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サボり魔先輩に恋に落ちるまで  作者: 春夜もこ
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後9カ月~久しぶりの看病~

「あー、しんど…」


 朝から気分が優れなかった私は、案の定放課後になるころには最悪の体調になっていた。しかも、こういう時に限って診察券と保険証を入れた財布忘れるし。梅雨で外は雨だし。え、この状態で家に帰るのまじ…?


「はぁ…」


 なんとか教科書を詰め込んだ鞄に顔を埋める。あ、良い高さ…。


 さて、どうやって帰ろうか。いくら家が近いとはいえ、途中で倒れたら大変だしなぁ。仮に家に帰ったとして、ご飯どうしようね。うぅ…いつもだったら病院で何とかしてくれていたのに。


「今日も今日とてしんどそうだな」

「眞白、先輩」


 ふと上から声が聞こえたので、ゆっくり首を動かすと、上から覗き込むサボり魔先輩がいた。あ、今は放課後だからサボり関係ないか。


「なんでここに…?」

「澄野を心配する会話を聞いたから」

「そうなんですね…」


 クラスメイトに心配かけさせちゃったな。それにしても、会話を聞いたからってわざわざ来てくれる先輩優しすぎない?


「これからどうするんだ?」

「家に、帰りますよ」

「この状態で?この雨の中?」

「診察券と、保険証忘れたので…」


 私が暗に病院に行けないことを告げる。


「送っていくよ」

「え、いいんですか…?」


 まさかの提案に思わず首を少しあげる。そしてすぐに鞄に突っ伏した。


「途中で倒れられても困るしな。家近い?」

「10分くらいです」

「じゃあ問題ないな。行こう」


 先輩はそう言うと、問答無用とばかりに私の上体を起こして、バッグを持ってくれた。


「ありがとう、ございます」


 お礼を言って、私は差し出された手を使ってなんとか立ち上がった。






「は、お前ひとり暮らしなの?」

「そうですよ」


 なんとか眞白先輩に寄りかかりながら家に帰った私は、着替えてベッドに横になった。ベッドの横までついて来てくれた先輩は、部屋の中を見て驚いた。


 そういえば、私が部屋を借りて一人暮らしなこと、言っていなかったなぁ。


「親御さんは?」

「母は海外赴任です。病院に近い高校に行くからと、母に夢を、優先してもらいました」


 昔から海外で働く夢を持っていた母。だけど、私の身体があまりにも弱く、諦めていた。それを中学生の時にたまたま知った私が、夢を叶えてほしいと頼み込んだのだ。その時初めて母と喧嘩したっけ。


 父?さぁ、記憶にいないですね。


「そうか…」


 先輩はそう一言呟くと、何やら考え込んでしまった。あれ、何か余計な心配でもかけてしまったかなぁ。でも後は寝るだけだし。


「先輩…?」

「ああ、なんでもない。…おやすみ」

「おやすみなさい」


 目を閉じると、あっという間に眠りについた。






 あつい、くるしい、たすけて。


「ん…」

「大丈夫か?魘されていたみたいだけど」


 とりわけしんどい夢を見た気がする私は、目を覚まして移り込んだ先輩の顔に思わず体が固まった。思考ももちろん止まった。


「え、なんで…?」

「体調悪いやつを放置できるほど、俺は悪人じゃねぇよ」


 寝起きに予想外のことが起こると、言葉って出ないものなんだ…。え、てことは、ずっと見てくれていたってこと?なにそれ、本当に…本当に…。


「う…うぅ…」


 目頭が急に熱くなって、涙が頬を伝っていく感覚がする。一度零れてしまった涙は、止まる事を知らなかった。


 不意に頭に温かくて柔らかい感触がした。


「親に言った手前、強くあろうとするのは良い事だけど、せめて俺には頼ってくれ」


 先輩の優しい声音で紡がれた言葉が、ストンと胸の中に落ちた。


 そっか。私は無意識に人に頼らないようにしていたんだ。母に大丈夫だと言ったから。でも本当は助けてほしかった。人の温もりに触れたかった。寂しかったんだ。


「なんでそこまで、してくれるんですか…?」

「何でだろうな。澄野はなんか、ほっとけない」

「なんですかそれ…」


 私は幼稚園児か何かなの?こんなに情緒が乱れるなんて、久しぶりな気がする。それもこれも体調のせいだ。…あと、先輩の優しさのせい。


「眞白先輩って、優しいですね」

「どうだろうな。とりあえず、なんか食べれそうか?」

「ギリいけません」

「じゃあいけるってことで、お粥でも作ってくるわ」


 あれぇ?いけないって言ったような…?まぁいっか。台所に向かう先輩を見て、涙をぬぐった。


 なんだか、台所に人が立っている光景、久しぶりに見たなぁ。

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