後10カ月~不安しかない登山~
この学校に入った生徒は皆、一度は疑問に思うことがある。なぜ創立記念に登山するんだ?と。
建国記念の日が祝日なら、学校の創立記念日も休みでいいと思う。それか普通に授業か。どうして…どうして、よりによって登山とかいうハードイベントになるんだろうか。
と思いつつ、コンクリートから土に足場が変わって数分、そろそろ限界を迎えていた。精神面で。
「胸が大きい子は大変そうだけど、君はそうじゃなくてよかったね」
このセクハラジジイが。おっと失礼。このアウトな発言を繰り返している教師が、眞白先輩の言っていた新しく着任した現国の先生だ。一番後ろでゆっくり登っていたら、絡まれました。
「はぁ…」
思わずため息が零れたのは仕方がないと思う。というか、体調悪くなるまでずっとこのままなのかな。なにそれ地獄。
「あれ、なんで澄野がいるんだ?」
「あ、眞白先輩」
気が遠くなりかけていたところ、不意に後ろから声が掛けられた。振り向くと、ジャージを着崩したサボり魔先輩がいた。
「今日は体調が良いのと、熱血体育教師が少しだけでも参加しろとうるさくて…」
「上に訴えてもいいんじゃね」
「でも他の生徒には結構好かれているので。そういう先輩はなぜここに?」
出発順は3年1年2年だったはず。しかも私はその中でもぶっちぎりで後ろなので、さらに後ろから眞白先輩が来るとは思わなかった。
「サボりたくて逃げ回っていたら、教頭に捕まった」
「まさかの登場人物にびっくりしました」
「一回世話になって以降、見張られ…監視されているんだよね」
「何したんですか…」
しかもそれ言い直した方が酷くなってません?教頭先生に監視されるって何をどうやったらそうなるんだろう…。
「不良から喫煙の冤罪を吹っ掛けられた」
「結構やばいやつじゃないですか!?」
下手したら退学…いや、下手しなくても退学だよ!?まぁ、今ここに居るってことは無罪を証明できたんだろうけど。
「それよりも大丈夫か?浮かない顔していたけど」
「登山自体乗り気じゃないので…。あと、セクのハラが」
問題の現国の先生をチラッと見て、声を潜めて答える。先生は眞白先輩が話しかけたあたりから、後ろに下がっていた。
「そんなところだろうと思った。声かけて良かったわ」
「…ありがとうございます」
また、先輩に助けてもらっちゃった。眞白先輩って本当に優しい。現国の先生、結構嫌っていたのに…。
「澄野はどこまで登るんだ?」
「限界が来るまでですかね」
「限界来る前に教えろよ」
「はーい」
オカンかな?という疑問は胸の中に仕舞った。今ここで機嫌を損ねたら置いて行かれるかもしれない。そうなったらまたクソ教師の相手をしないといけなくなる。それは避けたい。
「も、もう無理です…」
眞白先輩と一緒に登る事1時間。頭と喉と足が痛くなり、お腹が気持ち悪くなった。そろそろ限界らしい。
「もうすぐ山頂だよ。いけるいける」
後ろの現国の教師がそんなことを言ってくる。でも、無理なものは無理なんですぅ…!
「…おぶっていこうか」
心配そうに私を見ていた先輩の口から、何やら聞き覚えのあるワードが飛び出した。
「山道はさすがに危ないですよ」
「大丈夫。せっかくここまで来たんだから、一緒に頂上行こうぜ」
「…では、お願いします」
他の生徒もいないから目立たないし、何より去年途中でリタイアしたのもあって、山頂に行ってみたい気持ちが勝った。
私の前にしゃがんだ先輩の背中に体を預けると、先輩はサクッと立ってどんどん歩いていく。
あぁ、そっか。私のスペースに合わせてくれていたんだ。少し考えればわかるはずなのに、全然気づいていなかった。先輩からすれば相当遅かったんだろうなぁ。
初めて山頂から見た景色は、とても綺麗だった。