表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サボり魔先輩に恋に落ちるまで  作者: 春夜もこ
8/17

後6カ月~憂鬱な学校祭準備~

 2学期といえば、おそらく多くの生徒が楽しみにしているだろうイベントがある。そう、学校祭だ。ただひとつ言いたい。体育祭と文化祭を連日開催にしなくてもいいんじゃない?と。


「あ、先輩。サボりですか?」


 友人がほぼいない私は、なんとなくクラスの準備に混じれなくて手持無沙汰だったところ、満杯になったゴミを捨てに行くという名目を見つけ、教室の外に出た。


 クラスメイトに声を掛けづらい私にとって、みんな忙しそうに、でも楽しそうに準備をするこの期間は苦痛なんだよね…。気まずいというか。わざわざ体操服に着替えたのに意味がないみたいに感じるし。


「正解」


 建物の外に出ようと靴箱に向かっていると、いつもの階段に座ってあくびをしているサボり魔先輩がいた。今日はちゃんとサボり魔だった。


「そういうお前はごみ捨てか」

「何とか仕事を見つけました」

「一個持つ」


 先輩はそう言って、両手に持っていた満杯のごみ袋を一つ取り上げた。正直、重かったから助かる…。


「ありがとうございます。でも、いいんですか?サボり中だと思うんですけど」

「別にいいよ」

「ではお言葉に甘えてお願いします」


 そして眞白先輩と一緒にゴミ捨て場に向かう。この学校、結構ゴミ捨て場が遠かったりする。目立たない場所にという魂胆なんだろうけど、ちょっと不便。


「澄野のクラスって何するの?」

「コスプレ喫茶です」

「定番といえば定番だな」


 この学校祭は三日あって、一日目と二日目が文化祭で、三日目が体育祭になっている。そして、1年生が食べ物以外の出し物、2年生が食べ物有りの出し物をして、3年生は体育祭の主導をする決まりだ。だから、3年生も結構忙しいはずなんだけど…案の定この先輩はサボっていた。


「先輩は何か準備やらないんですか?」

「強制的にパネル製作班に入れられてる」

「いいんですか、手伝わなくて。結構大掛かりだと思うんですけど」


 各団の応援席のバックに飾られているパネル画は、去年初めて見た時に驚いてしばらく凝視したほど、大きくて迫力あるものだった。ちょっとやそっとでできるようなものではないはず。


「団選抜リレーに出る代わりに、サボっていいという取り引きをしたから平気」

「足早かったんですね…」


 この人本当に何でもできるんだなぁ…。頭も良くて、気遣いもできて、運動もできると。ただ全てを台無しにするサボり癖。残念なイケメンってこの人のことを言うんですね。


「お前、これ終わった後どうすんの?」

「うーん…何とかして仕事を見つけます」


 だいぶ気が重いけど。そっか、ゴミ捨てしてクラスに戻ったら、また振り出しに戻るのか。現実逃避してて忘れていた。


「ならさ、ちょっと俺と一緒に来ねぇ?」

「どこに…?」

「裏庭」






 あの後、ちゃんとゴミ捨て場にゴミを捨てて、私は眞白先輩に連れられて学校の裏庭にやってきた。そこには、たくさんのベニヤ板とペンキが置いてあり、パネルを作っているんだと一目でわかった。


「え、眞白くん!?なんでいんの!?」


 先輩のクラスメイトなのか、一人の女子生徒が私たちの姿を見て目を丸くする。


「いちゃ悪いかよ」

「来ると思ってなかった。え、もしかして体育祭雨降る…!?」

「予報は快晴だわ」


 そんな軽口を叩き合いながら、制作班の輪の中に入っていく。どうしようか戸惑っていると、先輩が手招きしてくれた。


「本当なんでここに?取り引きしたじゃん」

「もちろんサボるさ。だから俺の代わりを連れてきた」


 眞白先輩はそう言って、後ろまで来ていた私の背中を押して前に出した。突然のことで小さな声が出た。


「まさか勝手に連れて来たんじゃないでしょうね」

「そんなことしねぇよ。とりあえず仕事を与えてやってくれ」

「はいはい。じゃあ、そのパネルの色塗りをお願い。ペンキはそこらへんにあるのを使っていいから」

「わ、わかりました」


 眞白先輩と話していた先輩は、簡単に指示だけ出すと別のところに行ってしまった。


「あの、眞白先輩…?」

「よかったな、仕事見つかって」


 ああもうこの人はすぐそういうことをする。確かにそんな話を少ししたとはいえ、励ますんじゃなくて助けてくれるなんて。良い人すぎない?


「あ、そうだ。眞白先輩も手伝ってください」

「しょうがないな」


 よし、これで先輩もサボりじゃなくなった。


 早速頼まれたパネルの所に行って、指定されたペンキを持ってくると、先輩と少しずつ色を塗り始めた。


「私、クラスの準備に参加しなくて大丈夫でしょうか」


 無心で色を塗っていると、ふと不安が広がったので、思い切って眞白先輩に尋ねてみることにした。


「戻って何か聞かれたら、先輩に頼まれたとでも言っておけばいい」

「そういうものですか?」

「中学高校は先輩に絶対服従みたいな空気感あるだろ」

「確かに」


 それなら大丈夫か、と一人なんとか納得する。まぁ、何かあった時は眞白先輩に頼ろう。きっと何とかしてくれる。


「先輩ってもしかして手先不器用ですか?」


 ふと先輩の手元を見ると、色の境目のところだけ塗られていなかった。明らかに避けてない?それ。


「いや、細かい所は面倒だからやってない」

「局所的サボり…」

「それいいな。今度から使おう」

「もう~…ま、手伝ってもらっているので、そこは私がやります」

「いや、後でちゃんとやるよ」


 あんなに憂鬱だったはずの準備期間が、ちょっと楽しいなぁと感じる。それもこれも、全部眞白先輩のおかげだと思うと、頭が上がりません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ