後3カ月~応援のクリスマス~
クリスマスイブは、クリスマスの前日じゃなくて、クリスマスの夜という意味らしい。昔は一日の始まりが夜だったので、そうなったとか。
『今日体調どう?』
『悪いです』
『そっか。看病しに行こうか?』
『勉強してください』
ふと、一昨日サボり魔先輩と交わしたメッセージを見る。残念ながら今年のクリスマスは両日とも体調不良で寝ていた。これが本当のクルシミマス。リア充っぽいことをする人はいないけど、せめてコンビニでショートケーキを買うとかして楽しみたかった。
26日。朝起きてずいぶんと体調が良くなっていた私は、お風呂に入った後、先輩との短いやり取りを見つつ、ぼーっとしていた。
「せっかくプレゼント買ったのになぁ」
クリスマスは丁度学校だった。だからこそ、お世話になっているお礼として、眞白先輩にプレゼントを買っていた。だけど渡さず仕舞いということで…自分で使おうかな。
その時だった。
ピンポーン。静かな部屋の中に、インターホンが鳴り響いた。
「はーい」
何かネットで注文していたっけ?なんて記憶を掘り返しながらドアを開けると、そこには眞白先輩がいた。
「せめてチェーンを付けたまま開けよう。危ないから」
「あ、はい。…なんでここに?」
「そろそろ体調良くなったかなと思って。クリスマスパーティーしようぜ」
先輩の言葉に思考が一瞬止まる。え、クリスマスパーティー?クリスマス昨日ですけど。というツッコミはさておき、寒い外にずっと居させるわけにはいかないので部屋に上げた。
「体調どう?」
「だいぶましになりました」
洗面所から余っているハンガーを持ってきて眞白先輩からアウターを受け取る。コートだし、皺を付けるわけにはいかない。
それにしても、起きてすぐ風呂に入っておいて良かった。丸二日入っていない状態で会うのはさすがに耐えられない。
「せめて連絡ください」
「連絡入れたら勉強って言われるしな。サプライズ」
「身支度とかあるんですぅ」
風呂に入ったとはいえ、今はスウェットだ。せめて普通の服に着替える時間くらいほしい。
「わかったわかった。今度からはちゃんと入れるわ」
口を尖らせて不満の述べると、意外にも先輩はあっさり受け入れてくれた。
「何買って来たんですか?」
この話は終わりとばかりに、話題を切り替える。さっきから机に置かれた大きい袋が気になってしょうがない。
「鍋の材料とケーキ。あ、最後に雑炊できるように白米も買ってきた」
「鍋パですか」
おそらく、病み上がりの私に考慮してあっさりしたものを買ってきたんだろう。袋の中に入っていた鍋の素はしょうゆ味だった。このメーカーのやつ、あっさりしてて好きなんだよね。やっぱり先輩って保護者…。
「鍋ある?」
「二人用の土鍋があります」
一回でたくさん作って、二日掛けて食べる。私の中の鍋の基本だった。あと、コンロの火がはみ出ないようにしているのもある。
「丁度いいじゃん。俺作るから休んでて」
「え、悪いですよ」
「大丈夫大丈夫。鍋に入れて煮込むだけだし、あらかじめカット野菜を買って来たから」
「じゃあ、お願いします」
眞白先輩の厚意に甘えることにした私は、そのままベッドの上に座った。そしてキッチンを見る。自分以外がキッチンに立っている光景を見るのは、6月の看病以来だった。
「いただきます」
眞白先輩が台所に立つこと数分。完成した鍋を机に運んでもらって、私たちはご飯を食べ始めた。
「ん、美味しいです」
「良かった。といっても市販のやつだけどな」
「でも、自分で作るより美味しく感じます」
素直な感想を口にすると、先輩は嬉しそうにはにかんだ。
そんな表情もできるんだ。なんかちょっと可愛い。でも本当に美味しく感じるんだよなぁ。同じ調味料を使っても、親と自分の手料理の味が違うのと似ている。
「たくさん食べろよ」
「…オカン」
「誰がオカンだ」
軽口を言いながらも、人と食べる夕飯は楽しくて、私は二日ぶりにお腹いっぱい食べることができた。
あの後、2人で鍋とお皿を片づけた。そして今、目の前のケーキを食べようとしていたところで、プレゼントを買っていたことを思い出した。
「先輩。これ、いつもお世話になっているお礼です」
収納棚の一番上に置いていた紙袋を取ってきて、眞白先輩に渡す。
「ありがとう」
先輩は驚きつつも受け取ってくれた。中を見ていいか聞かれたので、小さく頷く。
「入浴剤?」
「はい。今年の冬は例年より寒いらしいので、風邪ひかないようにと思って」
この時期に受験生が風邪を引くのは良くない。ラストスパートだと聞くし…。眞白先輩の学力なら、多少休んだところで大丈夫なんだろうけど、念には念をだ。
それに、最近はサボり場に階段ではなく図書室を使っているみたいだし、本人も気を遣っている気がする。
「チョイスが澄野らしい。ありがたく使うわ」
「しかもそれ結構良いやつですからね」
「それは楽しみだ」
楽しそうに笑う先輩を見て、体調が良い日にわざわざデパートの雑貨屋に行って良かったと胸を撫でおろす。自分用にも数個買ったから、今度使ってみよう。
「実は俺からもあるんだよね」
「えっ」
眞白先輩はそう言って、自分の鞄の中から包装された箱を取り出した。
「はい」
「ありがとうございます」
開けていいか確認を取ってから、丁寧に包装紙を剥がしていく。箱を開けると、深い赤のマフラーが畳んであった。
「それ、カシミヤのマフラーだから温かいと思うわ」
「カシミヤって結構高いですよ!?」
「4桁だから気にするな」
4桁でも絶対1万に近い方の4桁だよね…!?まさか、そんな高価なものを渡されるとは思っていなかったからびっくりした。でもありがたい…。今のマフラー、温かいけど草臥れてきていたんだよね。
「お前が体調崩すよりましだ」
先輩の優しさが、病み上がりで少し不安定だった心に染みた。先輩はいつも私の体調を最優先にしてくれる。それがとても嬉しかった。
「何泣きそうになってんの」
私の顔を見た眞白先輩は、優しく言葉を掛けてくれて、その後頭を撫でてくれた。手の平の温かさに、私は涙をこらえきれずに零した。
「日頃の感謝と、受験の応援をしようと思っていたのに」
泣き止んだ私は、少し不貞腐れながらケーキを食べていた。
「その気持ちはちゃんと受け取っているから大丈夫」
「でも結局私が元気づけられたような気がします」
「お互い様ってことだな」
カラカラと笑う先輩を見て、本当に卒業までに弄れるのかなぁと一抹の不安がよぎる。いつも一枚上手なんだよね。1歳しか違わないのに、この差は何だろう。
「遅めのクリパ、楽しかったか?」
「はい、とても。ありがとうございます」
「なら良かった」




