後11カ月~逃げられない持久走~
4月。始まったばかりの体育といえば、体力測定である。
「今年度から持久走になった。休みとリタイアは昼休みに再度行うから、頑張るように」
熱血根性の先生の言葉に周りの生徒から不満の声が上がる。
「持久走…」
シャトルランで良かったじゃん。なんで変えたんですか!?シャトルランは残れば残るほど目立つ。なおかつ自分の好きなタイミングでやめれるから、体調管理しやすかったのに…!
私、この授業が終わった時に、立っていられるかなぁ。
しかもリタイアは昼休みって…タイム遅くても目立つし、昼休み走るのも目立つし、これもしかしなくても逃げ場ないね?
「はぁ…」
この先生は何が何でもやらせるだろうし、覚悟を決めて走るしかない。後半に。前半に走ってみ?残り時間地獄だから。
「出席番号順で二人組作って、どちらが最初に走るか決めるように」
出席番号順ね。私は前の子か。前の子、たしか桜ひよりちゃんだったよね。ゆるふわボブで可愛い印象がある。
「よろしくね、澄野ちゃん」
「うん、よろしくね」
桜ちゃん、声質もゆるふわで可愛い…!これは男子からモテモテなんじゃない?私が男子だったら告白している。
「早速だけど、前半と後半どうする?」
「後半走ってもいいかな。心の準備がまだ…」
「ふふっ、いいよ~。じゃあ私サクッと走って来るね」
「頑張って」
桜ちゃんはそう言うと、軽い足取りでスタート地点に向かっていった。絶対運動できるタイプだ。顔も良くて運動もできるとはこれいかに。
「よーし、今日の授業はここまで」
「ありがとうございました」
お、終わったー…。もう、もう無理。立てない。口呼吸で喉は痛いし、頭はガンガンするし、脇腹も足もちゃんと痛い。
「澄野ちゃん大丈夫?」
颯爽と走り切った桜ちゃんが、いまだに座っている私を心配して聞いてきてくれた。天使か…?ちなみに私はビリから3番目だ。頑張った。
「大丈夫。もうちょっと休憩してから教室行くよ」
「わかった」
そう言うと、おそらく待たせていたのであろう友人たちと仲良く話しながら教室に戻っていった。
友人…友人かぁ。そういえば始業式とその次の日休んだせいで友人いないんだよなぁ。
「うぇ…」
頭から足まで痛いとか、何この痛みのパーフェクト。ちなみに手は若干痺れてます。フルコンボだど
「よっ、澄野」
「あ、眞白先輩…」
“ん”を言い終わる前に、上から声が降ってきた。顔を上げるとサボり魔先輩がいた。
「グラウンドに座り込んでどうしたんだ?」
「さっき持久走だったんです」
「ああ、なるほど。立てそうか?」
「今立てるまで回復中です」
「つまり立てないんだな」
そうとも言う…という言葉を頭の中で思い浮かべながら、もう一度膝に頭を付けた。首を起こしておくのも辛い。
「ほら、保健室まで行くぞ」
「え…?」
眞白先輩の言葉にもう一度顔を上げると、先輩は背中を向けて片膝を地面につけていた。
「おぶっていく」
「それは目立つ…」
「グラウンドに一人だけ座り込んでいるのも目立つと思うが」
「それもそうですね…ではお言葉に甘えて」
よいしょ…と全身にもう一回力を入れて、体を動かす。眞白先輩の背中にもたれかかると、先輩は軽々と立ち上がった。案外力持ちなんだ…。あれか、引き締まってるタイプの細身か。
「というか、なんでここに…?」
「授業終わって教室に戻ったら、外で知ってるやつが座り込んでた」
「サボってたんですね…」
「もちろん」
そんなにあっけらかんと肯定しないでほしいような…。でも悲しきかな、過去2回は先輩がサボり魔だったからこそ助かったんだよね。
「でも、ありがとうございます」
サボっていたことは一旦置いておいて、今回は前とは違い、わざわざ助けに来てくれたんだよね。眞白先輩って結構優しい。
「そういや持久走どうだったんだ?」
「ワースト3位です。頑張りました」
「それは頑張ったな」
結局だいぶ遅れてのゴールだったので目立ったし、散々だった。でもまぁ、無事に乗り越えたということで良しとしよう。




