後2カ月~いつもと違う初詣~
一年なんてあっという間なことで、年が明けました。
大晦日というと、子どもの頃に母から唯一夜更かしを許された日だったっけ。今は0時すぎに寝ることも少なくないので、あまり特別感はしないけど。でも、年が明ける瞬間はいつになってもワクワクする。
『明けましておめでとう。帰れなくてごめんね』
『おめでとう。大丈夫だよ!お仕事頑張って』
海外に赴任した母は、今年は帰ってこれなかった。何やら仕事が順調で忙しいらしい。寂しくないと言えば嘘になるけど、夢を叶えて頑張っている母を憎むことはできなかった。私が海外を勧めたのもあるし。
『あけおめ』
『あけおめです。今年もよろしくお願いします』
母との会話を閉じると、サボり魔先輩から連絡が来ていたことに気づき、慌てて返事をする。
『体調どう?』
『良いです』
『じゃあさ、朝起きても大丈夫そうなら初詣に行こう』
母へ。どうやら今年のお正月は寂しくならないようです。
「おはようございます」
「おはよう。お、マフラー付けてくれたんだな」
朝起きて、体調が変わらず良かった私は、眞白先輩からもらったマフラーをつけて指定された神社に来た。
「隣町にこんな神社があったんですね」
「まぁな」
先輩の住む町にある神社は、結構有名らしく、たくさん人が来ていた。
「いつも近所の小さい神社だったので新鮮です。食べ物もある…」
「後で買って食べるか」
「そうですね」
今後の予定を立てつつ、参拝の列に並ぶ。結構待ち時間がありそうだった。
「寒くないか?」
「マフラーのおかげで暖かいですよ。それにカイロも持ってきました」
そう言って、コートの中から見せびらかすようにカイロを二つ取り出す。開けてからしばらく経ったので、随分と温かくなっていた。むしろ、ここまでくると熱い。
「貼るカイロは?」
「もちろんしてます」
「完璧だな」
眞白先輩は満足そうに頷いた。自分でできる限り体調には気を遣っていますからね。それに初詣が原因で体調崩したなんてことになりたくない。ただでさえ先輩は受験前なんだから。無駄な心労は省きたい。
「そういえば、いつも何祈ってるんだ?」
「たくさん動ける日がありますように、です」
「思ったより切実だった」
ただ、毎年あまり体調は変わらない気もするけど。でも毎回同じことを祈っているし、もしかしたら常に良い状態なのかもしれない。
「先輩は?」
「たくさんサボれますように」
「うわ…」
それ、神様にお祈りすること…?先輩、自分の気分1つですぐにサボるのに。あ、でも教頭に捕まったり、クラスメイトと取引したりしていたっけ。なら、その回数が減るとかの効果がありそう。去年の体育祭、200メートル走出ていたけど。
「お、次か」
「案外早いんですね」
「まぁ、数秒しか掛からないからな」
二礼二拍一礼だし、飲食店やアトラクションに比べたら早いのも頷ける。眞白先輩と並ぶのが全然苦痛じゃないことも大きいかも。のんびり話せるし。
私たちの番がやってきたので、お賽銭を投げて二礼二拍。心の中でお願いをして、一礼。先輩の方を見ると、丁度同じタイミングで終わったのか目があった。
「おみくじ引くか」
「いいですね」
横に捌けて、おみくじ売り場に移動する。お金を入れておみくじを引き、ゆっくりと開いた。
「どうだった?」
「小吉です。先輩はどうでした?」
「大吉」
眞白先輩はドヤ顔で、大吉のおみくじを見せてきた。ちょっとウザい。というか何、運勢まで良いの?天はこの人に味方しすぎじゃない?サボり魔なのに。
まぁ小吉も悪いわけじゃないけど。そう思って書いてあることを読む。何かすごく微妙だった。恋愛面、自分から動かない方が吉。もしかして、初めて恋人ができて悲惨に振られたあの年の運勢、凶だったのかもしれない。今は作らない方がいいでしょう、みたいな。
おみくじを指定の場所に結んで、屋台の方に歩き出す。美味しそうな匂いがしてきた。
「そういえば、澄野は今年も同じ願い事をしたのか?」
「今年は変えました」
「じゃあ何だ?」
「内緒です」
自分の体調よりも、優先したいことができた。もちろん体調も大事なんだけどね。ただ、眞白先輩には言いたくないなぁ。だって願い事の中に眞白先輩も含まれるから。
『大切な人たちの願いが叶いますように』
つまり、母は仕事が成功して、眞白先輩は受験に受かりますように、ということだ。良い感じにまとめられて我ながら満足している。
「雪…」
何とか聞き出そうとする先輩をあしらっていると、チラチラと雪が降り始めた。
「びっくりした。今名前呼ばれたかと思った」
「そういえば名前雪でしたね」
眞白雪。なんだか声に出して読みたい日本語みたい。響きが良いよなぁ。
それにしても、雪の名前を持つ眞白先輩と一緒にいる時に雪が降るって、なんだか不思議な感じ。そして紛らわしい。
「今気づいたんですけど、私たち名前五文字仲間だったんですね」
「本当に気づくの遅いな」
「先輩との共通点があって、ちょっと嬉しいです」
何でもできる先輩と、何もできない私。サボり癖を除けば雲の上のような人とよく仲良くなったものだと思っていたけど、ちゃんと共通点があって安心した。
そう素直な感想を告げると、眞白先輩は手で額を抑えた。
「お前ってそういうところあるよな」
「え、もしかして失礼でした?」
「違う違う。ストレートな感想が可愛いなと思っただけだ」
そういう先輩もストレート…!という感想を何とか飲み込んだ。なるほど、こういう感じなんだ。結構恥ずかしい。はい、これから気を付けます…いや待て、可愛いと嬉しいはベクトルが違う気がするんだけど。
「ま、雪も降り始めたし屋台で何か買って帰るか。家まで送るよ」
「ありがとうございます」
夏祭りの時も遊園地の時も送迎を断れなかったことを思い出し、今回は素直に応じた。結構こういうところ、譲ってくれないんだよね。相変わらず優しいんだから。




