…。花ちゃん、少しの間だけだったけど、楽しい時間をありがとう」


先生が私にプレゼントを手渡す。


私はそれを受け取り、

「こちらこそ、ありがとうございました」と 軽く会釈をした。


可愛らしい星の柄が入った小さなラッピング袋の中に何かが入っている。


「開けていいですか?」


「もちろん」


先生が照れくさそうに頷いた。


私はラッピングされたリボンを解き、中身を取り出した。


「…かわいい」


袋の中に入っていたのは、可愛らしい花柄の小さなコンパクトだった。


コンパクトを開くと、上部と下の部分に丸い鏡があり、

そこに自分の顔が映し出されていた。


「君は綺麗だ…。だから、もっと自信をもってほしい」


先生が照れながら頭を掻いた。


昨日、屋上で私が翔先生と高木さんを見ていたことを彼は知らない。


そう私は思いつつも、先生に尋ねてみることにした。


「先生…」


「ごめん、気に入らなかった?」


私は大げさに首をふった。


「違うんです。そのっ…、昨日、屋上で先生と高木さんと話してるところ、

私…、隠れて見てたんです…ごめんなさい」


「……」


先生が口に手を当てながらうつむいた。


私は先生に屋上で見た二人のやりとりを全て話した。


「…それ、ほんと?」


先生が驚く。


「ちょっと待っててください」


それだけでは信じてもらえそうになかった私は、携帯を手に取り、録音した音声を先生に聞かせる事にした。


「…もう、十分だよ」


音声を最後まで聞くことなく、先生がつぶやいた。


「……」


うつむく先生に私はかける言葉が見つからなかった。


それでも、何とか言葉を絞り出し、今の本心を伝える事にした。


「翔先生…。先生がどんな秘密を抱えていたとしても、私が先生の味方になります。

だから…、1人で抱え込まないでください」


「ふっ…」


一瞬、 先生が笑った気がした。


「先生?んっ……」


先生が私の口にキスをした。


身体中に電気のようなものが走り、体が熱くなっていく。


そのまま、私は先生と家の中に入り、玄関の扉を閉め、鍵をかけた。


「…僕は誰よりも純粋な君が好きだ」


「私も…、先生が好きです」


それは、まぎれもない本心だった。


秘密を抱えている先生を救いたい、私はそう思った。


その秘密がたとえ嘘であっても、私は信じ続けたいと思う。


誰よりも純粋であるために…。




読んでいただき

ありがとうございます!

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