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サボり魔先輩に恋に落ちるまで  作者: 春夜もこ
12/17

後4か月~トラウマの球技大会~

 運動音痴が憂鬱な学校イベントのひとつ、クラス対抗球技大会。おそらく、体育祭よりも嫌な人が多いんじゃないだろうか。少なくとも、私は登山と同じくらい嫌だった。それに11月にやるものでもないと思う。体育館寒いし。


「相変わらず、浮かない顔をしてるな」

「あ、先輩おはようございます」


 寒いなぁと腕をさすっていると、不意に横から声を掛けられた。そこにはサボり魔先輩がいた。あ、今回はちゃんといるんだ。教頭先生にでも捕まったのか、クラスメイトと何か取引したのか。運動できるし、後者だろうなぁ。


「もしかしてバレー苦手?」

「運動全般ダメです。それにバレーはちょっとトラウマが…」


 この学校の球技大会は、男子がバスケットボール、女子がバレーボールで競う事が決まっている。体育館が無駄に広いので、どっちも室内競技だった。

 ちなみ自分のクラスを応援できるように、男女で分けるのではなくて、3年生と2年が第一体育館、1年生が第二体育館で分かれている。第二体育館はここと違って小さい。たぶん、前の体育館を取り壊さずに残しているんだと思う。


「何かあったのか?」

「ボールとの距離感を誤って、顔面で受け止めました」


 ちゃんと鼻血が出たよね。思い出しただけで羞恥心と鼻が痛くなってきた。今年はそんなことになりたくない。だけど、ボールは容赦なく飛んでくる。サーブ?入ったことないですね。


「ははっ、それは見たかったわ」

「ひどい…体育館違って良かったです」


 先輩が楽しそうに笑う。でも、実際その場面に出くわしたら、眞白先輩は心配してくれそう。なんだかんだ優しいし。


「今年は気を付けろよ。後これ着とけ」


 先輩はそう言って、自分の着ていたジャージの上を脱いで渡してくれた。寒くて腕をさすっていたの、ちゃんと見ていたんだ。


「え、いいですよ。さすがに悪いです」

「長袖着てるし平気。それよりも澄野が体調崩す方が心配」

「受験生に風邪ひかれるのも困るんですけど。…でも、ありがとうございます」


 寒いのは事実だし、せっかくの厚意を無駄にもしたくなくて、ありがたくジャージを受け取って羽織る。さっきまで先輩が着ていたのもあって、温かかった。


「じゃ俺この後試合だから行くわ。頑張れよ」

「はい。先輩も頑張ってくださいね」


 眞白先輩はひらりと手を振って、バスケコートの方に歩いて行った。そういえば、こことバスケコートって結構距離あるんだった。え、ということはわざわざ寒そうにしているのを見つけて来てくれたってこと?この人の多さの中?


 眞白先輩は今日も優しい…。






「ナイス!」


 バスケの試合が始まったのか、向こうのコートで歓声が上がる。そういえば、この後試合って言っていたよね…と思い出し、バスケコートの方に視線を向ける。するとそこには、丁度ドリブルで相手を抜いた眞白先輩が目に入った。


「本当に何でもできるんだ…」


 基本的に運動できるけど、球技だけダメな人は存在する。私も先輩はそのタイプなんじゃないかと期待したんだけど、無駄だったようだ。


「澄野ちゃんの先輩すごいね。今抜いたの元バスケ部だよ」


 桜ちゃんがちょっとした情報を言いつつ、隣に来てくれた。


「え、本職より上手って何…?」

「本当にすごいよね」


 なるほど、これはクラスメイトが何としてもサボらせないようにするわけだ。だって今見ているだけでも、得点のほとんどは眞白先輩が取っていた。


「相手が可哀そうなくらい圧倒的だね…」

「噂によると、一年の時に一人で試合を壊したから、十分でメンバー全員交代っていうルールができたらしい」

「えぇ…」


 なんだそれぇ…。思わず引いた。え、本当に弱点ないの?卒業までに弄りたいという私の願望は?


「あ、次澄野ちゃんの番だよ」


 桜ちゃんの言葉に、目の前の試合に意識を戻す。そういえば、バレーは二年生からだった。


「うわ…サーブ無理…」

「ファイト!大丈夫、ギリギリまでネットに近付いて、思いっきり下から叩けば入るから。グーの方が飛ぶかも?」

「わ、わかった」


 そして、相手に取られた1点を取り返し、私はクラスメイトと交代してネットに入った。


 グーで叩く。グーで叩くね。


「澄野ちゃん、もっと前でいいよ」


 コートに入っていたバレー部の女の子が自分が居たポジションを指さす。


「うん」


 大人しく言う通りにしようと、前に出る。ボールをもらって、軽く浮かせる。そしてグーで下から叩いた。


 ボールは弧を描いて相手の陣地に落ちて行った。


 は、初めて入った…!よし、これで目立たない!コツも掴んだし、ありがとう桜ちゃん。


「ナイス!次も頑張れー!」

「へ?」


 右後ろに戻ろうとしたところ、再びバレー部の女の子からボールが渡された。


「相手が得点取るまでサーブだよ!」

「そ、そうなんだー…」


 そういえば、そんなルールだった。いつもミスしていたから、頭から抜けていた。私はもう一回緊張しながらボールを受け取った。






「上手でもない普通のサーブが謎に入りまくる現象あるじゃないですか」

「あるね」

「まさか自分が経験するとは思いませんでした」


 あの後、私は7回くらい連続でサーブをすることになった。目立った。最終的にミスしたしなおさら。でも自分のクラスが勝てたのは嬉しかった。

 という感想を、同じく試合が終わって来てくれた眞白先輩にしていた。


「丁度見てたわ。ナイスだったな」

「そういえば、先輩の試合見てましたよ。すごいですね」


 眞白先輩にも見られていたことを知って恥ずかしくなり、話題を逸らす。

 でも本当に本職抜いたり、一人で大量に点を取ったり、すごかったんだよなぁ。


「かっこよかった?」

「はい」

「さすがに二回目はダメか」


 先輩が残念そうに呟く。もうその手は通じませんよ。耐性付きました。一回経験すれば心構えができる。


「あ、さっきのでだいぶ温まったのでジャージ返します」

「最後まで着てていいよ。どうせ待ち時間にまた冷えるし、俺は全く寒くないし」

「ありがとうございます」


 じゃあ、お言葉に甘えて最後まで着ておこう。そして後日洗って変えそう。


「じゃあ俺また試合だから行くわ」

「出番多いですね?」

「一番始めって必然的に多くなるんだよ」

「なるほど。頑張ってください」


 眞白先輩のクラス、もしかして先輩に容赦ないな?団選抜リレーもそうだし、勝ちに貪欲すぎる。良いことだけど。






 結果球技大会は、私も眞白先輩のクラスも優勝した。得点王として表彰された先輩の面倒くさそうな顔はちょっと面白かった。

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