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サボり魔先輩に恋に落ちるまで  作者: 春夜もこ
2/17

後11カ月~気が重い遅刻~

 皆さんも記憶にないだろうか。遅れて教室に入った時に向けられる無数の視線の居心地悪さを。私?もちろんいっぱいある。なんなら今からするつもりだ。


「はぁ…気が重い」


 朝起きて、とんでもない眩暈に襲われた私は、遅刻を決意した。ちゃんと連絡はしたけどね。そして眩暈が治まったので学校に出てきたはいいものの…まあ普通に授業中である。いやー、しんどいな、これ。目立ちたくない。


 教室に行かなきゃいけないとはいえ、行こうか行くまいか靴箱で右往左往していると、ふと左側に人が見えた。


 この学校は建物が3つあり、真ん中が教室棟、図書館と理系教科の教室がある西棟、文系や芸術系教科の教室がある東棟に分かれている。そして人がいたのは、西棟の階段だった。


「あれ、あの人は…」


 階段に座り教科書を読んでいるのは、先月の卒業式でサボるついでに助けてくれた眞白先輩だった。


「綺麗…」


 あの時は体調が悪かったこともあって、顔をじっくり見る余裕はなかった。だからこそ、今初めてしっかり見たけど、この人かなりの美形だ。そして本を読む姿が様になりすぎてる。もうこれ一つの作品じゃない…?読んでるの教科書だけど。授業出なよ。


「あ、あの~…」


 そういえばまだあの時のお礼を言ってなかったなと思い、勇気を出して声を掛ける。大丈夫、授業中に教室に入るより難易度は低いから。


「ん?あぁ、あの時の」


 眞白先輩は教科書から顔を上げてこちらを見た。真正面から見ても圧倒的な顔面すごすぎない?


「卒業式の時は先生を呼んできていただき、ありがとうございました」

「別に…サボるついでだって言っただろ」

「それでも助かったことに変わりありませんから」

「そうか」


 そして流れる無言の時間。眞白先輩は教科書に視線を落とした。


 そろそろ教室に行くか…。いや、でもあの視線はちょっと…。たくさん経験してるなら慣れないのかって?慣れません。


「はぁ…」

「どうした?」


 思わずため息を吐くと、眞白先輩が再び教科書から顔を上げた。


「遅れて教室に入るの、嫌だなぁと」

「ああ、わかる。というか何で今日遅れたんだ?」

「眩暈が酷かったんです」


 完全に不可抗力である。この虚弱体質が恨めしい。


「大丈夫なのか?まだ顔色悪そうだけど」

「耐えれる眩暈は眩暈に含まれないんですよ」

「いや、含まれるが」

「というのは嘘です。実は今から教室に行くので緊張して」


 もう緊張からお腹が痛いです。眩暈の次はお腹とか災難。


「授業終わるまでここにいたら?」


 強敵と格闘していると、不意に眞白先輩がそんなことを言ってきた。


「え、でも…」


 めちゃくちゃありがたいお言葉だけど、果たしてそれはしていいのか…?


「あと20分遅くなろうが変わんねぇよ」

「それもそうですね」


 遅刻に変わりはないし、それなら授業が終わるまで待っててもいいかも。あと50分だったら話は変わるけど、20分だし。電車一本分くらい誤差だよね。私は徒歩通学だけど。


「えっと、失礼します」


 恐る恐る眞白先輩の隣に腰掛ける。といっても間隔は空いてるけど。


「お前、案外優等生じゃないのな」

「眞白先輩に言われたくないような…」


 先輩、今絶賛サボり中だよね?それに、逃げ道が用意されたら逃げるに決まってるじゃない。


「あれ、俺の名前知ってんだ」

「卒業式に先生が呼んでいたので」

「ああ…改めて、3年A組の眞白雪だ」


 おぉ…眞白って苗字だったんだ。眞白雪か、良い名前。


「私は澄野瀬名です。奇遇ですね、私は2年A組なんですよ」

「ということは理系か」

「そうですね」


 AからCは理系クラスで、DからFが文系クラスに分かれているのは学年共通だ。眞白先輩、理系だったんだ。今読んでる教科書、現代文だけど。


「先輩はどうしてサボっているんですか?」

「現代文の担当が気に入らない」


 思ったよりちゃんとした理由だった。ん?ちゃんとした理由…?そういえば、国語科に新しい先生が入ってきていたっけ。うちのクラスは担当が違ったからすっかり忘れていた。


「どこが気に入らないんですか?」

「間違えたら馬鹿にしてくるところとか。あと、女子を舐め回すように見てるとこ」

「うわぁ…先生違って良かったです」


 そんな先生耐えられない。というか、今どきそんな先生いるんだ…。保護者に怒られない?母の友人の学校の先生、つねに保護者を恐れていたけど。


「まぁ、そんなわけで現国はサボることにしたんだよ。澄野は苦手な先生とかいる?」

「体育の先生は苦手かもしれません…熱血根性論が大好きなので…」


 何度体調不良を訴えて無視されたことか。そして何度授業終わりに保健室に駆け込んだことか。倒れなかっただけ褒めてほしい。


「ああ、あの先生か」

「眞白先輩は他にもサボっている授業あるんですか?」

「ほぼ毎回サボるのは現国だけで、あとは気分だな」

「あるんですね…」


 どうやら私を助けてくれた先輩はちゃんとサボり魔らしい。これからは親しみを込めてサボり魔先輩と呼んでいこうと思う。


「だからまぁ、たまに会うかもな」


 そう言って先輩が教科書を閉じて立ち上がった瞬間、チャイムが鳴った。高い。え、これ身長180くらいない?


「その時は話しましょうね!あと、ありがとうございます」

「おう」


 私も立ち上がり、先輩とは別の方向に歩みを進めた。

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