後1カ月~感謝のバレンタイン~
2月14日。それは恋心を募らせる女子と、もしかしてと自意識過剰な男子がソワソワする日である。
だけど私の感覚は、世間一般と少しずれていた。というのも、今までずっと母とチョコを交換し合っていたので、お世話になっている人に渡すという色が強かったからだ。
「眞白先輩、好きです。受験終わった後でいいので、付き合ってください」
だからまさか、先輩を探していたらこんな場面に出くわして、頭が混乱するのも無理はないと思う。
そういえば、バレンタインって好きな人にチョコを渡す日でもありましたね…。
確かたまに告白されるって言っていたっけ。本当だったんだ…。チラッと見る感じ、告白している女子は1年生のようだ。
「ごめん無理」
わぁ、この人普通に振った。というか、振り方素っ気なさすぎる。これは女の子が可哀そう。私ですら、ごめんなさい無理ですって言うのに。…あれ、一緒じゃない?
自分の振り方に自分でショックを受けて反省していると、女の子が改めて話しかけた。
「何でですか?好きな人でもいるんですか?もしかしてもう彼女さんが…!?」
お、おおう…すごいね、そのガッツ。嫌いじゃないよ。それに私もその質問はちょっと気になる。今まで彼女はいなくても、好きな人くらいできたことあるはず。
「好きな人がいる。これでわかってくれるか?」
「はい…ありがとうございました…」
女の子は泣きそうな声をしながら、その場を離れて行った。
「好きな人いたんですね」
「何で澄野がいんの…しかも聞かれてるし」
女の子と入れ替わるように話しかけると、眞白先輩が気まずそうな表情を浮かべた。
「チョコ持ってきました」
「え、もしかして告白?」
「違いますよ。後、今年は自分からしないと決めています」
おみくじに書いてあったもんね。自分から動かない方が吉って。まぁ、元々自分から動く事なんてないんだけど。
私は手に持っていた小さな紙袋を眞白先輩に渡す。
「日頃の感謝の気持ちを込めて、です。いつも何かと気にかけてくれて、ありがとうございます」
「お前、本当に律儀だよな。ありがとう」
先輩は気まずそうな顔から一転して、笑顔で受け取ってくれた。
「そういえば、好きな人って誰ですか?私が知っている人?」
「それはお前の交友関係の狭さを自覚してから言ってくれ」
「うわ、ひどいですね」
確かに今まではいつも一人だったけど、この学年では桜ちゃんというとても良い子と仲良くなれた。そして桜ちゃんを通じて他にも何人かと話すようになったのだ。全然ボッチじゃない。
「でも、先輩に好きな人がいるということは、私すごく迷惑でしたよね…」
イベントも日常生活も、私がいたせいでその子にアプローチできなかったはず。これは申し訳ないことをした。しかも、周りから付き合っているんじゃないかと疑われているみたいだし。もうこれ先輩がその人に当たっても砕けるだけでは?
「お前は本当に…いや、何でもない。それに俺が自分からやったことだから気にするな」
「はい…」
過去の自分を反省して少し落ち込んでいると、先輩が優しく頭を撫でてくれた。そういうとこだぞ?と思ったけど、ぬくもりを手放したくなくて素直に受け入れた。
「お前は何も気にしなくていい。そのうちわかるから」
「そうですか。じゃあ、その日を楽しみにしていますね」
眞白先輩の門出だ。しっかりお祝いしなくては。そしてそのついでに彼女さんに謝ろう。うん、計画ばっちり。
「ところで、何で先輩は学校にいるんですか?」
ふと思った疑問を口に出す。まぁ、居ると思ってチョコを渡すために探した私が言う事じゃないけど。でもよくよく考えると、3年生はもう自由登校だよね?
「進路決まってない人は、自習と言う名の強制登校なんだよね」
「そうだったんですか。…どんまいです」
「まぁ、こうして澄野からチョコ貰えたし、悪い事ばかりじゃないな」
「それは渡した甲斐がありました」
またすぐそうやって嬉しいことを言う…。この調子で口説かれたら、その好きな子も案外コロッと落ちるかも。その時は私もちゃんと弁えるので安心してほしい。
あ、そっか。眞白先輩に彼女ができたら、今までみたいに接することはできなくなるのか。
「先輩」
「どうした?」
「当たって砕けろ、です」
「砕ける前提で言うな」
この関係が終わるのは、ちょっと嫌だなぁなんて。ふとそんなことを思った。