後6カ月~憂鬱な学校祭準備~
2学期といえば、おそらく多くの生徒が楽しみにしているだろうイベントがある。そう、学校祭だ。ただひとつ言いたい。体育祭と文化祭を連日開催にしなくてもいいんじゃない?と。
「あ、先輩。サボりですか?」
友人がほぼいない私は、なんとなくクラスの準備に混じれなくて手持無沙汰だったところ、満杯になったゴミを捨てに行くという名目を見つけ、教室の外に出た。
クラスメイトに声を掛けづらい私にとって、みんな忙しそうに、でも楽しそうに準備をするこの期間は苦痛なんだよね…。気まずいというか。わざわざ体操服に着替えたのに意味がないみたいに感じるし。
「正解」
建物の外に出ようと靴箱に向かっていると、いつもの階段に座ってあくびをしているサボり魔先輩がいた。今日はちゃんとサボり魔だった。
「そういうお前はごみ捨てか」
「何とか仕事を見つけました」
「一個持つ」
先輩はそう言って、両手に持っていた満杯のごみ袋を一つ取り上げた。正直、重かったから助かる…。
「ありがとうございます。でも、いいんですか?サボり中だと思うんですけど」
「別にいいよ」
「ではお言葉に甘えてお願いします」
そして眞白先輩と一緒にゴミ捨て場に向かう。この学校、結構ゴミ捨て場が遠かったりする。目立たない場所にという魂胆なんだろうけど、ちょっと不便。
「澄野のクラスって何するの?」
「コスプレ喫茶です」
「定番といえば定番だな」
この学校祭は三日あって、一日目と二日目が文化祭で、三日目が体育祭になっている。そして、1年生が食べ物以外の出し物、2年生が食べ物有りの出し物をして、3年生は体育祭の主導をする決まりだ。だから、3年生も結構忙しいはずなんだけど…案の定この先輩はサボっていた。
「先輩は何か準備やらないんですか?」
「強制的にパネル製作班に入れられてる」
「いいんですか、手伝わなくて。結構大掛かりだと思うんですけど」
各団の応援席のバックに飾られているパネル画は、去年初めて見た時に驚いてしばらく凝視したほど、大きくて迫力あるものだった。ちょっとやそっとでできるようなものではないはず。
「団選抜リレーに出る代わりに、サボっていいという取り引きをしたから平気」
「足早かったんですね…」
この人本当に何でもできるんだなぁ…。頭も良くて、気遣いもできて、運動もできると。ただ全てを台無しにするサボり癖。残念なイケメンってこの人のことを言うんですね。
「お前、これ終わった後どうすんの?」
「うーん…何とかして仕事を見つけます」
だいぶ気が重いけど。そっか、ゴミ捨てしてクラスに戻ったら、また振り出しに戻るのか。現実逃避してて忘れていた。
「ならさ、ちょっと俺と一緒に来ねぇ?」
「どこに…?」
「裏庭」
あの後、ちゃんとゴミ捨て場にゴミを捨てて、私は眞白先輩に連れられて学校の裏庭にやってきた。そこには、たくさんのベニヤ板とペンキが置いてあり、パネルを作っているんだと一目でわかった。
「え、眞白くん!?なんでいんの!?」
先輩のクラスメイトなのか、一人の女子生徒が私たちの姿を見て目を丸くする。
「いちゃ悪いかよ」
「来ると思ってなかった。え、もしかして体育祭雨降る…!?」
「予報は快晴だわ」
そんな軽口を叩き合いながら、制作班の輪の中に入っていく。どうしようか戸惑っていると、先輩が手招きしてくれた。
「本当なんでここに?取り引きしたじゃん」
「もちろんサボるさ。だから俺の代わりを連れてきた」
眞白先輩はそう言って、後ろまで来ていた私の背中を押して前に出した。突然のことで小さな声が出た。
「まさか勝手に連れて来たんじゃないでしょうね」
「そんなことしねぇよ。とりあえず仕事を与えてやってくれ」
「はいはい。じゃあ、そのパネルの色塗りをお願い。ペンキはそこらへんにあるのを使っていいから」
「わ、わかりました」
眞白先輩と話していた先輩は、簡単に指示だけ出すと別のところに行ってしまった。
「あの、眞白先輩…?」
「よかったな、仕事見つかって」
ああもうこの人はすぐそういうことをする。確かにそんな話を少ししたとはいえ、励ますんじゃなくて助けてくれるなんて。良い人すぎない?
「あ、そうだ。眞白先輩も手伝ってください」
「しょうがないな」
よし、これで先輩もサボりじゃなくなった。
早速頼まれたパネルの所に行って、指定されたペンキを持ってくると、先輩と少しずつ色を塗り始めた。
「私、クラスの準備に参加しなくて大丈夫でしょうか」
無心で色を塗っていると、ふと不安が広がったので、思い切って眞白先輩に尋ねてみることにした。
「戻って何か聞かれたら、先輩に頼まれたとでも言っておけばいい」
「そういうものですか?」
「中学高校は先輩に絶対服従みたいな空気感あるだろ」
「確かに」
それなら大丈夫か、と一人なんとか納得する。まぁ、何かあった時は眞白先輩に頼ろう。きっと何とかしてくれる。
「先輩ってもしかして手先不器用ですか?」
ふと先輩の手元を見ると、色の境目のところだけ塗られていなかった。明らかに避けてない?それ。
「いや、細かい所は面倒だからやってない」
「局所的サボり…」
「それいいな。今度から使おう」
「もう~…ま、手伝ってもらっているので、そこは私がやります」
「いや、後でちゃんとやるよ」
あんなに憂鬱だったはずの準備期間が、ちょっと楽しいなぁと感じる。それもこれも、全部眞白先輩のおかげだと思うと、頭が上がりません。